薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない

宮永レン

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第三章

3.(※)幸せな時間

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 まるで夢でも見ているかのようだった。



 心から好きだと思える相手に愛される幸せな時間。

 アルエットの知らない世界の扉を開いてくれた愛しい人に捧げる初めての瞬間。



(セヴラン、大好き……)



「リエル。できるだけ優しくする」



「優しくないって……言ってたのに」



「……ああ、そうだな。保証はできないとだけ言っておく」



 軽く苦笑してから、セヴランは隘路にわが身を沈めていく。指よりもはるかに太い剛直が蜜を絡ませながらアルエットの蜜襞を大きく拡げていった。



「あっ……ひぁ……っっ、やぁ……っ」



 火傷してしまいそうなほどの熱がひりひりとアルエットの体を焼いていく。最奥に向かって這入ってくる彼の圧倒的な質量に額にはうっすらと汗が浮いた。



 しかしながらその痛みが、はっきりと今セヴランと繋がっている証拠なのだと思うと涙が出そうなほど嬉しい。初めては痛いものだと褥の教本にも書いてあった。それを読んだ時はこわいとしか思わなかったが、こうして愛する人と一つになれるのだから、痛みをつらいとは感じなかった。



 ゆっくりと、だが確実にセヴランが最奥に到達して小さく嘆息する。アルエットも下腹部に違和感はあるものの、幸せに満ちた瞳で彼を見上げる。



「平気か、リエル?」



 静かに頭を撫でられ、その手が頬を包み込む。



「ええ。私、幸せ……」



 セヴランに繋がれて、囚われて、どこにも逃げられない。見方を変えればここにたしかな居場所ができたとも言える。



「リエル。自分のことよりも他人を気遣える優しさと人を疑わない純粋さに、俺は心が震えた。誰よりも守らなければいけない愛しい人を見つけたと思ったんだ」



「セヴラン……」



「だから、君を絶対に離したりしない」



 瑠璃色の隻眼で真っ直ぐに縫い留められる。偽りのない輝きに、アルエットは小さく頷いた。



 そのまま口づけを交わす。何度も角度を変えて互いの唇を求め、熱く深くなる。しなやかな舌が口腔に入ってきて、隅から隅まで舐め尽くされた。激しいキスで奥まで責められて、溺れるようなキスに短い呼吸をするのがやっとだった。飲み込みきれない唾液が口端から零れる。



「無理だったら、言ってくれ」



 そう言ってセヴランは上体を起こすと、アルエットの細腰を掴み、引き抜いた剛直を再び最奥に向かって穿った。



「ああぁっ……」



 鮮烈な衝撃が体の奥から頭の先まで走り、目の前に小さな星が散った。

 しかも、それは一度限りではなかった。波のように何度もひいては押し寄せる。動く度に熱も硬度も増していくのではと思うほど、セヴランの律動に視界が揺れた。



「あっあぁ――」



「く……っ、リエル、きつくて食い締められそうだ……」



 はじめはゆっくりだった律動が徐々に激しくなり、動きが速くなった。



「あぁ……あ、はぁ……ん!」



 何度も最奥を穿たれていると痛みと愉悦が入り混じった乱れた呼吸が、少しずつ喜悦の色に塗り替えられいく。

 たっぷりと潤った蜜襞がさらに奥へとセヴランを招き入れるように、ぐちゅぐちゅと淫らな音を立てて繋がった部分から愛蜜が溢れてきた。



「リエルーーもう、優しくできない」



 両手の指と指を絡ませて、ぴたりと体を押しつけてきたセヴランのかすれた色気のある声がアルエットの耳朶をくすぐる。



「セヴラン、好き。大好き……っ」



 目の前の事以外、何も考えられなかった。眩暈がするほどの激しい愉悦に酔いしれて、アルエットはありったけの声で啼いた。

 それに応えるようにアルエットの中で剛直がさらに膨らんだような気がした。また蜜襞が目いっぱい擦られて、震えに似た官能が立ち上ってくる。



「セヴランっ。私、また……っ」



「ああ……達くといい」



 そう言ってセヴランはさらに抉るように最奥を貫いてきた。

 激しく力強い衝動に揺さぶられて、アルエットは再び高みに押し上げられ、目の前に閃光が迸る。



 脱力した体からセヴランが熱棒を引き抜くと、ぶるっと震わせながらアルエットの薄い腹の上にたっぷりと白濁を吐精した。



 陶酔しきった瞳から涙を溢れさせたアルエットの意識がとぎれとぎれになって、しっかりと目を開けた頃にはもう雨が上がっていた。



「窓の外が見えるか?」



 隣に横になっていたセヴランの指先をたどると、そこには雨上がりの大きな虹がかかっていた。



「なんて綺麗なの……」



 感嘆のため息を漏らしたアルエットを引き寄せ、セヴランが額に口づけをくれる。逞しい腕の中で、アルエットは幸せな時間を噛みしめていた。
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