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13話  ★

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 隼人はよくわからないまま人生初の浣腸を終え、仙崎に連れられて彼が使っている部屋に入った。
 客室としてベッドと簡易テーブルがあるだけの簡素な部屋は、仙崎が使い始める前から何も変わっていない。部屋の隅に大きめなアタッシュケースがあるぐらいだ。
 しかしそのテーブルにあるものを見て、隼人は仙崎にすべて任せることにしたことを早くも後悔しかけた。

「…………これは――」
「アダルトグッズを使うのは初めてですか?」

 テーブルに並べられているのは色鮮やかな大人の玩具たち。黒や赤、ピンクといったものから、透明なものやリアルな肌色をしているものなど、さまざまな色や形をしたおもちゃが置かれていた。
 先崎の言う通り、隼人はアダルトグッズを使ったことがない。アダルトビデオの中で見たことがあるぐらいだ。

「こ、これ、使うの?」
「はい。隼人に限界まで気持ち良くなってもらうためには使う必要があります」

 問題はそこじゃない。
 あまり詳しくない隼人だがそれでも並べられているものの異様さはわかる。

(だって、これって――)

「あの……これ、女性向けのじゃないの?」

 テーブルに広がるおもちゃの形状はすべて男性器の形をしていた。形や色は少しずつ違うが、それでもこれらが入れて遊ぶものだということはわかる。

「すべてアナル用のおもちゃです。今回は後ろも楽しんでもらうために用意しました」
「っ!! そっちもするの!?」
「ええ、そのためにお腹の中を綺麗にしたんですよ。大丈夫、すべて初心者用のものです」

 隼人は仙崎の提案の内容について深く考えていなかった。
 いい笑顔でアダルトグッズを掴む仙崎を、隼人は唖然とした顔で見る。

(うわーー、やりたくね~~)

 いままで仙崎に言われるがまま従ってきたが、さすがにこれは遠慮したい。

「性の快楽は誰もが持っているものです。隼人さんには性欲について気負うことなく、そして楽しみながらコントロールできるようになって欲しいのです」
「俺もコントロールできたら嬉しいけど……」

 仙崎の言っていることは一理あると思う。
 だが断りたい気持ちが強い。
 
「大丈夫ですよ。私が必ず気持ち良くしてさしあげますから」
 
 そう話す仙崎は目がキラキラと輝いていて、今まで見てきたどの顔よりも楽しそうに見えた。きっと本職の仕事内容の範囲だから本領発揮できそうで嬉しいのだろう。
 そんな仙崎を相手にはなから嫌だ、と拒否するのは気が引ける。隼人は普段から仙崎に頼りっぱなしの生活になってきてしまっているのだ。ここは仙崎に花を持たせるために了承するべきなのだろうが……。

(遠回しにやりたくないって言うか……)

「俺、後ろなんて使ったことないし、ほんとに気持ち良くなるかわからないっていうか……」
「初めては不安ですよね。でも私が責任をもって隼人さんを極上の快楽にお連れしますよ」
「ええっと、そう。気持ち良くなるだけならオナホとか使えばいいんじゃない?」
「一応オナホールの用意はありますが、隼人さんの気持ち良いところは私が把握済みですので必要ないかと」
「……形とか見た目が怖いっていうか……」
「ああ! すみません、配慮が足りませんでした。では目隠しするのはいかがでしょう。お肌に優しいシルク製のものがありますよ」
「…………」

 駄目だ。なんだか圧が強い。
 断りきれない。

「隼人さん?」
「あっ、う、うん。そうしてもらおうかな」

 結局押し切られてしまった。
 遠回しに主張したつもりだったが、仙崎が引いてくれることははなかった。

(俺はいつもこうやってなんだかんだ流されてる気がする)

 今回だけでなく今までの人生いつもこんな感じだ。
 それもこれも嫌だときちんと言葉にしなかった隼人が悪い。
 隼人の脳内で、今まで断れずに面倒事を引き受けてしまった記憶が走馬灯のように蘇る。しかし仙崎に差し出された手によって詳しく思い出す前に現実に引き戻される。
 
「さあ、隼人さん。ベッドに腰をかけてください」

 隼人は促されるままベッドの端に腰を下ろす。仙崎は、不安と緊張で強張っている隼人のすぐ隣に腰を掛けるとそのまま隼人を抱き寄せる。

「隼人さんは初めてなのに一人でお腹の中を綺麗に出来て偉いですね。いろいろと驚いたでしょう」
「それは、まあ……」
「よく頑張りましたね」
「……うん」

 仙崎に抱きしめられながら、背中をポンポンと優しく撫でられて緊張の糸が緩んだ。彼に温かな言葉をかけられるととても安心する。自分の選択は間違っていなかったと思えるのだ。
 隼人が仙崎の首筋に顔をうずめると、彼の体温と香りで全身を包まれて満たされる。

「隼人さん。キスをしてもいいですか?」

 仙崎の低く甘い声に顔を上げると、熱を帯びた視線が隼人を釘付けにする。彼の深く吸い込まれてしまいそうな瞳から目をそらすことができない。
 隼人は無言で頷いて仙崎のキスを受け入れた。

「んっ、ん、……ん、んぅ」

 唇に感じる柔らかな触れ合い。まるで小鳥がついばむようなの軽いキスから始まり、次第に深く長いものに変わっていく。巧みな舌が隼人の舌を捕らえて、吸い上げて絡み合って濃密な快感を隼人に与えていく。
 
(キスってこんなエロいものだっけ……)

 キスが深くなるごとに身体の力が抜けてしまう。キスから生まれる甘い痺れは隼人を魅了した。
 
 もっと。
 もっとほしい。
 もっと深く味わいたい。
 
 頭の片隅で警鐘が鳴っている気もするが、この甘美な行為を止めるなんてできるわけがない。
 隼人は自分で姿勢を維持できなくなって、仙崎にすがりつくように体重を預けた。

「んん……、んっ。んうっ、あっ、せ、仙崎さ――、んっ、んんっ」

 キスに夢中になっていると服の下に仙崎の手が入り込む。彼の手は背中や腹を撫でながら少しずつ上がっていき、ついに胸の突起にたどり着く。

「んあっ!! あっ、はあっ、あっ……」

 仙崎の指は乳輪をくるくるとなぞり、固く主張し始めた先端を優しく弾く。

「んんんっ! あっ、ん、そこはっ……」
「敏感ですね。可愛いですよ」
 
 乳首なんて存在を意識したこともなかったのに、仙崎にいじられるたび隼人の身体はピクッと跳ねてしまう。
 ムズムズとした甘い感覚から無意識に身体が逃げようとする。しかし優しく摘まれて指の腹でコリコリと刺激されてしまう。

「あっ、あっ……、んんぅ! か、可愛いとか言わないでよ」
「本当のことですよ。隼人さんは魅力と可能性にあふれていて目が離せません」

 仙崎は隼人のTシャツをするりと脱がしてしまうと、隼人の乳首を口に含んだ。

「ああっ!! あっ、あっ!」

 胸を吸われて舐め上げられる。吸われていない方の乳首は指先でくすぐられて摘まれ弾かれる。そんな行為を敏感な突起に交互に与えられて、ぞくぞくと背筋が粟立ち膝に力が入らなくなる。まるでもっとと要求するように両方の先端が主張して勃ち上がってしまい、それを舌で可愛がられてときおり軽く甘噛されてしまっては今まで以上に我慢ができなくなる。

(これ、ヤバい……)
 
 仙崎に与えられる快感は、甘い痺れを身体全体へ伝播して隼人を翻弄する。まだキスと乳首をいじられているだけなのに、隼人のペニスはすでに固く反応してスボンを持ち上げてしまっていた。
 出したい。もう射精して楽になりたい。
 今までしてくれたように触って欲しい。

「あっ、あっ、せ、仙崎さん。もう……」
「イきたいですか?」

 隼人は顔を真っ赤にして頷いた。
 こんなにすぐにイきたくなるなんて恥ずかしすぎる。
 だがもう我慢できない。
 隼人の胸から顔を上げた仙崎は笑顔で隼人の首筋にキスをしながら諭す。

「では一度出してしまいましょう。隼人さんは我慢する必要はありません。たくさんイって自分の限界を知りましょうね」
「……うん」

 この行為はそれが目的だから、何度だって達してもかまわない。
 そう仙崎に告げられるが羞恥心は簡単には消えない。
 顔から火が出そうな熱さを感じながら、彼にベッドに優しく寝かされる。
 隼人の不安と恥ずかしさを和らげるように仙崎はまた濃厚なキスを与えてきた。
 舌を吸われ上顎の裏を舐め上げて、口内の敏感なところを余すことなく愛撫する。

「んうっ、ふう、あっ、んんっっ! はあ、はあ……。んんんっ!!」

 お互いの舌がじっくりねっとり絡み合うたびに濃厚な快感にさらされる。隼人がキスを味わっていると下着の中に仙崎の手が侵入する。

「あっ、んんっ、うんんっ! あっ、あっ!」

 仙崎は下着から引き出した隼人のソレをゆるゆる扱き上げる。隼人は快感から逃げを打ちそうになる身体を必死に抑えてシーツを握りしめた。そんな隼人を褒めるように彼は隼人にキスをしながらペニスの敏感なところを重点的に刺激する。
 裏筋をなぞりながら幹を扱かれて、先端を指の腹でくるくると撫で回される。さらに片手で乳首を弾かれてしまっては耐えられない。

「んんんっ! あっ、あっ、も、もういく! あっ、あああっ――」
 
 隼人は背中を大きく反らして勢いよく達してしまった。目の前がチカチカするほどの強い絶頂。深い快感は全身を走り抜け、隼人を甘くて気持ちのいい虚脱感に浸らせる。

「はあっ、はあっ、あっ」

 息も絶え絶えに隼人は四肢を投げ出してベッドに沈みきっていた。
 仙崎は隼人の脚に引っかかっていた下着を抜き取って、全裸になった隼人の肉体を食い入るように見つめてきた。

「脱衣所で一度見ていますが、やはり美しいですね。手足の長さ、程よくついた筋肉。しかしどこか成長しきっていない幼さも感じられる」

 隼人の身体の輪郭をゆっくりとなぞり、何一つ見落とさないとでも言うかのように隅々まで観察される。仙崎の瞳には狂おしいほどの熱がこもっているように見えた。

「きっと隼人さんの純粋な性格から醸し出されているのでしょう。芸能界という場所にいながらこの無垢さ。奇跡と言っても過言ではない。素晴らしい」
 
 何やら恥ずかしい言葉が次々に降ってくる。
 隼人は居たたまれなくなって手で顔を覆った。

「もう、言わないで……」
「ああ、すいません。私としたことがつい」
 
 仙崎が身体を起こすと何処からか黒い布を取り出した。

「ではそろそろ目隠しをしましょうか」
「……うん」

 そういえばそうだった。忘れかけていたが目隠しをすることを了承したのだった。
 見えているのと見えないのなら、見えないほうがいい。
 隼人は目を閉じて仙崎が目隠しをつけるのを大人しく受け入れる。そして肌触りのいい布によって隼人の視界は暗闇に閉ざされた。
 目隠しをつけ終わると仙崎は隼人の頭を撫でる。

「これはいつ取ってもいいですからね。隼人さんが嫌になったらいつでも外してください」
「うん」

 仙崎は隼人の額にキスをすると耳元で甘く囁く。

「それでは今からもっと気持ち良くなりましょうね」



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