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映画の撮影が終了して数日後、隼人は穏やかな日常を取り戻していた。
隼人が少しゆっくりしたいと仙崎にお願いして仕事の数を減らしていたのだ。
取材やモデルの仕事はあるものの、長時間拘束されてしまうような仕事がないおかげで隼人はゆっくりと気力を充電することができていた。
今日は仙崎と一緒に仕事終わりにスーパーに寄って、夕飯の食材を買い出し中だ。
「仙崎さん、人参あったよ。三本入りのこれでいい?」
「はい、ありがとうごさいます。隼人さん、今日は何を食べたいですか?」
「肉! でも脂っこくないのがいいな」
「では、赤身の肉を使いましょう。他は……そうですね。里芋が美味しそうなので煮物にしましょうか」
「煮物好き! あと卵焼きも食べたい!」
「卵は確か残り少なかったですね。持ってきてもらっていいですか?」
「オッケー、行ってくる」
隼人は仙崎と買い物をするこの時間が好きだ。
何を食べるのか一緒に考えて、食材を揃えて一緒に調理して食卓を囲む。そんな何気ない出来事が隼人に暖かなぬくもりを感じさせていた。
ふんふん、と鼻歌交じりに卵を探しに行く隼人はカップ麺売り場が目に入る。
以前は料理なんて手間がかかる割にすぐに食べ終わってしまう面倒くさいものだと思っていた。だから隼人は食事をカップ麺ですませていたし、時にはお湯を沸かすのさえ面倒でカロリーメイトだけですませていた。
「最近はほんとにインスタント食品を食べなくなったな」
今でもカップ麺は大好きだが、仙崎がいつも料理を作ってくれているので買い足すことがなくなった。
隼人も作ってもらうばかりなのは申し訳ないので、不器用ながらも手伝うと仙崎が褒めてくれて料理を作るのが嬉しい。それに仙崎と暮らし始めてなんだか体の調子がいい気がしていて、健康的な生活を送ることの大切さを身にしみて実感していた。
(でもたまにはカップ麺とか食べたいな。後でこっそりネットで注文しようかな)
バレたら怒られるかな、なんて考えながら卵のパックを持って仙崎のところへ戻る。
するとそこにはおばさま達に囲まれている仙崎がいた。
「あら~、こんなところでこんなカッコいい人に出会えるなんて」
「ほんとにね。お化粧してくればよかった」
「あと十歳若かったらお茶に誘ったのに」
おばさま達は、仙崎を中心に賑やかに会話をしている。
このままあの集団に割り込んでいいものか。
眼鏡とマスクで変装しているが隼人は芸能人だ。もし気付かれたら余計に騒ぎを大きくしてしまう。
けれどこのまま傍観していると近付けないし、買い物が終わらない。
「皆さん充分お綺麗ですよ」
「まあ、お上手なんだから!」
「お料理なさるの? 素敵ね~」
「何をお作りになられるの?」
楽しそうな笑い声が売り場の一画に響いている。
隼人が判断に困って右往左往していると仙崎と目が合った。
「すみません、私はそろそろ失礼します。続きはまたお会いしたときに」
仙崎はおばさま達の残念そうな声を背にし、颯爽と囲みからに抜け出して隼人の元へやってくる。
「隼人さん、お待たせしました。卵ありがとうございます」
「あっ、うん」
「さあ、いきましょうか」
隼人は仙崎に促されるまま買い物カゴに卵を入れた。
仙崎の後方にはまだ熱い視線を向けているおばさま達がいるが、彼は何もなかったかのように買い物を再開した。
(そうだよな。仙崎さんなら有名人じゃなくてもこういうのは慣れてるか)
仙崎のイケメンな容姿はどこでも人目を集めて女性スタッフを浮き足立たせていた。それだけならよく見る光景だが、彼はその優秀さで男性スタッフからも高評価を得ていた。
どの現場でもそうだった。隼人の簡単な紹介だけで人の顔と名前を覚え、一度説明したことは完全に把握して立ち回っていた。さらに周りの人間をよく見ていて、男女問わずスタッフを気遣い、時には差し入れをして隼人のいないところでいつの間にか仲良くなっていた。
映画の撮影現場のときは、緊迫感のある現場にいきなり関わらなければならないことを心配していたがまったくの杞憂で終わった。
隼人には、仙崎という人は仕事ができて人柄も良くて、どの現場でもすぐに打ち解けられる完璧な人間に見えた。
「仙崎さんってどこ行っても人気あるしコミュ力高いしで羨ましいよ」
隼人は心からの本音が溢れる。
隼人は休日に遊ぶような友達はいないし、初対面の人とは簡単には打ち解けられない。なんなら大体のコミュニケーションは俳優の『藤村隼人』のキャラで対応しているので隼人の素の顔を知っている人間は業界にはいないだろう。
仙崎を見ていると自分は運の良さだけでここまで来た気がしてくる。そんな悩みをぽつぽつと仙崎に漏らすとそんなことはないと言ってくれる。
「私は芝居のことには素人ですが、隼人さんには間違いなく才能がありますよ」
「そうかな」
「ええ、あなたの演技はほんとうに凄いと思いました。何かを見て鳥肌が立ったのは久々でした」
仙崎は隼人の目を真剣に見つめてくる。彼の目には嘘偽りのない真っ直ぐな想いが込められていて、隼人は気恥ずかしさを感じても逸らすことができない。
「人には自分でも気付かない癖や習慣が必ずあります。その部分はある意味でその個人を表す個性の一つですが、隼人さんはカメラが回った瞬間、まったくの別人になっていました。立ち振る舞いなどの所作や視点の動かし方、体重移動の動きなど隼人さんの身体の全てから役が送ってきた人生が垣間見えると思いました」
「細かいとこまで見てくれたんだね」
「隼人さんには申し訳ないのですが、洋画ばかり見てきたので隼人さんのことは名前しか知りませんでした。こんな逸材がいたことを知らなかったのを後悔しています。」
「そんなにたくさん言われると調子に乗っちゃうよ」
努力してきたこと見てくれて評価してくれる。
そのことがこんなにも嬉しいなんて。
隼人はえへへ、と照れながら仙崎の言葉を噛み締めた。
そして仙崎の人気の高さはこういうことを言ってくれるところにあるのだろう。誰だって仙崎と仲良くなりたいと思うだろうし、彼の役に立ちたいと思ってしまう。人たらしだ。
仙崎のモテる理由を実感していると、自然と言葉が口から出ていた。
「仙崎さんって恋人はいるの?」
仙崎は商品から目を離すと、少し楽しげに笑って言った。
「いませんよ。何人か付き合ったことはありますが長く続きませんでしたね。いつも私が振られて終わってしまうんです」
「へー、以外。仙崎さんが振られるなんて全然想像できない」
「今は仕事が恋人、といったところですね」
仕事も出来て、料理も作れて人柄も良い彼を振るなんて、そんなもったいないことをする人がいるんだ。完璧超人みたいな仙崎さんのどこに不満があったのだろう。
「そういえばその仕事の方で前から聞きたかったんだけど――」
それは隼人の罪悪感も少しある疑問だった。
「俺につきっきりになってるじゃん。仙崎さんの本職の、常連さん? みたいな人から寂しがられてない?」
仙崎は二十四時間まるまる隼人と一緒に過ごしている。マネージャー業をして家事までしてくれている。
風俗店に行ったことがないのであまり詳しくないが、仙崎目当てのお客さんが離れてしまうなんてことになったら申し訳ない。
「ああ、そちらは問題ありません。『アフロディーテ』での私の業務は主に裏方ですから。直接お客さんと関わることはほんとんどないのです」
「あ、そうなんだ」
「はい。私はシフト管理や給料計算、あとレストランやホテルの手配などの事務仕事がメインでした。まあそれも最近は仕事量が増えて一人では大変になったので、人を増やして私が抜けても大丈夫なようにっています」
「あれ? じゃあなんで裏方の仙崎さんが俺についてくれたの?」
「やはり長期間店を離れられる人間がいなかったのと、隼人さんが初回で好みの子がわからないこと。あとは芸能界という世界で派遣されるキャストが浮かれてしまわないようにですね。マネージャー業についてのノウハウもなかったので、比較的動きやすい私がきました」
「なるほど」
確かに隼人は社長の紹介の初めてのお客さんで、マネージャーの仕事も兼任となると人選は大変なのだろう。いろいろと理由があったのだ。
「私以外の人が良かったですか?」
「そんなことない! 仙崎さんで良かったよ。ご飯美味しいし、仕事は完璧だし、俺の話ちゃんと聞いてくれたし」
すべて隼人の本心から出る言葉だ。仙崎にはほんとうに助けられているし、感謝している。他の誰かではなくて仙崎が来てくれて良かったと思っている。
普段は裏方の仕事で他にお客はいないってことは、隼人だけを相手してくれている言わば独占状態なわけだ。
恋人はいなくてお客もいないなら、今は俺が仙崎さんを一人占めしているってことになる。なんだかその事実が嬉しかった。
「私も隼人さんと出会えて嬉しいですよ」
「お、俺もだよ」
またそうやってイケメンな言葉を言われるとドキドキしてしまう。
隼人は顔の熱が上がるのを感じてつい目を逸らす。
すると仙崎はもっと近くに接近して耳元で囁いた。
「隼人さん、夕食の後でお話が。あなたの悩みについて」
「!! それって……」
「以前、あなたの悩みを解決するために案がある、といったでしょう? そのことです」
そうだ。確かに言われていた。映画の撮影の初日だったか。隼人が芝居のあとに昂ぶってしまう問題の解決策が彼にあるという。忙しいので後回しになっていたが、今なら問題に向き合うのは丁度いい。
「……わかった」
「ではデザートコーナーでも見て帰りますか。隼人さんは何が食べたいですか?」
「シュークリームがいい。中身が二種類入ってるやつ」
「美味しそうですね。探してみましょう」
仙崎の考えは隼人の悩みを本当に解決できるのか。
少しの不安を感じるが、隼人は仙崎に頼ることしかできない。
(きっと上手くやってくれるさ。仙崎さんだもの)
隼人は期待のこもった眼差しで彼の横顔を見るのだった。
隼人が少しゆっくりしたいと仙崎にお願いして仕事の数を減らしていたのだ。
取材やモデルの仕事はあるものの、長時間拘束されてしまうような仕事がないおかげで隼人はゆっくりと気力を充電することができていた。
今日は仙崎と一緒に仕事終わりにスーパーに寄って、夕飯の食材を買い出し中だ。
「仙崎さん、人参あったよ。三本入りのこれでいい?」
「はい、ありがとうごさいます。隼人さん、今日は何を食べたいですか?」
「肉! でも脂っこくないのがいいな」
「では、赤身の肉を使いましょう。他は……そうですね。里芋が美味しそうなので煮物にしましょうか」
「煮物好き! あと卵焼きも食べたい!」
「卵は確か残り少なかったですね。持ってきてもらっていいですか?」
「オッケー、行ってくる」
隼人は仙崎と買い物をするこの時間が好きだ。
何を食べるのか一緒に考えて、食材を揃えて一緒に調理して食卓を囲む。そんな何気ない出来事が隼人に暖かなぬくもりを感じさせていた。
ふんふん、と鼻歌交じりに卵を探しに行く隼人はカップ麺売り場が目に入る。
以前は料理なんて手間がかかる割にすぐに食べ終わってしまう面倒くさいものだと思っていた。だから隼人は食事をカップ麺ですませていたし、時にはお湯を沸かすのさえ面倒でカロリーメイトだけですませていた。
「最近はほんとにインスタント食品を食べなくなったな」
今でもカップ麺は大好きだが、仙崎がいつも料理を作ってくれているので買い足すことがなくなった。
隼人も作ってもらうばかりなのは申し訳ないので、不器用ながらも手伝うと仙崎が褒めてくれて料理を作るのが嬉しい。それに仙崎と暮らし始めてなんだか体の調子がいい気がしていて、健康的な生活を送ることの大切さを身にしみて実感していた。
(でもたまにはカップ麺とか食べたいな。後でこっそりネットで注文しようかな)
バレたら怒られるかな、なんて考えながら卵のパックを持って仙崎のところへ戻る。
するとそこにはおばさま達に囲まれている仙崎がいた。
「あら~、こんなところでこんなカッコいい人に出会えるなんて」
「ほんとにね。お化粧してくればよかった」
「あと十歳若かったらお茶に誘ったのに」
おばさま達は、仙崎を中心に賑やかに会話をしている。
このままあの集団に割り込んでいいものか。
眼鏡とマスクで変装しているが隼人は芸能人だ。もし気付かれたら余計に騒ぎを大きくしてしまう。
けれどこのまま傍観していると近付けないし、買い物が終わらない。
「皆さん充分お綺麗ですよ」
「まあ、お上手なんだから!」
「お料理なさるの? 素敵ね~」
「何をお作りになられるの?」
楽しそうな笑い声が売り場の一画に響いている。
隼人が判断に困って右往左往していると仙崎と目が合った。
「すみません、私はそろそろ失礼します。続きはまたお会いしたときに」
仙崎はおばさま達の残念そうな声を背にし、颯爽と囲みからに抜け出して隼人の元へやってくる。
「隼人さん、お待たせしました。卵ありがとうございます」
「あっ、うん」
「さあ、いきましょうか」
隼人は仙崎に促されるまま買い物カゴに卵を入れた。
仙崎の後方にはまだ熱い視線を向けているおばさま達がいるが、彼は何もなかったかのように買い物を再開した。
(そうだよな。仙崎さんなら有名人じゃなくてもこういうのは慣れてるか)
仙崎のイケメンな容姿はどこでも人目を集めて女性スタッフを浮き足立たせていた。それだけならよく見る光景だが、彼はその優秀さで男性スタッフからも高評価を得ていた。
どの現場でもそうだった。隼人の簡単な紹介だけで人の顔と名前を覚え、一度説明したことは完全に把握して立ち回っていた。さらに周りの人間をよく見ていて、男女問わずスタッフを気遣い、時には差し入れをして隼人のいないところでいつの間にか仲良くなっていた。
映画の撮影現場のときは、緊迫感のある現場にいきなり関わらなければならないことを心配していたがまったくの杞憂で終わった。
隼人には、仙崎という人は仕事ができて人柄も良くて、どの現場でもすぐに打ち解けられる完璧な人間に見えた。
「仙崎さんってどこ行っても人気あるしコミュ力高いしで羨ましいよ」
隼人は心からの本音が溢れる。
隼人は休日に遊ぶような友達はいないし、初対面の人とは簡単には打ち解けられない。なんなら大体のコミュニケーションは俳優の『藤村隼人』のキャラで対応しているので隼人の素の顔を知っている人間は業界にはいないだろう。
仙崎を見ていると自分は運の良さだけでここまで来た気がしてくる。そんな悩みをぽつぽつと仙崎に漏らすとそんなことはないと言ってくれる。
「私は芝居のことには素人ですが、隼人さんには間違いなく才能がありますよ」
「そうかな」
「ええ、あなたの演技はほんとうに凄いと思いました。何かを見て鳥肌が立ったのは久々でした」
仙崎は隼人の目を真剣に見つめてくる。彼の目には嘘偽りのない真っ直ぐな想いが込められていて、隼人は気恥ずかしさを感じても逸らすことができない。
「人には自分でも気付かない癖や習慣が必ずあります。その部分はある意味でその個人を表す個性の一つですが、隼人さんはカメラが回った瞬間、まったくの別人になっていました。立ち振る舞いなどの所作や視点の動かし方、体重移動の動きなど隼人さんの身体の全てから役が送ってきた人生が垣間見えると思いました」
「細かいとこまで見てくれたんだね」
「隼人さんには申し訳ないのですが、洋画ばかり見てきたので隼人さんのことは名前しか知りませんでした。こんな逸材がいたことを知らなかったのを後悔しています。」
「そんなにたくさん言われると調子に乗っちゃうよ」
努力してきたこと見てくれて評価してくれる。
そのことがこんなにも嬉しいなんて。
隼人はえへへ、と照れながら仙崎の言葉を噛み締めた。
そして仙崎の人気の高さはこういうことを言ってくれるところにあるのだろう。誰だって仙崎と仲良くなりたいと思うだろうし、彼の役に立ちたいと思ってしまう。人たらしだ。
仙崎のモテる理由を実感していると、自然と言葉が口から出ていた。
「仙崎さんって恋人はいるの?」
仙崎は商品から目を離すと、少し楽しげに笑って言った。
「いませんよ。何人か付き合ったことはありますが長く続きませんでしたね。いつも私が振られて終わってしまうんです」
「へー、以外。仙崎さんが振られるなんて全然想像できない」
「今は仕事が恋人、といったところですね」
仕事も出来て、料理も作れて人柄も良い彼を振るなんて、そんなもったいないことをする人がいるんだ。完璧超人みたいな仙崎さんのどこに不満があったのだろう。
「そういえばその仕事の方で前から聞きたかったんだけど――」
それは隼人の罪悪感も少しある疑問だった。
「俺につきっきりになってるじゃん。仙崎さんの本職の、常連さん? みたいな人から寂しがられてない?」
仙崎は二十四時間まるまる隼人と一緒に過ごしている。マネージャー業をして家事までしてくれている。
風俗店に行ったことがないのであまり詳しくないが、仙崎目当てのお客さんが離れてしまうなんてことになったら申し訳ない。
「ああ、そちらは問題ありません。『アフロディーテ』での私の業務は主に裏方ですから。直接お客さんと関わることはほんとんどないのです」
「あ、そうなんだ」
「はい。私はシフト管理や給料計算、あとレストランやホテルの手配などの事務仕事がメインでした。まあそれも最近は仕事量が増えて一人では大変になったので、人を増やして私が抜けても大丈夫なようにっています」
「あれ? じゃあなんで裏方の仙崎さんが俺についてくれたの?」
「やはり長期間店を離れられる人間がいなかったのと、隼人さんが初回で好みの子がわからないこと。あとは芸能界という世界で派遣されるキャストが浮かれてしまわないようにですね。マネージャー業についてのノウハウもなかったので、比較的動きやすい私がきました」
「なるほど」
確かに隼人は社長の紹介の初めてのお客さんで、マネージャーの仕事も兼任となると人選は大変なのだろう。いろいろと理由があったのだ。
「私以外の人が良かったですか?」
「そんなことない! 仙崎さんで良かったよ。ご飯美味しいし、仕事は完璧だし、俺の話ちゃんと聞いてくれたし」
すべて隼人の本心から出る言葉だ。仙崎にはほんとうに助けられているし、感謝している。他の誰かではなくて仙崎が来てくれて良かったと思っている。
普段は裏方の仕事で他にお客はいないってことは、隼人だけを相手してくれている言わば独占状態なわけだ。
恋人はいなくてお客もいないなら、今は俺が仙崎さんを一人占めしているってことになる。なんだかその事実が嬉しかった。
「私も隼人さんと出会えて嬉しいですよ」
「お、俺もだよ」
またそうやってイケメンな言葉を言われるとドキドキしてしまう。
隼人は顔の熱が上がるのを感じてつい目を逸らす。
すると仙崎はもっと近くに接近して耳元で囁いた。
「隼人さん、夕食の後でお話が。あなたの悩みについて」
「!! それって……」
「以前、あなたの悩みを解決するために案がある、といったでしょう? そのことです」
そうだ。確かに言われていた。映画の撮影の初日だったか。隼人が芝居のあとに昂ぶってしまう問題の解決策が彼にあるという。忙しいので後回しになっていたが、今なら問題に向き合うのは丁度いい。
「……わかった」
「ではデザートコーナーでも見て帰りますか。隼人さんは何が食べたいですか?」
「シュークリームがいい。中身が二種類入ってるやつ」
「美味しそうですね。探してみましょう」
仙崎の考えは隼人の悩みを本当に解決できるのか。
少しの不安を感じるが、隼人は仙崎に頼ることしかできない。
(きっと上手くやってくれるさ。仙崎さんだもの)
隼人は期待のこもった眼差しで彼の横顔を見るのだった。
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