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8話
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隼人は芝居の調子がとても良いことに気が付いた。
台詞は滑らかに思い出せて、自分の芝居をより俯瞰的に見ることで他の役者との距離感が掴みやすく思えた。
今までは自分のことで精一杯だったということなのだろう。
(心の余裕ってこういうことなのか)
欲望をすっかり出し切った隼人の肉体は、これまでになく絶好調で仕事に集中することが出来ていた。
「はーい! オッケーです。いやー、隼人くん調子良いね!」
「ありがとうございます!」
朝の喧騒に包まれていた現場は、撮影が順調に進むことで今後の見通しが立ち、落ち着きを取り戻しつつあった。
「もう少し撮ったら昼に入ろう。遅くなって悪いね。腹減ったでしょう」
「そのぶんロケ弁を美味しく頂けますよ」
「確かにな、あははは! 腹鳴らないように気を付けろよ」
「はい!」
時間は正午を過ぎたところ。
まだまだハードな日程に変わりはないものの、殺伐とした雰囲気は少し消えていた。
監督とのやり取りを見ていたヒロイン役の女性が隼人に話しかけてきた。
「隼人さん、なんだか元気ですね。スッキリしてるっていうか」
「そう見えますか? 朝早かったからやっとエンジンかかってきたのかも」
隼人は心の内で冷や汗をかいたが顔には一切出さない。
「朝一の仕事ってどうしてもテンション低くなっちゃいますよね」
「ほんとそうですよね。僕、今はお昼ごはんのこと考えてるからテンション高めです」
「私も同じです! 今日のロケ弁何かな~ってそればっかりです」
朝の時よりも共演者の子と和やかに会話ができていた。
もちろん現場の空気が良くなったおかげかなのもあるが、やはり仙崎に抜いてもらったおかげなのは間違いない。
休憩時間ギリギリまで使ってたくさん処理してもらったので、今こうして冷静に芝居に打ち込むことが出来ていた。
ただ仙崎の意味深な言葉について教えてもらえことは出来なかった。
隼人がたくさん絶頂し過ぎて完全にダウンしてしまったため、詳しい話は持ち越しとなったのだ。
下半身を晒したまま動けなくなった隼人の代わりに、全ての後始末を仙崎が行った。
精液まみれになった下半身をウエットティッシュで優しく拭かれ、下着とズボンを履かせてもらって椅子まで抱っこして運んでもらった。隼人がそのまま座って長机に突っ伏して休んでいる間に、彼は床も綺麗に掃除して隼人の出した痕跡を消してくれた。
(恥ずかしすぎて死にたくなる)
結局前回の休憩時間は、隼人の体力を回復するために使ってしまったので何も聞くことができなかった。
だから次の昼休みの時にこそ詳しく話しをしたい。
隼人は少し確認のつもりで仙崎の姿を探した。
現場を見渡すと撮影スタッフのいるところよりも、少し離れた場所からこちらを見ていた。
目があった瞬間、にっこりと笑顔を返される。
隼人は思わずサッ、と目を反らした。
誰もが魅了されそうな華やかで品のある笑顔。
そんな顔を見せられたら、楽屋での自分の醜態を鮮明に思い出してしまう。
仙崎の手によって導かれた絶頂は、今まで経験したことのない大きすぎる快楽だった。
強い快感はまるで嵐のようで、最後には彼にすがりつきながら涙を浮かべて許しをこうた。
必死に哀願する隼人を、仙崎は優しくなだめながらも決して手を止めてくれることはなかった。
「次撮ります。お願いします!」
監督の声でハッとした。
俺は今仕事中なのに。
ふるふると頭を振って雑念を追い出す。
見られているときは世間から期待される『藤村隼人』の役を。
カメラが回れば台本の中の役に。
目の前のことに集中しなければ。
「お疲れ様です! 次はニ時半からお願いします!」
ようやく遅いお昼休憩になった。
さすがにみんな疲労が溜まっているようで、足早に休憩を取りに向かっていく。
隼人も早く休憩に行きたかったが、あの感覚が湧き上がってくるのを覚えて鎮めようと呼吸を整えていた。
つい数時間前に仙崎に処理してもらったというのに、また欲望が顔を見せ始めていた。
(あんなに抜いてもらったのに、さすがにこれは勘弁してくれよ)
本当にこの性欲というのは面倒だ。
これをコントロール出来なければ、どんな立場の人間でも犯罪者だ。
とはいえ前回の休憩のときよりは強くない。
この程度ならこうして落ち着いて冷静に対処すれば治まる。
隼人は燃え上がりそうな興奮を押さえつけて蓋をしていると、仙崎が呼びに来た。
「隼人さん、お昼行きましょう」
「う、うん。行こう」
「歩きながらの報告になりますが、明日以降の予定の調整がつきました。いくつかのお仕事は別日に変更できました。変更できないお仕事はすでに監督にお伝えししました。隼人さんが撮影を抜けても大丈夫なように調整するそうです」
「仕事はやっ!」
「お役に立てたのなら嬉しいです。また撮影終了予定日後のスケジュールも調整して隼人さんが休めるように少し変更してみました。後で確認お願いします」
「休み入るの? すごく助かる。ありがとう」
仙崎を見ると隼人はどうしても動揺してしまうのに彼は特に変わった様子はない。
何事もなかったかのような調子で仕事の話をされるてしまうと、なんかだかもやもやする。しかも言うことなしの有能ぶりだ。
言葉にできない奇妙な感情が胸に去来するが今は後回しだ。
とにかく仙崎さんに話を聞いて、どこまで何を知っているのか、そしてその情報を誰にも言わないようにお願いしなければ。
(ネットに流されたり週刊誌に載せられたら終わりだ)
引退は考えていたが、平和的にいきたい。
一般人に戻ったとしても芸能人のままでも、日本に居づらくなるような大きい騒動は勘弁だ。
仙崎は悪い人には見えないが、最悪の状況になったときの対処を考えておかなければ。
金銭を要求されたら貯金からある程度の金額は出せる。
知らないところで恨みをかっていたら土下座しに行こう。
売り出したい新人がいて、隼人の仕事の枠を減らしたいということもあるかもしれない。
隼人の杞憂ですむならそれが一番だが、仙崎のような完璧に見える人でも黒い部分があるのではないだろうか。
隼人は後ろを歩くマネージャーの裏の顔を想像しながら楽屋へ向かった。
台詞は滑らかに思い出せて、自分の芝居をより俯瞰的に見ることで他の役者との距離感が掴みやすく思えた。
今までは自分のことで精一杯だったということなのだろう。
(心の余裕ってこういうことなのか)
欲望をすっかり出し切った隼人の肉体は、これまでになく絶好調で仕事に集中することが出来ていた。
「はーい! オッケーです。いやー、隼人くん調子良いね!」
「ありがとうございます!」
朝の喧騒に包まれていた現場は、撮影が順調に進むことで今後の見通しが立ち、落ち着きを取り戻しつつあった。
「もう少し撮ったら昼に入ろう。遅くなって悪いね。腹減ったでしょう」
「そのぶんロケ弁を美味しく頂けますよ」
「確かにな、あははは! 腹鳴らないように気を付けろよ」
「はい!」
時間は正午を過ぎたところ。
まだまだハードな日程に変わりはないものの、殺伐とした雰囲気は少し消えていた。
監督とのやり取りを見ていたヒロイン役の女性が隼人に話しかけてきた。
「隼人さん、なんだか元気ですね。スッキリしてるっていうか」
「そう見えますか? 朝早かったからやっとエンジンかかってきたのかも」
隼人は心の内で冷や汗をかいたが顔には一切出さない。
「朝一の仕事ってどうしてもテンション低くなっちゃいますよね」
「ほんとそうですよね。僕、今はお昼ごはんのこと考えてるからテンション高めです」
「私も同じです! 今日のロケ弁何かな~ってそればっかりです」
朝の時よりも共演者の子と和やかに会話ができていた。
もちろん現場の空気が良くなったおかげかなのもあるが、やはり仙崎に抜いてもらったおかげなのは間違いない。
休憩時間ギリギリまで使ってたくさん処理してもらったので、今こうして冷静に芝居に打ち込むことが出来ていた。
ただ仙崎の意味深な言葉について教えてもらえことは出来なかった。
隼人がたくさん絶頂し過ぎて完全にダウンしてしまったため、詳しい話は持ち越しとなったのだ。
下半身を晒したまま動けなくなった隼人の代わりに、全ての後始末を仙崎が行った。
精液まみれになった下半身をウエットティッシュで優しく拭かれ、下着とズボンを履かせてもらって椅子まで抱っこして運んでもらった。隼人がそのまま座って長机に突っ伏して休んでいる間に、彼は床も綺麗に掃除して隼人の出した痕跡を消してくれた。
(恥ずかしすぎて死にたくなる)
結局前回の休憩時間は、隼人の体力を回復するために使ってしまったので何も聞くことができなかった。
だから次の昼休みの時にこそ詳しく話しをしたい。
隼人は少し確認のつもりで仙崎の姿を探した。
現場を見渡すと撮影スタッフのいるところよりも、少し離れた場所からこちらを見ていた。
目があった瞬間、にっこりと笑顔を返される。
隼人は思わずサッ、と目を反らした。
誰もが魅了されそうな華やかで品のある笑顔。
そんな顔を見せられたら、楽屋での自分の醜態を鮮明に思い出してしまう。
仙崎の手によって導かれた絶頂は、今まで経験したことのない大きすぎる快楽だった。
強い快感はまるで嵐のようで、最後には彼にすがりつきながら涙を浮かべて許しをこうた。
必死に哀願する隼人を、仙崎は優しくなだめながらも決して手を止めてくれることはなかった。
「次撮ります。お願いします!」
監督の声でハッとした。
俺は今仕事中なのに。
ふるふると頭を振って雑念を追い出す。
見られているときは世間から期待される『藤村隼人』の役を。
カメラが回れば台本の中の役に。
目の前のことに集中しなければ。
「お疲れ様です! 次はニ時半からお願いします!」
ようやく遅いお昼休憩になった。
さすがにみんな疲労が溜まっているようで、足早に休憩を取りに向かっていく。
隼人も早く休憩に行きたかったが、あの感覚が湧き上がってくるのを覚えて鎮めようと呼吸を整えていた。
つい数時間前に仙崎に処理してもらったというのに、また欲望が顔を見せ始めていた。
(あんなに抜いてもらったのに、さすがにこれは勘弁してくれよ)
本当にこの性欲というのは面倒だ。
これをコントロール出来なければ、どんな立場の人間でも犯罪者だ。
とはいえ前回の休憩のときよりは強くない。
この程度ならこうして落ち着いて冷静に対処すれば治まる。
隼人は燃え上がりそうな興奮を押さえつけて蓋をしていると、仙崎が呼びに来た。
「隼人さん、お昼行きましょう」
「う、うん。行こう」
「歩きながらの報告になりますが、明日以降の予定の調整がつきました。いくつかのお仕事は別日に変更できました。変更できないお仕事はすでに監督にお伝えししました。隼人さんが撮影を抜けても大丈夫なように調整するそうです」
「仕事はやっ!」
「お役に立てたのなら嬉しいです。また撮影終了予定日後のスケジュールも調整して隼人さんが休めるように少し変更してみました。後で確認お願いします」
「休み入るの? すごく助かる。ありがとう」
仙崎を見ると隼人はどうしても動揺してしまうのに彼は特に変わった様子はない。
何事もなかったかのような調子で仕事の話をされるてしまうと、なんかだかもやもやする。しかも言うことなしの有能ぶりだ。
言葉にできない奇妙な感情が胸に去来するが今は後回しだ。
とにかく仙崎さんに話を聞いて、どこまで何を知っているのか、そしてその情報を誰にも言わないようにお願いしなければ。
(ネットに流されたり週刊誌に載せられたら終わりだ)
引退は考えていたが、平和的にいきたい。
一般人に戻ったとしても芸能人のままでも、日本に居づらくなるような大きい騒動は勘弁だ。
仙崎は悪い人には見えないが、最悪の状況になったときの対処を考えておかなければ。
金銭を要求されたら貯金からある程度の金額は出せる。
知らないところで恨みをかっていたら土下座しに行こう。
売り出したい新人がいて、隼人の仕事の枠を減らしたいということもあるかもしれない。
隼人の杞憂ですむならそれが一番だが、仙崎のような完璧に見える人でも黒い部分があるのではないだろうか。
隼人は後ろを歩くマネージャーの裏の顔を想像しながら楽屋へ向かった。
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