マネージャーに性欲管理されてます

大安大吉

文字の大きさ
上 下
8 / 47

8話

しおりを挟む
 隼人は芝居の調子がとても良いことに気が付いた。
 台詞は滑らかに思い出せて、自分の芝居をより俯瞰的に見ることで他の役者との距離感が掴みやすく思えた。
 今までは自分のことで精一杯だったということなのだろう。

(心の余裕ってこういうことなのか)

 欲望をすっかり出し切った隼人の肉体は、これまでになく絶好調で仕事に集中することが出来ていた。 

「はーい! オッケーです。いやー、隼人くん調子良いね!」
「ありがとうございます!」

 朝の喧騒に包まれていた現場は、撮影が順調に進むことで今後の見通しが立ち、落ち着きを取り戻しつつあった。

「もう少し撮ったら昼に入ろう。遅くなって悪いね。腹減ったでしょう」
「そのぶんロケ弁を美味しく頂けますよ」
「確かにな、あははは! 腹鳴らないように気を付けろよ」
「はい!」

 時間は正午を過ぎたところ。
 まだまだハードな日程に変わりはないものの、殺伐とした雰囲気は少し消えていた。 
 監督とのやり取りを見ていたヒロイン役の女性が隼人に話しかけてきた。

「隼人さん、なんだか元気ですね。スッキリしてるっていうか」
「そう見えますか? 朝早かったからやっとエンジンかかってきたのかも」

 隼人は心の内で冷や汗をかいたが顔には一切出さない。

「朝一の仕事ってどうしてもテンション低くなっちゃいますよね」
「ほんとそうですよね。僕、今はお昼ごはんのこと考えてるからテンション高めです」
「私も同じです! 今日のロケ弁何かな~ってそればっかりです」

 朝の時よりも共演者の子と和やかに会話ができていた。
 もちろん現場の空気が良くなったおかげかなのもあるが、やはり仙崎に抜いてもらったおかげなのは間違いない。
 休憩時間ギリギリまで使ってたくさん処理してもらったので、今こうして冷静に芝居に打ち込むことが出来ていた。
 ただ仙崎の意味深な言葉について教えてもらえことは出来なかった。
 隼人がたくさん絶頂し過ぎて完全にダウンしてしまったため、詳しい話は持ち越しとなったのだ。
 下半身を晒したまま動けなくなった隼人の代わりに、全ての後始末を仙崎が行った。
 精液まみれになった下半身をウエットティッシュで優しく拭かれ、下着とズボンを履かせてもらって椅子まで抱っこして運んでもらった。隼人がそのまま座って長机に突っ伏して休んでいる間に、彼は床も綺麗に掃除して隼人の出した痕跡を消してくれた。

(恥ずかしすぎて死にたくなる)

 結局前回の休憩時間は、隼人の体力を回復するために使ってしまったので何も聞くことができなかった。
 だから次の昼休みの時にこそ詳しく話しをしたい。
 
 隼人は少し確認のつもりで仙崎の姿を探した。
 現場を見渡すと撮影スタッフのいるところよりも、少し離れた場所からこちらを見ていた。
 目があった瞬間、にっこりと笑顔を返される。
 隼人は思わずサッ、と目を反らした。
 誰もが魅了されそうな華やかで品のある笑顔。
 そんな顔を見せられたら、楽屋での自分の醜態を鮮明に思い出してしまう。
 仙崎の手によって導かれた絶頂は、今まで経験したことのない大きすぎる快楽だった。
 強い快感はまるで嵐のようで、最後には彼にすがりつきながら涙を浮かべて許しをこうた。
 必死に哀願する隼人を、仙崎は優しくなだめながらも決して手を止めてくれることはなかった。
 
「次撮ります。お願いします!」

 監督の声でハッとした。
 俺は今仕事中なのに。
 ふるふると頭を振って雑念を追い出す。
 見られているときは世間から期待される『藤村隼人』の役を。
 カメラが回れば台本の中の役に。
 目の前のことに集中しなければ。





「お疲れ様です! 次はニ時半からお願いします!」

 ようやく遅いお昼休憩になった。
 さすがにみんな疲労が溜まっているようで、足早に休憩を取りに向かっていく。
 隼人も早く休憩に行きたかったが、あの感覚が湧き上がってくるのを覚えて鎮めようと呼吸を整えていた。
 つい数時間前に仙崎に処理してもらったというのに、また欲望が顔を見せ始めていた。

(あんなに抜いてもらったのに、さすがにこれは勘弁してくれよ)

 本当にこの性欲というのは面倒だ。
 これをコントロール出来なければ、どんな立場の人間でも犯罪者だ。
 とはいえ前回の休憩のときよりは強くない。
 この程度ならこうして落ち着いて冷静に対処すれば治まる。
 隼人は燃え上がりそうな興奮を押さえつけて蓋をしていると、仙崎が呼びに来た。

「隼人さん、お昼行きましょう」
「う、うん。行こう」
「歩きながらの報告になりますが、明日以降の予定の調整がつきました。いくつかのお仕事は別日に変更できました。変更できないお仕事はすでに監督にお伝えししました。隼人さんが撮影を抜けても大丈夫なように調整するそうです」
「仕事はやっ!」
「お役に立てたのなら嬉しいです。また撮影終了予定日後のスケジュールも調整して隼人さんが休めるように少し変更してみました。後で確認お願いします」
「休み入るの? すごく助かる。ありがとう」

 仙崎を見ると隼人はどうしても動揺してしまうのに彼は特に変わった様子はない。
 何事もなかったかのような調子で仕事の話をされるてしまうと、なんかだかもやもやする。しかも言うことなしの有能ぶりだ。
 言葉にできない奇妙な感情が胸に去来するが今は後回しだ。
 とにかく仙崎さんに話を聞いて、どこまで何を知っているのか、そしてその情報を誰にも言わないようにお願いしなければ。

(ネットに流されたり週刊誌に載せられたら終わりだ)
 
 引退は考えていたが、平和的にいきたい。
 一般人に戻ったとしても芸能人のままでも、日本に居づらくなるような大きい騒動は勘弁だ。
 
 仙崎は悪い人には見えないが、最悪の状況になったときの対処を考えておかなければ。
 金銭を要求されたら貯金からある程度の金額は出せる。
 知らないところで恨みをかっていたら土下座しに行こう。
 売り出したい新人がいて、隼人の仕事の枠を減らしたいということもあるかもしれない。
 隼人の杞憂ですむならそれが一番だが、仙崎のような完璧に見える人でも黒い部分があるのではないだろうか。
 
 隼人は後ろを歩くマネージャーの裏の顔を想像しながら楽屋へ向かった。
 
 
 

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...