いつかの夏の夢

青江 いるか

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写真を撮るということ

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「カメラ?」
 栞は私の手にしたものを見て、首をかしげた。
 「そ。部屋を掃除したら出てきたの。撮っても良い?」
 そのデジカメは、電池を交換したらまだ使用できることが判明した。そこで、早速、再び写真を撮り始めたのだった。最初の一枚はまだ抵抗があったが、それだけだった。あとは特に何も不快感は襲ってこなかった。
 私は基本的に、人間を中心としない写真を撮るのが好きだった。風景や物が中心である写真のほうが心ひかれた。だから、村崎家のこの洋風の邸宅や、美しい庭や岡は、絶好の被写体だった。だが一方で、人間をとるのが嫌いというわけでもなかった。よく知らない人を目の前にして撮影するのは苦手だが、親しい人ならむしろ好きだった。昔だったら、例えば姉のような。確認したら、あの撮りためていた写真のなかには、私が姉を撮影したものが多数あった。昔でなく今なら、目の前にいる村崎栞という少女なら、私は喜んで撮影するだろう。
 そして栞はその色素の薄い神と、ハーフのような愛らしい顔立ち、小さな花のような雰囲気を持っていたから、とても絵になることが(前々から思っていたことではあったが)撮影していてよく分かった。
 「どういう写真を撮ってきたの? 見せて」
 栞はそういってせがんだが、私は「まだ駄目」といった。自分の撮った写真を他の人に見せられるほど、まだ自身の心境が大きく変化したわけではなかった。まだ、再び写真を撮る気になっただけ。もう少し何かが変われば、自分の撮った写真を栞にも見せられるようになるだろう。
 何かを感じ取ったのか(私たちはよく、そういう言わなくても通じるということを体験する)、栞はあっさり引き下がり、それ以上何もそのことについては言及しなかった。
 代わりに、彼女は他の話題に移った。
 「そういえば、もうすぐ水穂の誕生日ね」
 「――ああ、そうだった」
 一瞬、反応が遅れた。自分の誕生日なんて、一六歳にして私はもう重要視していなかった。年を重ねる日に、何か特別なことがあるわけではない。何かが変わるわけではない。いつか、誰かが、誕生日は自分を生んでくれた親に感謝する日だといっていたのを聞いたことがあるが、確かにその言葉にうなずけるところはあるものの、まだそこまで悟りを開くことはできていない。
 「何か欲しいものはある?
 しかし、私は首をひねった。
 「欲しいものねぇ…」
 すぐには思いつかなかった。
 それを見て取って、栞は「じゃあ、プレゼントはお楽しみということで」と言った。
 「了解。楽しみにしてる」
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