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episode1
塁①-1
しおりを挟む◆ 塁 ①-1 ◆
――就く職業を間違えたかもしれない。
*
小学生の将来なりたい職業ランキングでは常に上位であり――最近ではYou Tuberに越されるかもしれないけれど――それは塁にとっても子どもの頃から憧れの職業だった。
小学生の時、友達に誘われて地元の少年野球チームに入った。そして、しばらくするとリトルリーグから声がかかりそこに所属した。
中学校では野球部に入ってまた友達と一緒にやれると思っていたらシニアリーグに属することになった。
中学生の日本代表として台湾へ試合に行った時はピッチャーとして優勝に貢献できた。
高校は甲子園の常連校へ推薦で入り、スカウト、そしてドラフト指名。こうして塁はA球団のプロ野球選手となった。
小日向塁という名前のプロ野球選手を知らないという人はほとんどいないだろうというほどの有名選手になった。高卒でプロ入りして六年目の二十四歳、A球団の一軍のセカンドを務める。
十一月末でシーズンが終わり、今から二ヶ月間がシーズンオフだ。
来年度の契約交渉もすんなりと済み、塁は自宅マンションでぼんやりとテレビを見ていた。十二月は特番が多い。この一年を振り返る番組が特に多い。野球に関してもそうだ。
――好きな野球選手は誰ですか?
街角で少年がインタビューされている。
――んー、小日向選手。
この続きを聞かなくても塁にはそれがたやすく想像できる。
――どういうところが好きですか?
――んー、かっこいいところ。
塁はチャンネルを変えた。その局ではバラエティー番組をやっていた。人気の男性アイドルグループの番組、おそらくこれも特番だろう。何度か出演のオファーがきたことがあるけれど、まだ出たことはない。
キラキラの彼らの笑顔を見て、「格好良い」の度合いが違うよな、と思い結局テレビは消した。
「ジムでも行くかな」
オフの間も身体がなまらないよういつもそうしている。
ひとり暮らしには広すぎるマンションの部屋をうろうろと歩き、ジムへ行く準備をしていると携帯電話が鳴った。同じチームの先輩からだ。
「塁、飲みに行こうぜ」
「はい」
トレーニングウエアを入れた鞄は放り投げた。先輩からの誘いは絶対だ。
「塁が来るって言ったら女子アナがたくさん釣れた」
「あー、いえ、そんな」
電話越しに向こうもこちらも笑っているが、塁が行くということは確定だったんじゃないか、と多少はイラッとする。
ユニフォームばかりを着ている人生であったけれどプロになってからすぐ「イケメン選手」と注目され、なんだか期待を裏切れない気持ちもあり私服にも気を使うようになった。そのオフショットが週刊誌に載り「私服姿もかっこいい」と書かれる。
球団からはそれを良いことと扱われている。
プロ野球の球団はもちろん収益を上げなければつぶれてしまう。できるだけたくさんの人に球場に来てもらいたい。グッズも売りたい。
塁の属するA球団は優勝争いの常連チームではないし、球場を満員にできるチームではなかった。
塁が入団するまでは。
自分でそう思うのはおこがましいが、実際に球団の上層部からそう言われている。塁が入ってからファンが増えた、特に女性ファンが増えた、と。
野球の力でも貢献している自負はあるが、塁のグッズの売れ行きがとんでもないことになっているのは知っている。
球場に足を運んでもらって声援をもらってグッズを買ってもらう。さっきの男性アイドルグループと近いものがあるな、と思った。
ともかく、シーズン中、球場は常に満員になるようになった。戦績のほうは、昨年の五位から今年は四位になった、四位から三位になった、三位だったのが四位になってしまった、といったふうにさまよっている。
けれども盛り上がっている気配はあり、「いつか優勝を」という気持ちが選手とファンの間で年々大きくなっているのを感じる。
ファンが増えることを期待されて高い年俸をもらっている。だからプロとしてそこはきちんとやりたい。もちろん現役引退のその日まで、野球で貢献し続けるのだというプライドだって持っている。
「よし、これでいいかな」
コーディネートを決めてマンションを出る。北風が頬をすっとなぜていった時、少し虚しさを感じた。だいぶ前から抱くようになった違和感が塁をそんな気持ちにさせる。
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