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episode4 帰れない夏
episode4-3
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海を見ながら手をつないだ時か、呑み込まれるような波音の中でキスをした時か。それともホテルに入った時か、セックスが終わった時か。
どのタイミングだったかはわからない。知哉さんと別れようと決めた。もちろん北嶋とも、もう会わない。知哉さんとも北嶋とも離れる。そんな簡単な答えに、どうして今まで気付かなかったのか。
シャワールームから出ると、北嶋はベッドに座っていた。少しうつむいて、いったい何を思っているのか。きっと罪悪感に苛まれて、心が押しつぶされそうになっているのだろう。
高校生だった北嶋の笑顔を思い出す。今、北嶋に、そんなにつらそうな顔をさせてしまっている自分に嫌気がさしてくる。
「北嶋。電車があるうちに帰ろう」
「え……、ああ」
顔を上げた北嶋は、うつろな目をしていた。
「帰ろう、北嶋」
もう会わないよ。これが別れ。
身支度を整えて、先にドアのほうへと向かう。
「峰」
ふいに、後ろから腕をつかまれた。
「何?」
「さっきは軽蔑してるとか言ってごめん。本当はそんなこと思ってないから。やっちゃったら情が湧いて、峰が俺のこと好きだとか言い出したら困るなって」
「ふふ、平気だよ」
「そうだよな。ちょっと自惚れてた。兄貴とは、今まで通り……」
訴えかけるように話す北嶋の目を真っ直ぐに見て告げた。
「知哉さんとは別れる」
「えっ」
「もう決めてるから」
「お願いだからそれは……」
「ごめん。でも、北嶋が自分を責めることない。知哉さんと別れるから北嶋に付き合ってくれとか言う訳じゃない。ふたりにはもう会わない。知哉さんと別れ話をしたら携帯番号も変えるし、引っ越しもする」
「別れ話って、なんて……」
「北嶋のことはもちろん言わないよ。就職を機に色々考えてとか、知哉さんが言うように一緒に住むみたいなイメージができないとか、……なんか適当に」
北嶋の表情が少し変わる。鋭い眼差しを向けられた。
「適当とか言うなよ。兄貴に対して適当な態度取るな」
「……ごめん」
「あ、俺こそごめん。兄貴を裏切ったのは俺なのに。……兄貴も大事だし、峰も好きだし、もう訳わかんないんだ」
つかんでいた手を離し、北嶋はベッドに座ってうなだれた。
「ずっとつらかったんだ」
そう北嶋に告げると、ゆっくりと北嶋は顔を上げる。
「知哉さんと付き合ってて、ずっとつらかった。本当に好きなのは、恋人の弟なんだ。そんなの、……つらいよ」
「峰」
「ふたりとはもう会わない。それが一番いい」
ひとりで先に帰ろうと思った。これ以上、顔を合わせているのは、お互いに限界だ。
「知哉さんとはバーで出会ったんだ。そこのバーで、知哉さん、すごいモテてた。だから、俺なんかよりもっと素敵な恋人ができる。北嶋も、……元気で」
だいたいホテル代の半分かなと思う金額を置いて、部屋を出た。
電車の中で確認すると、知哉さんからメールがきていた。『返信、遅くなってごめんなさい。明日にでもまた連絡します』と送る。すぐに着信がきたけれど、電車の中だったし取らなかった。家に帰ってもかけ直せなかった。
どのタイミングだったかはわからない。知哉さんと別れようと決めた。もちろん北嶋とも、もう会わない。知哉さんとも北嶋とも離れる。そんな簡単な答えに、どうして今まで気付かなかったのか。
シャワールームから出ると、北嶋はベッドに座っていた。少しうつむいて、いったい何を思っているのか。きっと罪悪感に苛まれて、心が押しつぶされそうになっているのだろう。
高校生だった北嶋の笑顔を思い出す。今、北嶋に、そんなにつらそうな顔をさせてしまっている自分に嫌気がさしてくる。
「北嶋。電車があるうちに帰ろう」
「え……、ああ」
顔を上げた北嶋は、うつろな目をしていた。
「帰ろう、北嶋」
もう会わないよ。これが別れ。
身支度を整えて、先にドアのほうへと向かう。
「峰」
ふいに、後ろから腕をつかまれた。
「何?」
「さっきは軽蔑してるとか言ってごめん。本当はそんなこと思ってないから。やっちゃったら情が湧いて、峰が俺のこと好きだとか言い出したら困るなって」
「ふふ、平気だよ」
「そうだよな。ちょっと自惚れてた。兄貴とは、今まで通り……」
訴えかけるように話す北嶋の目を真っ直ぐに見て告げた。
「知哉さんとは別れる」
「えっ」
「もう決めてるから」
「お願いだからそれは……」
「ごめん。でも、北嶋が自分を責めることない。知哉さんと別れるから北嶋に付き合ってくれとか言う訳じゃない。ふたりにはもう会わない。知哉さんと別れ話をしたら携帯番号も変えるし、引っ越しもする」
「別れ話って、なんて……」
「北嶋のことはもちろん言わないよ。就職を機に色々考えてとか、知哉さんが言うように一緒に住むみたいなイメージができないとか、……なんか適当に」
北嶋の表情が少し変わる。鋭い眼差しを向けられた。
「適当とか言うなよ。兄貴に対して適当な態度取るな」
「……ごめん」
「あ、俺こそごめん。兄貴を裏切ったのは俺なのに。……兄貴も大事だし、峰も好きだし、もう訳わかんないんだ」
つかんでいた手を離し、北嶋はベッドに座ってうなだれた。
「ずっとつらかったんだ」
そう北嶋に告げると、ゆっくりと北嶋は顔を上げる。
「知哉さんと付き合ってて、ずっとつらかった。本当に好きなのは、恋人の弟なんだ。そんなの、……つらいよ」
「峰」
「ふたりとはもう会わない。それが一番いい」
ひとりで先に帰ろうと思った。これ以上、顔を合わせているのは、お互いに限界だ。
「知哉さんとはバーで出会ったんだ。そこのバーで、知哉さん、すごいモテてた。だから、俺なんかよりもっと素敵な恋人ができる。北嶋も、……元気で」
だいたいホテル代の半分かなと思う金額を置いて、部屋を出た。
電車の中で確認すると、知哉さんからメールがきていた。『返信、遅くなってごめんなさい。明日にでもまた連絡します』と送る。すぐに着信がきたけれど、電車の中だったし取らなかった。家に帰ってもかけ直せなかった。
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