41 / 70
暴露と覚醒
設置
しおりを挟む
「ユウ様は大丈夫でしたか?」
「現実に頭が追いつかないから一度少し休む……だそうでござる」
ユウを部屋まで送って、中で二言三言ほど会話をした。
オタクとして異世界に心躍らせる気持ちを失ったわけじゃない。けど、ユウのここまで落ち込んだ姿を見ていると浮かれた気分になんてなれなかった。
それに、今日聞いたサーラ氏の話には所々気になる点がいくつかある。
ハディでテッサ氏に聞いた過去の戦争の曖昧な部分を魔族側で王族でもある二人に聞いておきたい。
「拙者も色々と聞きたいことがあるのでござるが……」
「なんでしょう?」
「ユウ氏が誰かに利用される為に呼ばれたと言っていたでござるが、拙者が呼ばれた理由はなんなのでござろうか?」
ユウには"魔王と同形の魂"という理由があった。
では拙者は?
やはり背中の紋章が関係している?
「トウカさんが呼ばれた理由はわかりません」
サーラ氏が言葉を続ける。
「聖王樹の紋という特別な力を持っているのは分かりましたが、それが目当てで呼ばれたならば今自由の身であることが意味不明です」
「それは……拙者が聖女としてこの世界に呼ばれたわけではないと?」
「そうです。そもそも聖女自体、見つければ保護される存在ではあっても増やしたり……ましてや異世界から呼び付けたりすることはまずありえないかと」
宗教的な理由、例えば教団の威光を取り戻す為……というのも考えにくい。実際、カガリ氏が騎士団から捜索されている時に逃走を手伝ってくれた信者もいたわけで……。
「一番の理由は法力の問題です。一人を異世界から呼ぶだけで途方もない量の法力が必要なのに、二人なんて呼べるわけがありません」
「つまり、拙者は愛の力で無理やりユウ氏に着いて来たと?」
それを聞いたサーラ氏が冷たい目で呆れる。
「そんな馬鹿な話、聞いたことも読んだことも無いですね」
「拙者の無限の愛なら可能かと思ったでござるが……」
その一言に何故かサーラ氏の表情が固まった。
(最近のご主人様はおかしか……)
リィルは仕事の準備をしつつそう思っていた。
たしかにご主人様は綺麗な女性に目が無か。それでもって問題が起きてもお金で解決しようとする危うい人。
でも五人の奥様方を分け隔てなく愛する愛妻家で、ウチのような孤児にも働き口を用意してくれる懐の広い人。
「あのインチキくさい商人が"お近付きの印に"ってご主人様に渡しよった宝石箱が臭かよね……」
今思えばその後やね。変化が起きたのは。
それまで1回行ったことがあるだけやったあの姉妹の元へ頻繁に行くようになって、報酬とは別に貢ぎ物までするように。
商会の運営に支障をきたさない範囲やけん特に問題は無かけど……。
「いや、ウチにくれるお小遣いが減っとるのは大問題やし」
それに、ウチの召喚術で護衛を引き離してどうするつもりなん?
正面から告白?ご主人様らしいっちゃご主人様らしいけど、そんな方法であの氷みたいな占い師をものにできるとは思えんっちゃんね……。
そんなことを頭で考えつつ、手は召喚陣とその反転陣をそれぞれ半分に繋げたものを正確に描き続ける。
場所はとある食事処の一角。
占い師の姉妹が必ず来る常連客という情報を得て、開店前の店内に忍び込み陣を仕掛けているところだ。
護衛と思しき帯剣していた少年を一時的に菖蒲蜥蜴の巣に飛ばして、その隙にご主人様が……って、本当にどうするんやろ?
上手くいく公算の低そうな計画に疑問を感じながらも、それが主人の命令なら従う。
「……よし。あとはここを通る瞬間に発動するだけやね」
準備を終えたリィルは誰にも見つからないようにそそくさと店から出ていった。
「現実に頭が追いつかないから一度少し休む……だそうでござる」
ユウを部屋まで送って、中で二言三言ほど会話をした。
オタクとして異世界に心躍らせる気持ちを失ったわけじゃない。けど、ユウのここまで落ち込んだ姿を見ていると浮かれた気分になんてなれなかった。
それに、今日聞いたサーラ氏の話には所々気になる点がいくつかある。
ハディでテッサ氏に聞いた過去の戦争の曖昧な部分を魔族側で王族でもある二人に聞いておきたい。
「拙者も色々と聞きたいことがあるのでござるが……」
「なんでしょう?」
「ユウ氏が誰かに利用される為に呼ばれたと言っていたでござるが、拙者が呼ばれた理由はなんなのでござろうか?」
ユウには"魔王と同形の魂"という理由があった。
では拙者は?
やはり背中の紋章が関係している?
「トウカさんが呼ばれた理由はわかりません」
サーラ氏が言葉を続ける。
「聖王樹の紋という特別な力を持っているのは分かりましたが、それが目当てで呼ばれたならば今自由の身であることが意味不明です」
「それは……拙者が聖女としてこの世界に呼ばれたわけではないと?」
「そうです。そもそも聖女自体、見つければ保護される存在ではあっても増やしたり……ましてや異世界から呼び付けたりすることはまずありえないかと」
宗教的な理由、例えば教団の威光を取り戻す為……というのも考えにくい。実際、カガリ氏が騎士団から捜索されている時に逃走を手伝ってくれた信者もいたわけで……。
「一番の理由は法力の問題です。一人を異世界から呼ぶだけで途方もない量の法力が必要なのに、二人なんて呼べるわけがありません」
「つまり、拙者は愛の力で無理やりユウ氏に着いて来たと?」
それを聞いたサーラ氏が冷たい目で呆れる。
「そんな馬鹿な話、聞いたことも読んだことも無いですね」
「拙者の無限の愛なら可能かと思ったでござるが……」
その一言に何故かサーラ氏の表情が固まった。
(最近のご主人様はおかしか……)
リィルは仕事の準備をしつつそう思っていた。
たしかにご主人様は綺麗な女性に目が無か。それでもって問題が起きてもお金で解決しようとする危うい人。
でも五人の奥様方を分け隔てなく愛する愛妻家で、ウチのような孤児にも働き口を用意してくれる懐の広い人。
「あのインチキくさい商人が"お近付きの印に"ってご主人様に渡しよった宝石箱が臭かよね……」
今思えばその後やね。変化が起きたのは。
それまで1回行ったことがあるだけやったあの姉妹の元へ頻繁に行くようになって、報酬とは別に貢ぎ物までするように。
商会の運営に支障をきたさない範囲やけん特に問題は無かけど……。
「いや、ウチにくれるお小遣いが減っとるのは大問題やし」
それに、ウチの召喚術で護衛を引き離してどうするつもりなん?
正面から告白?ご主人様らしいっちゃご主人様らしいけど、そんな方法であの氷みたいな占い師をものにできるとは思えんっちゃんね……。
そんなことを頭で考えつつ、手は召喚陣とその反転陣をそれぞれ半分に繋げたものを正確に描き続ける。
場所はとある食事処の一角。
占い師の姉妹が必ず来る常連客という情報を得て、開店前の店内に忍び込み陣を仕掛けているところだ。
護衛と思しき帯剣していた少年を一時的に菖蒲蜥蜴の巣に飛ばして、その隙にご主人様が……って、本当にどうするんやろ?
上手くいく公算の低そうな計画に疑問を感じながらも、それが主人の命令なら従う。
「……よし。あとはここを通る瞬間に発動するだけやね」
準備を終えたリィルは誰にも見つからないようにそそくさと店から出ていった。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
白花の咲く頃に
夕立
ファンタジー
命を狙われ、七歳で国を出奔した《シレジア》の王子ゼフィール。通りすがりの商隊に拾われ、平民の子として育てられた彼だが、成長するにしたがって一つの願いに駆られるようになった。
《シレジア》に帰りたい、と。
一七になった彼は帰郷を決意し商隊に別れを告げた。そして、《シレジア》へ入国しようと関所を訪れたのだが、入国を断られてしまう。
これは、そんな彼の旅と成長の物語。
※小説になろうでも公開しています(完結済)。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。
白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。
*外部サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる