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冒険の準備
死闘
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~ハディ付近~
「誰か今すぐ動ける者はおらぬか!」
壮年の男……ヨウケンは負傷者だらけの団員たちへ声をかける。
龍王騎士団の野営地が正体不明の敵に急襲を受けて壊滅状態に陥って少し経った後。
「全くもって情けない!こんな不覚をとるなど、戦場から離れてカンが鈍ってしもうたか」
無くなった右腕には止血のための包帯がきつく巻かれていた。
最初は見張りに立っていた団員がボロ切れを被った不審者に鋭利な刃物で襲撃を受けた。
そこから一瞬のうちに次々と休息を取っていた団員たちと鬼馬が負傷させられていき、武器をとって交戦した者は更に手酷い傷を受けた。
「無事な鬼馬もおらんのか!?」
「走れる状態の鬼馬は一頭もいません!近くの街に救援を要請しましたが、到着まではまだしばらくかかるかと思われます!」
ダンッ!
腸が煮えたぎるような屈辱に、思わず木を殴った。
「襲撃者たちはどこへ行った!」
「最後に交戦した者の話では街道方面へと去っていったと……!」
「なんだと!?そっちには団長が行っている!奇襲とは言え、小隊規模の我々をたった4人で壊滅させる手練が相手ではいかに団長と言えど……!!」
「秘剣!燕返し!」
振り下ろした一撃目をフェイントとし、一瞬で振り上げた二撃目で相手の頭を顎から叩き割る剣技。
「グゥッ!」
影は突き出した片手の爪を叩き折られ、片膝をついて地面に手を置く。
「見切ったでござる!」
影の足元から複数の鋭い土の槍が飛ばされるが灯花は全てを叩き落とした。
「制裁……制裁制裁制裁制裁!!!」
影は砕けた方の爪を口元に運んだかと思うと金属音を出しながら食べ始める。
「……爪を噛む人の怪物バージョンでござるかな?」
するともう片方の爪がさらに大きく鋭く変化した。
「ガァッ!!」
巨大な爪が灯花を袈裟斬りで襲う。
「そんな見え見えの太刀筋で拙者を斬ろうなどと……」
爪を受け止めようと木の棒を構える灯花。
しかし爪と棒が接触した瞬間。
「うひゃぁっ!!」
灯花は棒を手放して横飛びに避けた。爪は棒をあっさりと斬り裂き、灯花が居た場所に致死の一撃を空振りした。
体勢を崩した灯花を凶爪が再び襲う!
「させないよ!」
「……!!ッガァァァ!!!」
カガリが投げた短剣は影の目を潰し、それにより爪の軌道が変わった。
「助かったでござるよカガリ氏ぃ!」
攻撃が外れた隙をついて、すかさず灯花は影から距離を取ってカガリと並んだ。
「でやぁぁぁぁ!!!!」
そこに黒い大剣と鍔迫り合いの形でもう一つの影が押し込まれてくる。
「「二人とも無事!?」」
カガリと夕が同時に同じことを言った。
「ハッピーアイスクリームでござる!」
「言ってる場合か!」
思ったより余裕そうな灯花を見て夕は安堵した。
「そっちは一体倒したんだね!」
「騎士さんのおかげだよ」
騎士は会話中の三人を後ろにして二体の影と対峙する。
「手配書に書かれていた三人組はこの異形の者たちでしたか……。捕縛せよとの任務でしたがやむを得ません!」
大剣を構える。
すると
「同胞ヨ……我ガ命、勝利ノ為ニ捧グ!!」
凶爪の影が爪を自らの胸に突き立てて何かを取りだした。
「なっ!一体なにを!?」
「いけない!それをさせちゃだめだ!」
カガリの言葉を聞いて騎士が動く……が。
「受ケ取ッタゾ……。サラバダ同胞ヨ」
胸から取り出された深紅の石を影が受け取り、飲み込んだ。
「たぁっっ!!」
そこに騎士が斬り掛かる!
ガキン!
いつの間にか赤く変色し巨大化していた爪は大剣を片手で受け止めた。
「遅かった……!」
カガリはギリッと奥歯を噛み締めて悔しそうな表情をしていた。
「キサマガ1人目ダ」
ザシュッ
もう片方の巨爪が騎士の腹部を貫く。
「ぁ……かはっ……!」
ごぽり、と騎士の口から血が流れ出し、鎧の背中にもじわじわと赤い染みができていく。
「ま……だ……です……の!」
息も絶え絶えといった状態であるにも関わらず、その手は影の顔へと伸びていく。
「フン……。死ニ損ナイガ」
大剣を放り投げ、トドメを刺そうと爪が振りかぶられた瞬間。
「グアッ!!」
騎士の口から霧のように吐かれた血が影の顔を覆った。
「ふふ……ふ……ざまぁ……ないです……わ」
「小癪ナッ!」
影は刺している方の爪を振り騎士を放り捨て、顔の血をボロ切れで拭い始めた。
「ユウ!二人でトウカに速身の聖法をかけるよ!ボクに合わせて!」
「わ、わかったっ!!」
灯花の肩に手を置いてカガリと同時に詠唱を始める。
「「肉体は強靭な風となる」」
「邪法使イ共ガァッ!サセンゾッッ!!」
影が爪を振りかぶって襲いかかって来る!
「「速身の聖法……”シフ”!!」」
ザンッ!
巨爪は三人がいた場所へと真っ直ぐ振り下ろされた。
「間一髪……でござるな」
灯花の両脇に抱えられた僕とカガリはギリギリで爪を躱すことができた。
少し離れた場所に僕たちを下ろして灯花は影と見合った。
「丸腰ノ小娘ヒトリトハ……舐メルナッ!!」
再び振り下ろされた巨爪を避け、灯花は影の右側面へと走った。
その動きを見て、影はもう一方の巨爪を横殴りに振るう。
「丸腰ではござらん!」
ギンッ!
灯花は足元に転がっていた騎士の大剣を拾って必殺の一撃を受け止めた。
「敗ケタ者ノ武器デ何ガデキル!」
爪と大剣が火花を散らす。
「お前に……!」
灯花が更に大剣へと力を込める————
ガンッ
爪を弾き上げると同時に灯花は空中に飛び上がる。
そして落下の勢いを利用しながら体勢を崩した怪物と間合いを詰め……。
「勝てるっ!!」
渾身の一撃を影の頭へと振り下ろした!
「誰か今すぐ動ける者はおらぬか!」
壮年の男……ヨウケンは負傷者だらけの団員たちへ声をかける。
龍王騎士団の野営地が正体不明の敵に急襲を受けて壊滅状態に陥って少し経った後。
「全くもって情けない!こんな不覚をとるなど、戦場から離れてカンが鈍ってしもうたか」
無くなった右腕には止血のための包帯がきつく巻かれていた。
最初は見張りに立っていた団員がボロ切れを被った不審者に鋭利な刃物で襲撃を受けた。
そこから一瞬のうちに次々と休息を取っていた団員たちと鬼馬が負傷させられていき、武器をとって交戦した者は更に手酷い傷を受けた。
「無事な鬼馬もおらんのか!?」
「走れる状態の鬼馬は一頭もいません!近くの街に救援を要請しましたが、到着まではまだしばらくかかるかと思われます!」
ダンッ!
腸が煮えたぎるような屈辱に、思わず木を殴った。
「襲撃者たちはどこへ行った!」
「最後に交戦した者の話では街道方面へと去っていったと……!」
「なんだと!?そっちには団長が行っている!奇襲とは言え、小隊規模の我々をたった4人で壊滅させる手練が相手ではいかに団長と言えど……!!」
「秘剣!燕返し!」
振り下ろした一撃目をフェイントとし、一瞬で振り上げた二撃目で相手の頭を顎から叩き割る剣技。
「グゥッ!」
影は突き出した片手の爪を叩き折られ、片膝をついて地面に手を置く。
「見切ったでござる!」
影の足元から複数の鋭い土の槍が飛ばされるが灯花は全てを叩き落とした。
「制裁……制裁制裁制裁制裁!!!」
影は砕けた方の爪を口元に運んだかと思うと金属音を出しながら食べ始める。
「……爪を噛む人の怪物バージョンでござるかな?」
するともう片方の爪がさらに大きく鋭く変化した。
「ガァッ!!」
巨大な爪が灯花を袈裟斬りで襲う。
「そんな見え見えの太刀筋で拙者を斬ろうなどと……」
爪を受け止めようと木の棒を構える灯花。
しかし爪と棒が接触した瞬間。
「うひゃぁっ!!」
灯花は棒を手放して横飛びに避けた。爪は棒をあっさりと斬り裂き、灯花が居た場所に致死の一撃を空振りした。
体勢を崩した灯花を凶爪が再び襲う!
「させないよ!」
「……!!ッガァァァ!!!」
カガリが投げた短剣は影の目を潰し、それにより爪の軌道が変わった。
「助かったでござるよカガリ氏ぃ!」
攻撃が外れた隙をついて、すかさず灯花は影から距離を取ってカガリと並んだ。
「でやぁぁぁぁ!!!!」
そこに黒い大剣と鍔迫り合いの形でもう一つの影が押し込まれてくる。
「「二人とも無事!?」」
カガリと夕が同時に同じことを言った。
「ハッピーアイスクリームでござる!」
「言ってる場合か!」
思ったより余裕そうな灯花を見て夕は安堵した。
「そっちは一体倒したんだね!」
「騎士さんのおかげだよ」
騎士は会話中の三人を後ろにして二体の影と対峙する。
「手配書に書かれていた三人組はこの異形の者たちでしたか……。捕縛せよとの任務でしたがやむを得ません!」
大剣を構える。
すると
「同胞ヨ……我ガ命、勝利ノ為ニ捧グ!!」
凶爪の影が爪を自らの胸に突き立てて何かを取りだした。
「なっ!一体なにを!?」
「いけない!それをさせちゃだめだ!」
カガリの言葉を聞いて騎士が動く……が。
「受ケ取ッタゾ……。サラバダ同胞ヨ」
胸から取り出された深紅の石を影が受け取り、飲み込んだ。
「たぁっっ!!」
そこに騎士が斬り掛かる!
ガキン!
いつの間にか赤く変色し巨大化していた爪は大剣を片手で受け止めた。
「遅かった……!」
カガリはギリッと奥歯を噛み締めて悔しそうな表情をしていた。
「キサマガ1人目ダ」
ザシュッ
もう片方の巨爪が騎士の腹部を貫く。
「ぁ……かはっ……!」
ごぽり、と騎士の口から血が流れ出し、鎧の背中にもじわじわと赤い染みができていく。
「ま……だ……です……の!」
息も絶え絶えといった状態であるにも関わらず、その手は影の顔へと伸びていく。
「フン……。死ニ損ナイガ」
大剣を放り投げ、トドメを刺そうと爪が振りかぶられた瞬間。
「グアッ!!」
騎士の口から霧のように吐かれた血が影の顔を覆った。
「ふふ……ふ……ざまぁ……ないです……わ」
「小癪ナッ!」
影は刺している方の爪を振り騎士を放り捨て、顔の血をボロ切れで拭い始めた。
「ユウ!二人でトウカに速身の聖法をかけるよ!ボクに合わせて!」
「わ、わかったっ!!」
灯花の肩に手を置いてカガリと同時に詠唱を始める。
「「肉体は強靭な風となる」」
「邪法使イ共ガァッ!サセンゾッッ!!」
影が爪を振りかぶって襲いかかって来る!
「「速身の聖法……”シフ”!!」」
ザンッ!
巨爪は三人がいた場所へと真っ直ぐ振り下ろされた。
「間一髪……でござるな」
灯花の両脇に抱えられた僕とカガリはギリギリで爪を躱すことができた。
少し離れた場所に僕たちを下ろして灯花は影と見合った。
「丸腰ノ小娘ヒトリトハ……舐メルナッ!!」
再び振り下ろされた巨爪を避け、灯花は影の右側面へと走った。
その動きを見て、影はもう一方の巨爪を横殴りに振るう。
「丸腰ではござらん!」
ギンッ!
灯花は足元に転がっていた騎士の大剣を拾って必殺の一撃を受け止めた。
「敗ケタ者ノ武器デ何ガデキル!」
爪と大剣が火花を散らす。
「お前に……!」
灯花が更に大剣へと力を込める————
ガンッ
爪を弾き上げると同時に灯花は空中に飛び上がる。
そして落下の勢いを利用しながら体勢を崩した怪物と間合いを詰め……。
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