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第四章 天命
第二十一話 岩の獣
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岩の獣は様々だった。
狼、ガゼル、アナグマ……岩であるために表情などはわからないが敵意を持っていることだけは間違いなかった。おそらくは天の牡牛の眷属なのだろう。
「来るわよ!」
ミミエルが叫ぶ。
それと同時に岩の獣が動き出す……よりも先にシャルラが矢を放った。
矢はガゼルの頭を吹き飛ばした。
「あまり硬くないみたいね」
「石の戦士にくらべりゃどうってことねえよ」
ターハが答えながら軽く棍棒を握る。
「ひとまず敵の数を減らしましょう。そうでなければ核を探索できそうにありません。わたくしたちが左側に。あなた方は右側に分かれましょう」
ラマトは自分のギルドの冒険者に指示を飛ばす。
顔なじみと共に戦った方が効率的なので当然の選択だった。
シャルラは再び矢を番え、ミミエルは黒曜石のナイフを投擲する。岩の塊ならそうそう簡単に破壊できるはずはないのだが、想像以上に天の牡牛の眷属は脆い。
「は。とんだこけおどしだよ!」
ターハが棍棒を打ち据え、岩の狼を吹き飛ばす。
ミミエルがちらりと横を見るとラマトたちも優勢だった。
いける、と誰もが思った。
その瞬間だった。
『みんな! 何かに掴まって!』
携帯粘土板からエタの警告が聞こえたのは。
シュメールの面々はほぼ反射的に天の牡牛の背中の毛を掴んだ。
しかしラマトたちは、ラマトを除いて判断が遅れた。
ごう、という衝撃。そしてふわりと体が浮く感覚。
つまりこれは。
「これ!?」
「嘘だろお!?」
「跳んだの!?」
天の牡牛は一気に跳躍したのだ。
巨体に見合わぬ身軽さに誰もが驚愕した。
より強く、天の牡牛の毛を掴む、ミミエル、シャルラ、ターハ、ラマトの四人。
しかしそれ以外の『怒れる仮面』の冒険者や、岩の獣たちは空中で振り落とされた。
さらにすさまじい着地の衝撃が四人を襲う。しかしそれさえも耐えきってみせた。
「ご、ご無事ですか……?」
ラマトも戸惑いを消せないながらも問いかける。
「何とかね……あんたのギルドの……」
冒険者たちはどうなったのか。それを聞くのをミミエルはためらった。
「落ちたようです。下が水ならばあるいは生きているかもしれません」
楽観的にはなれなかったが悲観的になっている暇はない。
天の牡牛は川を脱出してしまった。つまり天の牡牛は掟を使える状態だ。
「急いで核を探さないと……幸い岩の獣はいなくなったから……」
シャルラが言い終わるよりも先に、ずしんと天の牡牛が地面を打つ音が聞こえた。
思わず下にいる味方のことを心配したが……天の牡牛の狙いはそうではなかった。
「っ! 上!」
ミミエルが叫ぶ。
空高く舞い上がった岩は天の牡牛の背中……つまりミミエルたちめがけて落ちてきた。
ただでさえ不安定な背中の上で必死に避ける。全員無事だったのは神々の加護があったからだろう。
それらは確かにミミエルたちを危機に陥れたが、同時に天の牡牛の背中にも小さくない傷を作った。
「これは……どうも敵もわたくしたちを恐れていると思うべきでしょうか」
「焦ってはいそうね」
ラマトとミミエルは冷静だったが、次の瞬間には顔色が変わった。
「おいおいおい! あれ、岩の獣か!? あいつらまだいんのかよ!」
「いいえ。どうやら先ほど打ち上げられた岩が獣に変化したようです」
こちらの数は半減しているが、もしも地面の砂や岩からあの岩の獣を作れるなら、敵はいくらでも補充される。
これでは先に力尽きるのはこちらだろう。
「……ミミエルさん。あなたは目と耳が大変良いのですよね」
「そうね」
ラマトの次の言葉を悟ったシャルラがミミエルに声をかける。
「あなたが迷宮の核を探して。ここは私たちに任せなさい」
ぎりっと弓を弾き絞る。ターハは棍棒を構え、ラマトもまた槍を中段に構える。
議論をしている暇はない。
「わかった。何とかするわ」
たんっと天の牡牛の背中を蹴り、走り出した。
狼、ガゼル、アナグマ……岩であるために表情などはわからないが敵意を持っていることだけは間違いなかった。おそらくは天の牡牛の眷属なのだろう。
「来るわよ!」
ミミエルが叫ぶ。
それと同時に岩の獣が動き出す……よりも先にシャルラが矢を放った。
矢はガゼルの頭を吹き飛ばした。
「あまり硬くないみたいね」
「石の戦士にくらべりゃどうってことねえよ」
ターハが答えながら軽く棍棒を握る。
「ひとまず敵の数を減らしましょう。そうでなければ核を探索できそうにありません。わたくしたちが左側に。あなた方は右側に分かれましょう」
ラマトは自分のギルドの冒険者に指示を飛ばす。
顔なじみと共に戦った方が効率的なので当然の選択だった。
シャルラは再び矢を番え、ミミエルは黒曜石のナイフを投擲する。岩の塊ならそうそう簡単に破壊できるはずはないのだが、想像以上に天の牡牛の眷属は脆い。
「は。とんだこけおどしだよ!」
ターハが棍棒を打ち据え、岩の狼を吹き飛ばす。
ミミエルがちらりと横を見るとラマトたちも優勢だった。
いける、と誰もが思った。
その瞬間だった。
『みんな! 何かに掴まって!』
携帯粘土板からエタの警告が聞こえたのは。
シュメールの面々はほぼ反射的に天の牡牛の背中の毛を掴んだ。
しかしラマトたちは、ラマトを除いて判断が遅れた。
ごう、という衝撃。そしてふわりと体が浮く感覚。
つまりこれは。
「これ!?」
「嘘だろお!?」
「跳んだの!?」
天の牡牛は一気に跳躍したのだ。
巨体に見合わぬ身軽さに誰もが驚愕した。
より強く、天の牡牛の毛を掴む、ミミエル、シャルラ、ターハ、ラマトの四人。
しかしそれ以外の『怒れる仮面』の冒険者や、岩の獣たちは空中で振り落とされた。
さらにすさまじい着地の衝撃が四人を襲う。しかしそれさえも耐えきってみせた。
「ご、ご無事ですか……?」
ラマトも戸惑いを消せないながらも問いかける。
「何とかね……あんたのギルドの……」
冒険者たちはどうなったのか。それを聞くのをミミエルはためらった。
「落ちたようです。下が水ならばあるいは生きているかもしれません」
楽観的にはなれなかったが悲観的になっている暇はない。
天の牡牛は川を脱出してしまった。つまり天の牡牛は掟を使える状態だ。
「急いで核を探さないと……幸い岩の獣はいなくなったから……」
シャルラが言い終わるよりも先に、ずしんと天の牡牛が地面を打つ音が聞こえた。
思わず下にいる味方のことを心配したが……天の牡牛の狙いはそうではなかった。
「っ! 上!」
ミミエルが叫ぶ。
空高く舞い上がった岩は天の牡牛の背中……つまりミミエルたちめがけて落ちてきた。
ただでさえ不安定な背中の上で必死に避ける。全員無事だったのは神々の加護があったからだろう。
それらは確かにミミエルたちを危機に陥れたが、同時に天の牡牛の背中にも小さくない傷を作った。
「これは……どうも敵もわたくしたちを恐れていると思うべきでしょうか」
「焦ってはいそうね」
ラマトとミミエルは冷静だったが、次の瞬間には顔色が変わった。
「おいおいおい! あれ、岩の獣か!? あいつらまだいんのかよ!」
「いいえ。どうやら先ほど打ち上げられた岩が獣に変化したようです」
こちらの数は半減しているが、もしも地面の砂や岩からあの岩の獣を作れるなら、敵はいくらでも補充される。
これでは先に力尽きるのはこちらだろう。
「……ミミエルさん。あなたは目と耳が大変良いのですよね」
「そうね」
ラマトの次の言葉を悟ったシャルラがミミエルに声をかける。
「あなたが迷宮の核を探して。ここは私たちに任せなさい」
ぎりっと弓を弾き絞る。ターハは棍棒を構え、ラマトもまた槍を中段に構える。
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