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第四章 天命
第二十話 天の獣の背に乗って
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エタは対岸から指示を出していた。
当初川に入ろうとしたものの。
「邪魔」
「足手まとい」
「指揮に集中して?」
などなど温かい言葉の数々で歓迎されたため、後方から状況を把握することに集中することになった。
今回の作戦はまず相手の左側を集中的に攻めて、片足だけでも移動不可能なほどに損傷を与える。もしも強引に突っ切ろうとした場合は直接核を狙う。
そのために左側は少数精鋭で固めていたのだ。天の牡牛が敵を抜けるために左寄りに進路を取るように。
ずんずんと水を掻きわけて進む天の牡牛に対して攻撃の指示を飛ばす。
「ターハさん! 新しい掟を!」
「おう! 任せな!」
ターハは肩に小さな縄が括り付けられた銛を担いでいた。
迫りくる天の牡牛に対して厳しい目線を送り、銛を投げつける態勢に入る。右後ろ足を川に沈めた瞬間、彼女のたくましい腕から銛が飛んでいく。
それは天の牡牛の右腰に突き刺さる。
だがもちろんその程度では止まらない。
もちろんそれはターハも承知している。
「うっしゃあ! そんじゃいくぜ!」
ターハが銛に向かって手を伸ばす。すると銛から……否、銛に括り付けられた縄からいくつもの縄が飛び出した。
これこそ彼女の掟、『縄を括り付ける』を持った銛……ではなく縄である。
何かに括り付け、それに向かって手を伸ばすと縄がいくつも出現する。急斜面を登ったり、向こう岸に行きたいときには便利そうな掟である、とは本人の弁だ。
先日のアラッタ攻略戦のあと授かったらしい。
この土壇場で使うことになるとは想像もしていなかったようだ。
銛から垂れ下がる縄に必死で手を伸ばすシュメールと『怒れる仮面』の構成員たち。
揺れ動くそれらを掴むのは容易ではない。しかし予想通りというべきか、最初に掴んだのはミミエルだった。
不思議なもので、最初の一人が成功すると雪崩を打つように他の面々も縄を掴んだ。
「うし! それじゃあ行くぞ!」
ターハは叫んで掟を解除する。
この掟は解除すると縄が消えるのではなく、縮む。言い換えれば縄の端を掴んでおけばもともと縄のあった場所に移動できる。
ぐんぐん引き上げられるミミエルたちは一気に天の牡牛の腰に近づく。
それに合わせてミミエルは自分の縄をぐっと引き、一気に天の牡牛に飛び移り、一番乗りを果たした。
さらに味方に手を貸し、飛び移る手助けをする。この道三十年の曲芸師だと言われても疑わないような身軽さだった。
「背中までたどり着いたのは……八人ね」
ミミエルがぱっと数える。
「おっさんは無理だったみたいだな。お、シャルラも来れたのか」
「どうにかね……」
天の牡牛の背に飛び乗れたのは、ミミエル、シャルラ、ターハ、ラマト、そして『怒れる仮面』の冒険者たち四人だった。
「さて、それではわたくしたちで迷宮の核の場所を突き止めねばなりませんね」
きょろきょろと背中を見回すが怪しそうな場所はない。
「……なあ。こいつ、いきなり寝転がったりしないよな」
「大丈夫じゃない? 今横になったら集中攻撃されるし」
ターハの疑問を軽くいなすミミエルだが、表情は晴れない。水が苦手だと予想されてはいるが、もしも川を突破されれば振り落とすために暴れまわってもおかしくない。
だからこそ早めに核を見つけ出さなければならなかったのだが。
ゴゴゴゴ、と背中にいるはずなのに激しい地震のような揺れがミミエルたちを襲った。
「何よこれ……」
「……どうやら、天の牡牛はこの事態に備えていたようですね」
ラマトがちらりと視線を送った先には、天の牡牛の背からいくつもの岩の塊がのっそりと盛り上がり……それらは岩の動物の姿を形作った。
当初川に入ろうとしたものの。
「邪魔」
「足手まとい」
「指揮に集中して?」
などなど温かい言葉の数々で歓迎されたため、後方から状況を把握することに集中することになった。
今回の作戦はまず相手の左側を集中的に攻めて、片足だけでも移動不可能なほどに損傷を与える。もしも強引に突っ切ろうとした場合は直接核を狙う。
そのために左側は少数精鋭で固めていたのだ。天の牡牛が敵を抜けるために左寄りに進路を取るように。
ずんずんと水を掻きわけて進む天の牡牛に対して攻撃の指示を飛ばす。
「ターハさん! 新しい掟を!」
「おう! 任せな!」
ターハは肩に小さな縄が括り付けられた銛を担いでいた。
迫りくる天の牡牛に対して厳しい目線を送り、銛を投げつける態勢に入る。右後ろ足を川に沈めた瞬間、彼女のたくましい腕から銛が飛んでいく。
それは天の牡牛の右腰に突き刺さる。
だがもちろんその程度では止まらない。
もちろんそれはターハも承知している。
「うっしゃあ! そんじゃいくぜ!」
ターハが銛に向かって手を伸ばす。すると銛から……否、銛に括り付けられた縄からいくつもの縄が飛び出した。
これこそ彼女の掟、『縄を括り付ける』を持った銛……ではなく縄である。
何かに括り付け、それに向かって手を伸ばすと縄がいくつも出現する。急斜面を登ったり、向こう岸に行きたいときには便利そうな掟である、とは本人の弁だ。
先日のアラッタ攻略戦のあと授かったらしい。
この土壇場で使うことになるとは想像もしていなかったようだ。
銛から垂れ下がる縄に必死で手を伸ばすシュメールと『怒れる仮面』の構成員たち。
揺れ動くそれらを掴むのは容易ではない。しかし予想通りというべきか、最初に掴んだのはミミエルだった。
不思議なもので、最初の一人が成功すると雪崩を打つように他の面々も縄を掴んだ。
「うし! それじゃあ行くぞ!」
ターハは叫んで掟を解除する。
この掟は解除すると縄が消えるのではなく、縮む。言い換えれば縄の端を掴んでおけばもともと縄のあった場所に移動できる。
ぐんぐん引き上げられるミミエルたちは一気に天の牡牛の腰に近づく。
それに合わせてミミエルは自分の縄をぐっと引き、一気に天の牡牛に飛び移り、一番乗りを果たした。
さらに味方に手を貸し、飛び移る手助けをする。この道三十年の曲芸師だと言われても疑わないような身軽さだった。
「背中までたどり着いたのは……八人ね」
ミミエルがぱっと数える。
「おっさんは無理だったみたいだな。お、シャルラも来れたのか」
「どうにかね……」
天の牡牛の背に飛び乗れたのは、ミミエル、シャルラ、ターハ、ラマト、そして『怒れる仮面』の冒険者たち四人だった。
「さて、それではわたくしたちで迷宮の核の場所を突き止めねばなりませんね」
きょろきょろと背中を見回すが怪しそうな場所はない。
「……なあ。こいつ、いきなり寝転がったりしないよな」
「大丈夫じゃない? 今横になったら集中攻撃されるし」
ターハの疑問を軽くいなすミミエルだが、表情は晴れない。水が苦手だと予想されてはいるが、もしも川を突破されれば振り落とすために暴れまわってもおかしくない。
だからこそ早めに核を見つけ出さなければならなかったのだが。
ゴゴゴゴ、と背中にいるはずなのに激しい地震のような揺れがミミエルたちを襲った。
「何よこれ……」
「……どうやら、天の牡牛はこの事態に備えていたようですね」
ラマトがちらりと視線を送った先には、天の牡牛の背からいくつもの岩の塊がのっそりと盛り上がり……それらは岩の動物の姿を形作った。
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