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第四章 天命
第八話 話し合い
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「ではもう少し詳しく自己紹介をいたしましょうか」
ラマトが微笑みをたたえながら会議の進行を務める。
すらりと伸びた長い髪に葦のように伸びた背筋がよく調和していた。顔に化粧を施しており、その模様から、戦士の家系であると推測できた。
「わたくしはラマト。『怒れる仮面』のギルド長を勤めております」
優雅に一礼するラマトは育ちがよさそうだが、鞘に納められた剣のような鋭い視線だった。
「ごほ……俺は『紅の絆』のカロッサ。エタリッツ君は知っているかもしれないが、ラッザの弟だ」
「ラッザさんの? 初めて知りましたが、よろしくお願いします」
確かに妙に不健康そうなところがラッザと重なる部分があった。それにしても兄弟でともにギルド長をしているのというのはかなり優秀な兄弟なのかもしれない。
先ほどエタは自己紹介したため視線は最後の一人に集中する。
「……」
しかしアタブは不機嫌そうに眼を逸らすばかりだった。
ラマトはそれをたしなめる。
「アタブさん。あなたがこの班分けに不満があるのは想像できます。ですがカロッサさんも複数の迷宮を踏破したギルドの長ですし、エタリッツさんもあのアラッタ攻略に参加し生き延びた経歴を持っています。私もその活躍を目にしています。決して軽んじてよい人物ではありません」
エタは少し驚いた。
どうやらラマトはアラッタの攻略に参加していたらしい。よく見るとラマトの携帯粘土板には上部に二重の線が刻まれていた。
あれは携帯粘土板を紛失し、再発行してもらった場合に刻まれるらしい。つまり掟を使えない状況でも生き延びたらしい。それだけでも十分ラマトの腕前は察せられた。
一息に語ったラマトに対して、はあ、とアタブはため息をついてから話し始めた。
「俺は『吠えるグズリ』のアタブだ。北方に遠征に出かけていたらいきなりこんな事態になっていて面食らっている」
アタブは真っ黒な髪をがしがしとかいた。
そしてアタブの肌は夜のように黒い。
おそらく先祖代々ウルクの出身というわけではないだろう。
ここよりはるか西方の民だろう。……何故ウルクにいるのか聞かない方がよさそうだった。無理やり連れてこられた、あるいはそのような人々の子孫である可能性が高そうだった。
あるいは、それがエタたちにとげとげしい態度をとり続けている理由なのかもしれない。
「さて。それでは我々の任務を説明しましょう」
ラマトが改めて進行役を務め始めた。彼女だけが直接上層部からの指示を受け取っているため、事実上ここのトップだった。
「わたくしどもの役目は、盾です」
「囮の間違いじゃねえのか」
アタブが不満そうに口を尖らせた。
「アタブさん。お気持ちはわかりますが……相手はあの天の牡牛です。誰かが泥をかぶらねばならないのです」
「はん。で? 具体的には何をすんだよ」
「まず斥候の部隊が天の牡牛を見つけます。そののち、我々のように盾の役割を持った部隊が接近します。そこで敵の攻撃をあえて受けます」
「何でわざわざそんなことすんだよ。すぐに攻めりゃいいじゃねえか」
「天の牡牛は戦えば戦うほど疲労するようです」
アタブの疑問に答えたのはエタだった。それにラマトも同調する。
「はい。天の牡牛は長く戦えない。地震の掟を使えば使うほど弱体化してしまう。そう説明されましたが……エタリッツさんはどこでそれを知ったのですか?」
「エドゥッパに知り合いがいましたから、その人に聞きました」
半分は事実だが半分は嘘だ。エタもエドゥッパに所属していたので、自分でも多少調べた。
「け、コネ自慢かよ」
嘘をついた理由はもちろんこういう事態を避けたかったらだ。エドゥッパに所属していたと知られれば余計な反感を買っただろう。
「ごほ……他者との知己も立派な長の資質ですよ。つまり我々の部隊は天の牡牛の攻撃になるべく耐えなければいけないわけですね。では、どのような攻撃をしてくるのでしょうか」
カロッサの質問にラマトが答える。
「岩を飛ばしたり、地面を隆起させたりするようです。『地震』の掟ですからそのような攻撃になるようです」
「ちなみにその岩の大きさは記録にある限りだと人の頭よりも大きかったそうです」
カロッサとアタブは思わずうなっていた。
ラマトが微笑みをたたえながら会議の進行を務める。
すらりと伸びた長い髪に葦のように伸びた背筋がよく調和していた。顔に化粧を施しており、その模様から、戦士の家系であると推測できた。
「わたくしはラマト。『怒れる仮面』のギルド長を勤めております」
優雅に一礼するラマトは育ちがよさそうだが、鞘に納められた剣のような鋭い視線だった。
「ごほ……俺は『紅の絆』のカロッサ。エタリッツ君は知っているかもしれないが、ラッザの弟だ」
「ラッザさんの? 初めて知りましたが、よろしくお願いします」
確かに妙に不健康そうなところがラッザと重なる部分があった。それにしても兄弟でともにギルド長をしているのというのはかなり優秀な兄弟なのかもしれない。
先ほどエタは自己紹介したため視線は最後の一人に集中する。
「……」
しかしアタブは不機嫌そうに眼を逸らすばかりだった。
ラマトはそれをたしなめる。
「アタブさん。あなたがこの班分けに不満があるのは想像できます。ですがカロッサさんも複数の迷宮を踏破したギルドの長ですし、エタリッツさんもあのアラッタ攻略に参加し生き延びた経歴を持っています。私もその活躍を目にしています。決して軽んじてよい人物ではありません」
エタは少し驚いた。
どうやらラマトはアラッタの攻略に参加していたらしい。よく見るとラマトの携帯粘土板には上部に二重の線が刻まれていた。
あれは携帯粘土板を紛失し、再発行してもらった場合に刻まれるらしい。つまり掟を使えない状況でも生き延びたらしい。それだけでも十分ラマトの腕前は察せられた。
一息に語ったラマトに対して、はあ、とアタブはため息をついてから話し始めた。
「俺は『吠えるグズリ』のアタブだ。北方に遠征に出かけていたらいきなりこんな事態になっていて面食らっている」
アタブは真っ黒な髪をがしがしとかいた。
そしてアタブの肌は夜のように黒い。
おそらく先祖代々ウルクの出身というわけではないだろう。
ここよりはるか西方の民だろう。……何故ウルクにいるのか聞かない方がよさそうだった。無理やり連れてこられた、あるいはそのような人々の子孫である可能性が高そうだった。
あるいは、それがエタたちにとげとげしい態度をとり続けている理由なのかもしれない。
「さて。それでは我々の任務を説明しましょう」
ラマトが改めて進行役を務め始めた。彼女だけが直接上層部からの指示を受け取っているため、事実上ここのトップだった。
「わたくしどもの役目は、盾です」
「囮の間違いじゃねえのか」
アタブが不満そうに口を尖らせた。
「アタブさん。お気持ちはわかりますが……相手はあの天の牡牛です。誰かが泥をかぶらねばならないのです」
「はん。で? 具体的には何をすんだよ」
「まず斥候の部隊が天の牡牛を見つけます。そののち、我々のように盾の役割を持った部隊が接近します。そこで敵の攻撃をあえて受けます」
「何でわざわざそんなことすんだよ。すぐに攻めりゃいいじゃねえか」
「天の牡牛は戦えば戦うほど疲労するようです」
アタブの疑問に答えたのはエタだった。それにラマトも同調する。
「はい。天の牡牛は長く戦えない。地震の掟を使えば使うほど弱体化してしまう。そう説明されましたが……エタリッツさんはどこでそれを知ったのですか?」
「エドゥッパに知り合いがいましたから、その人に聞きました」
半分は事実だが半分は嘘だ。エタもエドゥッパに所属していたので、自分でも多少調べた。
「け、コネ自慢かよ」
嘘をついた理由はもちろんこういう事態を避けたかったらだ。エドゥッパに所属していたと知られれば余計な反感を買っただろう。
「ごほ……他者との知己も立派な長の資質ですよ。つまり我々の部隊は天の牡牛の攻撃になるべく耐えなければいけないわけですね。では、どのような攻撃をしてくるのでしょうか」
カロッサの質問にラマトが答える。
「岩を飛ばしたり、地面を隆起させたりするようです。『地震』の掟ですからそのような攻撃になるようです」
「ちなみにその岩の大きさは記録にある限りだと人の頭よりも大きかったそうです」
カロッサとアタブは思わずうなっていた。
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