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第三章『身代わり王 』
第五十七話 王
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「お、お、おおお」
雷鳴のような太い声を発したのはトエラーだった。
その瞳からは豪雨のごとき涙がこぼれ、ついには膝をついた。
「まことに、誠に申し訳ございません! 皇太子殿下が身近におられるのにそれに気づかなかったばかりか……御身を危険にさらすなど!」
大げさではあるのだが、演技や虚偽を用いているようには見えない。トエラーは誠実な忠義の士そのものだった。
それに一拍遅れて放心していたラッザは一瞬だけぎらついた瞳で打算を巡らし、地面に額をこすりつけた。
「ラバシュム様! わたくしこそ、長年あなたさまを部下としながらも露とあなたの正体に気づかなかったこと、平にご容赦を!」
「いえ……ギルド長がいたからこそ、僕も無事にここに戻ってこれたのです」
「は! まことに感激の至り!」
「それで、ラッザ殿?」
「いかがいたしましたか、ラキア様」
「あなたは今回の遠征で何か不可思議な指令を受け取っていませんでしたか?」
ラッザの肩がピクリと震えたことを気づいた人間がどれだけいたのか。少なくとも地に頭を伏していたせいで表情は見えなかった。
「実は、国王陛下の義弟より、数人の冒険者を見張れという指令があったのです。今ならばその意味は分かります。ラバシュム様に何らかの悪事をもくろんでいたのでしょう」
ラッザが真相を全く知らなかったということはまずありえまい。
だが、今この状況ではラッザを味方につけ、義弟の策謀を明らかにすることを優先するべきだった。
だからこそ、エタも先ほどはラッザが差も何も知らないだろうという虚言を口にしたのだ。それにラキアも便乗した。
「実はすでに国王陛下は亡くなっておられます」
「その国王陛下とは、身代わりではなく?」
「はい。つまり、現在この国には王が不在です。残念ながら国王陛下にはご兄弟がいらっしゃいません。ああいえ、正確にはおひとり弟君がいらっしゃいましたが、すでにご逝去なさっております」
「……噂では亡くなったのではなくイシュタル神殿に匿われているという話も聞きますが……」
「ただの噂ですよ、シャルラさん。たとえそれが事実だったとしても心配いりません。ラバシュム様が王位を継承するのですから」
そう。
ラキアの言う通り、これですべて神々の定めた通り、正しく物事は進む。
国王の息子に王位が継がれ、王の義弟は失墜する。これが正義ではなく、なんだというのか。
(あまりにも多くの策謀に触れすぎたせいかな。でも……まだ終わりじゃないとしたら?)
本当に推測の積み重ねだったが、ラバシュムが王位を継ぐことで利益のある人物がいるはずだ。
「さあ、ラバシュム様。これに手を」
ラキアがいつの間にか手に取っていたのは一枚の粘土板だった。だが、かすかながら光輝いているそれは普通の粘土板ではない。
「王位の継承を示す粘土板です。さあ、どうぞ」
誰もが喉を鳴らす。
ラトゥス……否、ラバシュムが手を触れるとそれは大きく光り輝き、明けの明星が目の前に現れたがごとく激しいメラムとなった。
エタも、その他全員も、全く意識することなく、跪いていた。
これこそが本物の奇跡。
これこそが神秘。
これこそが世界を統べ、定め、理を示す『掟』。
ただ一人立っているラバシュムこそ真の王であるとこの場にいる誰もが理解できた。
理解できたが。
それを認めるかどうかは全く別の問題だった。
ひゅっと風を切る音。
それに誰よりも早く反応したミミエルがラバシュムに迫る矢を打ち落とした。
雷鳴のような太い声を発したのはトエラーだった。
その瞳からは豪雨のごとき涙がこぼれ、ついには膝をついた。
「まことに、誠に申し訳ございません! 皇太子殿下が身近におられるのにそれに気づかなかったばかりか……御身を危険にさらすなど!」
大げさではあるのだが、演技や虚偽を用いているようには見えない。トエラーは誠実な忠義の士そのものだった。
それに一拍遅れて放心していたラッザは一瞬だけぎらついた瞳で打算を巡らし、地面に額をこすりつけた。
「ラバシュム様! わたくしこそ、長年あなたさまを部下としながらも露とあなたの正体に気づかなかったこと、平にご容赦を!」
「いえ……ギルド長がいたからこそ、僕も無事にここに戻ってこれたのです」
「は! まことに感激の至り!」
「それで、ラッザ殿?」
「いかがいたしましたか、ラキア様」
「あなたは今回の遠征で何か不可思議な指令を受け取っていませんでしたか?」
ラッザの肩がピクリと震えたことを気づいた人間がどれだけいたのか。少なくとも地に頭を伏していたせいで表情は見えなかった。
「実は、国王陛下の義弟より、数人の冒険者を見張れという指令があったのです。今ならばその意味は分かります。ラバシュム様に何らかの悪事をもくろんでいたのでしょう」
ラッザが真相を全く知らなかったということはまずありえまい。
だが、今この状況ではラッザを味方につけ、義弟の策謀を明らかにすることを優先するべきだった。
だからこそ、エタも先ほどはラッザが差も何も知らないだろうという虚言を口にしたのだ。それにラキアも便乗した。
「実はすでに国王陛下は亡くなっておられます」
「その国王陛下とは、身代わりではなく?」
「はい。つまり、現在この国には王が不在です。残念ながら国王陛下にはご兄弟がいらっしゃいません。ああいえ、正確にはおひとり弟君がいらっしゃいましたが、すでにご逝去なさっております」
「……噂では亡くなったのではなくイシュタル神殿に匿われているという話も聞きますが……」
「ただの噂ですよ、シャルラさん。たとえそれが事実だったとしても心配いりません。ラバシュム様が王位を継承するのですから」
そう。
ラキアの言う通り、これですべて神々の定めた通り、正しく物事は進む。
国王の息子に王位が継がれ、王の義弟は失墜する。これが正義ではなく、なんだというのか。
(あまりにも多くの策謀に触れすぎたせいかな。でも……まだ終わりじゃないとしたら?)
本当に推測の積み重ねだったが、ラバシュムが王位を継ぐことで利益のある人物がいるはずだ。
「さあ、ラバシュム様。これに手を」
ラキアがいつの間にか手に取っていたのは一枚の粘土板だった。だが、かすかながら光輝いているそれは普通の粘土板ではない。
「王位の継承を示す粘土板です。さあ、どうぞ」
誰もが喉を鳴らす。
ラトゥス……否、ラバシュムが手を触れるとそれは大きく光り輝き、明けの明星が目の前に現れたがごとく激しいメラムとなった。
エタも、その他全員も、全く意識することなく、跪いていた。
これこそが本物の奇跡。
これこそが神秘。
これこそが世界を統べ、定め、理を示す『掟』。
ただ一人立っているラバシュムこそ真の王であるとこの場にいる誰もが理解できた。
理解できたが。
それを認めるかどうかは全く別の問題だった。
ひゅっと風を切る音。
それに誰よりも早く反応したミミエルがラバシュムに迫る矢を打ち落とした。
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