242 / 266
第三章『身代わり王 』
第五十五話 真相
しおりを挟む
遠征軍の指揮官だったトエラーはイシュタル神殿に呼び出されたが、その道中で見知った顔を見つけた。
「たしか、ラッザ殿でしたか?」
「これはトエラー殿。しがないギルド長でしかない私の名を覚えてくださったとは光栄です」
ラッザは長旅の疲労から顔が青ざめていたが、肩の荷が下りたように晴れやかな顔だった。
「あなたもイシュタル神殿に招かれたのですかな?」
「ええ。どうも国王陛下についてお話があるとか」
「そうなのですか? 私は遠征軍に関わる話だと聞いておりますが……」
ラッザは心の中でやはりトエラーは何も知らないのだな、と呆れるような、しかしそれでいてどこかうらやましそうに思った。
この黒々とした陰謀劇を知らずにいれるのならそれはそれで幸福なことだったのかもしれない。
(いまさらですがね。もう私は戻れない)
ラッザは断れる状況ではなかったとはいえ自らのギルドの冒険者が殺害されることを容認した。
父から受け継いだギルドを経営してもう十年ほど。
もともと体が丈夫ではなく、冒険者として優秀ではないラッザは当初からギルド長になることに厳しい視線が多かった。
やはり冒険者として大成してからギルド長になるべきだという偏見は根強いのだ。
そもそもギルド長と冒険者は別の適性が必要になる職業であり、向き不向きで判断するべきだとラッザがどれだけ訴えてもそれに賛同してくれる人間はほとんどいなかった。
だからこそラッザはギルドを可能な限り大きくした。子供じみた反骨心と自嘲したこともあるが、歩みを止めなかった。
……王の義弟の自らが王位に就くための策謀に乗ったのもそれが理由だ。
(おそらくイシュタル神殿は義弟の王位を認めるだろう。あるいは、このアラッタの遠征を王位の箔付けに利用するつもりかもしれない。我々はその証人か)
白い、自らの心とは裏腹の神殿であるイシュタル神殿に入ると、見知った顔と見知らぬ顔がいた。
エタはシュメールの面々はもちろん、ニスキツルのリムズとシャルラそしてラトゥスを連れだってイシュタル神殿を訪れていた。
全員が緊張した面持ちで……特にラトゥスは今にも倒れそうなほど顔が青白かった。
歓迎の意を示して出迎えたのはラキアだった。以前とは違い、白い手袋をしていた。
「あらあら。皆さんようこそお越しくださいました」
人好きのする笑顔は場を和ますためのものかもしれないが、誰も緊張を解けなかった。
一人ずつ、親愛を示すように手を握っていく。
そこに遅れてラッザとトエラーがやってきた。
まず発言したのはラッザだ。
「イシュタル神殿長のラキア様ですね。ラッザと申します。こちらは道中でお会いしたトエラーです」
「ええ、ええ! お二人とも存じ上げておりますとも! 今回の遠征ではご活躍だったそうですね!」
「神殿長様にお褒め頂くとは光栄です」
緊張と感動が同時に押し寄せているトエラーは口角を上げながらも人形のようにカチコチの動作だった。
「それで、ラキア様。我々をここに集めた理由とは一体?」
シュメールやニスキツルという、遠征に参加したということだけが共通点の企業がこの場にいることがラッザには解せないようだった。
「そうね。まずは……あれを持ってきて」
部下の巫女に命じると、巫女は水晶をラキアに手渡した。
その水晶を持ったまま、ラトゥスの眼前に立った。
「さあ。これに手を置いてくださる?」
「は、はい」
うわずった声のラトゥス。
何が起きているのかまるでわからないラッザとトエラー。
恐る恐る手を置き、数秒後に手を放す。それからラキアは携帯粘土板で何かを確認した後、ラトゥスに跪きこう言った。
「ようこそ生きてお戻りになりました。この国の真の王、ラバシュム様」
「たしか、ラッザ殿でしたか?」
「これはトエラー殿。しがないギルド長でしかない私の名を覚えてくださったとは光栄です」
ラッザは長旅の疲労から顔が青ざめていたが、肩の荷が下りたように晴れやかな顔だった。
「あなたもイシュタル神殿に招かれたのですかな?」
「ええ。どうも国王陛下についてお話があるとか」
「そうなのですか? 私は遠征軍に関わる話だと聞いておりますが……」
ラッザは心の中でやはりトエラーは何も知らないのだな、と呆れるような、しかしそれでいてどこかうらやましそうに思った。
この黒々とした陰謀劇を知らずにいれるのならそれはそれで幸福なことだったのかもしれない。
(いまさらですがね。もう私は戻れない)
ラッザは断れる状況ではなかったとはいえ自らのギルドの冒険者が殺害されることを容認した。
父から受け継いだギルドを経営してもう十年ほど。
もともと体が丈夫ではなく、冒険者として優秀ではないラッザは当初からギルド長になることに厳しい視線が多かった。
やはり冒険者として大成してからギルド長になるべきだという偏見は根強いのだ。
そもそもギルド長と冒険者は別の適性が必要になる職業であり、向き不向きで判断するべきだとラッザがどれだけ訴えてもそれに賛同してくれる人間はほとんどいなかった。
だからこそラッザはギルドを可能な限り大きくした。子供じみた反骨心と自嘲したこともあるが、歩みを止めなかった。
……王の義弟の自らが王位に就くための策謀に乗ったのもそれが理由だ。
(おそらくイシュタル神殿は義弟の王位を認めるだろう。あるいは、このアラッタの遠征を王位の箔付けに利用するつもりかもしれない。我々はその証人か)
白い、自らの心とは裏腹の神殿であるイシュタル神殿に入ると、見知った顔と見知らぬ顔がいた。
エタはシュメールの面々はもちろん、ニスキツルのリムズとシャルラそしてラトゥスを連れだってイシュタル神殿を訪れていた。
全員が緊張した面持ちで……特にラトゥスは今にも倒れそうなほど顔が青白かった。
歓迎の意を示して出迎えたのはラキアだった。以前とは違い、白い手袋をしていた。
「あらあら。皆さんようこそお越しくださいました」
人好きのする笑顔は場を和ますためのものかもしれないが、誰も緊張を解けなかった。
一人ずつ、親愛を示すように手を握っていく。
そこに遅れてラッザとトエラーがやってきた。
まず発言したのはラッザだ。
「イシュタル神殿長のラキア様ですね。ラッザと申します。こちらは道中でお会いしたトエラーです」
「ええ、ええ! お二人とも存じ上げておりますとも! 今回の遠征ではご活躍だったそうですね!」
「神殿長様にお褒め頂くとは光栄です」
緊張と感動が同時に押し寄せているトエラーは口角を上げながらも人形のようにカチコチの動作だった。
「それで、ラキア様。我々をここに集めた理由とは一体?」
シュメールやニスキツルという、遠征に参加したということだけが共通点の企業がこの場にいることがラッザには解せないようだった。
「そうね。まずは……あれを持ってきて」
部下の巫女に命じると、巫女は水晶をラキアに手渡した。
その水晶を持ったまま、ラトゥスの眼前に立った。
「さあ。これに手を置いてくださる?」
「は、はい」
うわずった声のラトゥス。
何が起きているのかまるでわからないラッザとトエラー。
恐る恐る手を置き、数秒後に手を放す。それからラキアは携帯粘土板で何かを確認した後、ラトゥスに跪きこう言った。
「ようこそ生きてお戻りになりました。この国の真の王、ラバシュム様」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる