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第三章『身代わり王 』
第五十五話 真相
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遠征軍の指揮官だったトエラーはイシュタル神殿に呼び出されたが、その道中で見知った顔を見つけた。
「たしか、ラッザ殿でしたか?」
「これはトエラー殿。しがないギルド長でしかない私の名を覚えてくださったとは光栄です」
ラッザは長旅の疲労から顔が青ざめていたが、肩の荷が下りたように晴れやかな顔だった。
「あなたもイシュタル神殿に招かれたのですかな?」
「ええ。どうも国王陛下についてお話があるとか」
「そうなのですか? 私は遠征軍に関わる話だと聞いておりますが……」
ラッザは心の中でやはりトエラーは何も知らないのだな、と呆れるような、しかしそれでいてどこかうらやましそうに思った。
この黒々とした陰謀劇を知らずにいれるのならそれはそれで幸福なことだったのかもしれない。
(いまさらですがね。もう私は戻れない)
ラッザは断れる状況ではなかったとはいえ自らのギルドの冒険者が殺害されることを容認した。
父から受け継いだギルドを経営してもう十年ほど。
もともと体が丈夫ではなく、冒険者として優秀ではないラッザは当初からギルド長になることに厳しい視線が多かった。
やはり冒険者として大成してからギルド長になるべきだという偏見は根強いのだ。
そもそもギルド長と冒険者は別の適性が必要になる職業であり、向き不向きで判断するべきだとラッザがどれだけ訴えてもそれに賛同してくれる人間はほとんどいなかった。
だからこそラッザはギルドを可能な限り大きくした。子供じみた反骨心と自嘲したこともあるが、歩みを止めなかった。
……王の義弟の自らが王位に就くための策謀に乗ったのもそれが理由だ。
(おそらくイシュタル神殿は義弟の王位を認めるだろう。あるいは、このアラッタの遠征を王位の箔付けに利用するつもりかもしれない。我々はその証人か)
白い、自らの心とは裏腹の神殿であるイシュタル神殿に入ると、見知った顔と見知らぬ顔がいた。
エタはシュメールの面々はもちろん、ニスキツルのリムズとシャルラそしてラトゥスを連れだってイシュタル神殿を訪れていた。
全員が緊張した面持ちで……特にラトゥスは今にも倒れそうなほど顔が青白かった。
歓迎の意を示して出迎えたのはラキアだった。以前とは違い、白い手袋をしていた。
「あらあら。皆さんようこそお越しくださいました」
人好きのする笑顔は場を和ますためのものかもしれないが、誰も緊張を解けなかった。
一人ずつ、親愛を示すように手を握っていく。
そこに遅れてラッザとトエラーがやってきた。
まず発言したのはラッザだ。
「イシュタル神殿長のラキア様ですね。ラッザと申します。こちらは道中でお会いしたトエラーです」
「ええ、ええ! お二人とも存じ上げておりますとも! 今回の遠征ではご活躍だったそうですね!」
「神殿長様にお褒め頂くとは光栄です」
緊張と感動が同時に押し寄せているトエラーは口角を上げながらも人形のようにカチコチの動作だった。
「それで、ラキア様。我々をここに集めた理由とは一体?」
シュメールやニスキツルという、遠征に参加したということだけが共通点の企業がこの場にいることがラッザには解せないようだった。
「そうね。まずは……あれを持ってきて」
部下の巫女に命じると、巫女は水晶をラキアに手渡した。
その水晶を持ったまま、ラトゥスの眼前に立った。
「さあ。これに手を置いてくださる?」
「は、はい」
うわずった声のラトゥス。
何が起きているのかまるでわからないラッザとトエラー。
恐る恐る手を置き、数秒後に手を放す。それからラキアは携帯粘土板で何かを確認した後、ラトゥスに跪きこう言った。
「ようこそ生きてお戻りになりました。この国の真の王、ラバシュム様」
「たしか、ラッザ殿でしたか?」
「これはトエラー殿。しがないギルド長でしかない私の名を覚えてくださったとは光栄です」
ラッザは長旅の疲労から顔が青ざめていたが、肩の荷が下りたように晴れやかな顔だった。
「あなたもイシュタル神殿に招かれたのですかな?」
「ええ。どうも国王陛下についてお話があるとか」
「そうなのですか? 私は遠征軍に関わる話だと聞いておりますが……」
ラッザは心の中でやはりトエラーは何も知らないのだな、と呆れるような、しかしそれでいてどこかうらやましそうに思った。
この黒々とした陰謀劇を知らずにいれるのならそれはそれで幸福なことだったのかもしれない。
(いまさらですがね。もう私は戻れない)
ラッザは断れる状況ではなかったとはいえ自らのギルドの冒険者が殺害されることを容認した。
父から受け継いだギルドを経営してもう十年ほど。
もともと体が丈夫ではなく、冒険者として優秀ではないラッザは当初からギルド長になることに厳しい視線が多かった。
やはり冒険者として大成してからギルド長になるべきだという偏見は根強いのだ。
そもそもギルド長と冒険者は別の適性が必要になる職業であり、向き不向きで判断するべきだとラッザがどれだけ訴えてもそれに賛同してくれる人間はほとんどいなかった。
だからこそラッザはギルドを可能な限り大きくした。子供じみた反骨心と自嘲したこともあるが、歩みを止めなかった。
……王の義弟の自らが王位に就くための策謀に乗ったのもそれが理由だ。
(おそらくイシュタル神殿は義弟の王位を認めるだろう。あるいは、このアラッタの遠征を王位の箔付けに利用するつもりかもしれない。我々はその証人か)
白い、自らの心とは裏腹の神殿であるイシュタル神殿に入ると、見知った顔と見知らぬ顔がいた。
エタはシュメールの面々はもちろん、ニスキツルのリムズとシャルラそしてラトゥスを連れだってイシュタル神殿を訪れていた。
全員が緊張した面持ちで……特にラトゥスは今にも倒れそうなほど顔が青白かった。
歓迎の意を示して出迎えたのはラキアだった。以前とは違い、白い手袋をしていた。
「あらあら。皆さんようこそお越しくださいました」
人好きのする笑顔は場を和ますためのものかもしれないが、誰も緊張を解けなかった。
一人ずつ、親愛を示すように手を握っていく。
そこに遅れてラッザとトエラーがやってきた。
まず発言したのはラッザだ。
「イシュタル神殿長のラキア様ですね。ラッザと申します。こちらは道中でお会いしたトエラーです」
「ええ、ええ! お二人とも存じ上げておりますとも! 今回の遠征ではご活躍だったそうですね!」
「神殿長様にお褒め頂くとは光栄です」
緊張と感動が同時に押し寄せているトエラーは口角を上げながらも人形のようにカチコチの動作だった。
「それで、ラキア様。我々をここに集めた理由とは一体?」
シュメールやニスキツルという、遠征に参加したということだけが共通点の企業がこの場にいることがラッザには解せないようだった。
「そうね。まずは……あれを持ってきて」
部下の巫女に命じると、巫女は水晶をラキアに手渡した。
その水晶を持ったまま、ラトゥスの眼前に立った。
「さあ。これに手を置いてくださる?」
「は、はい」
うわずった声のラトゥス。
何が起きているのかまるでわからないラッザとトエラー。
恐る恐る手を置き、数秒後に手を放す。それからラキアは携帯粘土板で何かを確認した後、ラトゥスに跪きこう言った。
「ようこそ生きてお戻りになりました。この国の真の王、ラバシュム様」
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