迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

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第三章『身代わり王 』

第四十八話 熱

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「蓄積? 何かをため込むということか?」
「そうなりますね」
「だから、木の器を収集していると?」
「それもありますが、重要なのは中身です」
「中身? 熱湯や石が?」
「石や水というより、熱でしょうね。アラッタの魔物、あるいは迷宮そのものが熱を蓄積する性質を持っているのでしょう」
「熱? 熱が……いや、何故?」
 エタはこれまでの推測を順に説明する。
「まずおかしいのは最初の奇襲です。あれは明らかに魔物が活動できる距離ではありませんでした」
「それはわかる。だが結局原因は……いや、それが蓄積の掟なのか?」
「はい。迷宮の外に出た魔物は必ず首飾りを持っていました」
「それは聞いている。そして首飾りを壊せば死ぬことも」
「その首飾りには熱が蓄積されています。そしてその熱がある限り、アラッタの魔物は迷宮の外でも活動できるようです」
 クサリクとアラッタを観察していたエタはあの温泉に何らかの秘密があると踏んだ。
 あれが他の迷宮にはない特色だったからだ。そしてあの温泉のお湯か何かを首飾りに封じ込めることでクサリクが活動できると思っていた。
 だが、ニッグの言葉で気づいた。
 首飾りに封じ込められているのは熱だと。
「比喩になるかもしれませんが、アラッタの魔物は熱を食べているのでしょう」
「熱を? 食べ物ではないだろう」
「ですが、多くの生き物は熱を持ちます」
「む……」
 エタはアトラハシスの講義の中に生物の分類方法があったことを思い出した。
 曰く、体温の有無によって生物の種類が分けられるとのこと。
 蛇や魚は体に熱を持たず、鹿やオオカミは熱を持つ。エタはその違いが何を意味するかは分からない。だが想像はできる。
「神の定めた法則により生き物は熱を持たなければ生きてはいけないのでしょう」
「食べ物を食わねば熱が失われることもあると聞く。私はそうなったことがないのでわからないが……」
「であれば熱は生き物の力の源であるというのは想像できます」
 あの温泉そのものがアラッタにとって必要だったのではない。
 温泉の熱を蓄積することによって迷宮都市アラッタは成長する。
「アラッタは熱を食う……いや、蓄積する。だからこそ、熱を持ったものを集める。そういうことか」
 ここでようやくラッザは得心したようだった。
 だからこそ新たな疑問が湧き出る。
「しかし、これでは敵に麦を与えることになるのでは?」
「その通りです。だから、これは次の作戦のための布石です」
「まさか、門を開けさせてから突撃するつもりか?」
 ちらりと伺うのは遠方の門。
 ここからならおよそ七百歩といったところだろう。
「間に合わないでしょう。そしてこちらの突撃が絶対に間に合わない距離でしか門を開けないでしょう」
 これまでの戦いからアラッタの魔物にはそれなりの知性と戦術があることはわかっている。
 明確な危険を冒すとは思えない。
 逆に言えば軽微な危険を許容する程度には熱を持ったものを欲しているということだろう。
「ならば、どうするつもりだ?」
「これはすでに本営には話を通しています。今回の作戦がうまくいったのでこの献策も受け入れていただけるでしょう」
「策? 君は何を考えている?」
 改めてエタは自分の策を説明する。
 やはりラッザも、恐怖に顔がひきつっていた。
「まずは以前、木を伐採した場所に行きましょう。準備の一部は終わっているはずです」
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