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第三章『身代わり王 』
第四十四話 決着
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敵の罠から逃げ延びたミミエル、ターハ、ニッグはすぐさま本陣を目指した。
逃げ出した直後であり、人の流れそのものが本陣に戻る方向に向かっていたのである。それを利用して奇襲部隊を迎撃する算段だった。
だがラバサルからの連絡を受け、ウシュムガルの存在を知ったため、三人は独自に動くことを決めた。
全力で走り、エタやラトゥスに襲い掛かるウシュムガルを見て、間一髪間に合ったのだった。
「エタ! ラトゥス! 早く逃げろ!」
「わかった! でも、負傷している人を二人で運んでいるから早くは走れない! それともしもこいつにも首飾り、あるいは装飾品があるならそれを狙って!」
「そ、わかったわ! なるべく急ぎなさい!」
ミミエルが叱咤しながらいつものように大槌をふるい、ウシュムガルの背後から後ろ足を打つ。
ウシュムガルはわずかに苦悶の声をあげ、反撃とばかりに尻尾をふるうがすでにそこにミミエルはいない。
ミミエルの『優雅に舞い踊る』掟によって瞬時に離脱したのだ。
それと入れ替わるようにターハがウシュムガルに棍棒をふるう。しかしいずれの攻撃もがきんと硬いものがぶつかり合う音によって弾かれたのだと分かる。
「やっぱだめだな。こいつにもクサリクみたいに首飾り……っていうか装飾品があるのか!?」
「ああ! 首周りに宝石のようなものがある!」
正面からウシュムガルと相対していたニッグが答える。
もしもクサリクと同様に装飾品を壊せば動きが止まるなら明確な弱点だった。ただしそれを成し遂げるためにはウシュムガルの懐に入らなければならない。
「後ろから攻撃しつつ誰かが隙をつく感じね。おばさん、ニッグ、いける?」
「やるしかねえだろ! あとおばさん言うな!」
「もちろんだ!」
三人が叫ぶと同時にウシュムガルも動いた。
凶悪な獅子の顔を歪ませ、爪を一閃した。
「ラトゥス? 動ける?」
「あ、うん。負傷してる人は……いた。大丈夫ですか?」
砂煙が晴れ、お互いに顔を見合わせるようになった。それと同時に、ラトゥスの声もいつもと同じになっていた。
(さっきのは気のせい? それとも……)
頭を悩ませながら、負傷者に肩を貸し、ちらりとウシュムガルと戦う三人を見る。
ぶんぶんと唸る爪牙をミミエル、ターハ、ニッグはどうにか躱す。
急場の三人組ではあったが、ウシュムガルの攻撃をしのいでいた。
極論すれば三人は増援が来るまで持ちこたえればいいのである。無理に攻め込む必要はない。
さらに。
「こいつ、やっぱり首元をかばってない?」
「同感だ。やはり弱点なのだろう」
ウシュムガルの鱗は強固だが、首飾りという明確な弱点はかなり敵の行動を絞っていた。
そうでなければ三人とも今頃死んでいただろう。
もちろん油断できる相手ではなく、さらに言えばここは戦場である。予測不可能な事態などいくらでも起こる。
「ニッグ! 後ろ!」
ミミエルの叫びに振り向いたニッグはとっさに剣をきらめかせる。どうやら防衛部隊を突破したらしいクサリクが迫っていた。
だがクサリクも浅くない傷を負っており、あっさりと膝をつく。しかし完全に倒れる寸前、首飾りを引きちぎりウシュムガルに向かって投げた。
それをウシュムガルは獲物に飛びつくオオカミのようにかみ砕く。
じゅう、という音。何かが焦げる臭い。
するとウシュムガルは今までよりも明らかに俊敏になった。
すさまじい勢いで首を伸ばし、ニッグに牙を向ける。かろうじて剣で防ぐが、その牙は銅の剣さえも砕いた。
万事休す。
そう思えた瞬間、ニッグは携帯粘土板から鞭を取り出し、蛇のように蠢くそれはウシュムガルに巻き付いていた宝石に絡み、引きちぎった。鞭は生き物のようにしなり、その先に絡みついた宝石はニッグの手に収まった。
おそらく何らかの掟を持った武器だったのだろう。
途端に、がくんとウシュムガルは力を失いついにはずしんと大きな音を立てて崩れ落ちた。
「我がティンギル、イシュタル様に万謝を。ラトゥス! 無事か!」
そうして後ろを振り向き、おそらくは逃げているであろう。ラトゥスに向かって呼びかける。
「ニッグ!」
その声は誰のものだったのか。
悲痛な、危急を告げる叫び。
危機を悟ったニッグは再び、ウシュムガルに向き直る。だが、彼が構えるよりも早く、ウシュムガルの爪は彼の胸に突き刺さった。
逃げ出した直後であり、人の流れそのものが本陣に戻る方向に向かっていたのである。それを利用して奇襲部隊を迎撃する算段だった。
だがラバサルからの連絡を受け、ウシュムガルの存在を知ったため、三人は独自に動くことを決めた。
全力で走り、エタやラトゥスに襲い掛かるウシュムガルを見て、間一髪間に合ったのだった。
「エタ! ラトゥス! 早く逃げろ!」
「わかった! でも、負傷している人を二人で運んでいるから早くは走れない! それともしもこいつにも首飾り、あるいは装飾品があるならそれを狙って!」
「そ、わかったわ! なるべく急ぎなさい!」
ミミエルが叱咤しながらいつものように大槌をふるい、ウシュムガルの背後から後ろ足を打つ。
ウシュムガルはわずかに苦悶の声をあげ、反撃とばかりに尻尾をふるうがすでにそこにミミエルはいない。
ミミエルの『優雅に舞い踊る』掟によって瞬時に離脱したのだ。
それと入れ替わるようにターハがウシュムガルに棍棒をふるう。しかしいずれの攻撃もがきんと硬いものがぶつかり合う音によって弾かれたのだと分かる。
「やっぱだめだな。こいつにもクサリクみたいに首飾り……っていうか装飾品があるのか!?」
「ああ! 首周りに宝石のようなものがある!」
正面からウシュムガルと相対していたニッグが答える。
もしもクサリクと同様に装飾品を壊せば動きが止まるなら明確な弱点だった。ただしそれを成し遂げるためにはウシュムガルの懐に入らなければならない。
「後ろから攻撃しつつ誰かが隙をつく感じね。おばさん、ニッグ、いける?」
「やるしかねえだろ! あとおばさん言うな!」
「もちろんだ!」
三人が叫ぶと同時にウシュムガルも動いた。
凶悪な獅子の顔を歪ませ、爪を一閃した。
「ラトゥス? 動ける?」
「あ、うん。負傷してる人は……いた。大丈夫ですか?」
砂煙が晴れ、お互いに顔を見合わせるようになった。それと同時に、ラトゥスの声もいつもと同じになっていた。
(さっきのは気のせい? それとも……)
頭を悩ませながら、負傷者に肩を貸し、ちらりとウシュムガルと戦う三人を見る。
ぶんぶんと唸る爪牙をミミエル、ターハ、ニッグはどうにか躱す。
急場の三人組ではあったが、ウシュムガルの攻撃をしのいでいた。
極論すれば三人は増援が来るまで持ちこたえればいいのである。無理に攻め込む必要はない。
さらに。
「こいつ、やっぱり首元をかばってない?」
「同感だ。やはり弱点なのだろう」
ウシュムガルの鱗は強固だが、首飾りという明確な弱点はかなり敵の行動を絞っていた。
そうでなければ三人とも今頃死んでいただろう。
もちろん油断できる相手ではなく、さらに言えばここは戦場である。予測不可能な事態などいくらでも起こる。
「ニッグ! 後ろ!」
ミミエルの叫びに振り向いたニッグはとっさに剣をきらめかせる。どうやら防衛部隊を突破したらしいクサリクが迫っていた。
だがクサリクも浅くない傷を負っており、あっさりと膝をつく。しかし完全に倒れる寸前、首飾りを引きちぎりウシュムガルに向かって投げた。
それをウシュムガルは獲物に飛びつくオオカミのようにかみ砕く。
じゅう、という音。何かが焦げる臭い。
するとウシュムガルは今までよりも明らかに俊敏になった。
すさまじい勢いで首を伸ばし、ニッグに牙を向ける。かろうじて剣で防ぐが、その牙は銅の剣さえも砕いた。
万事休す。
そう思えた瞬間、ニッグは携帯粘土板から鞭を取り出し、蛇のように蠢くそれはウシュムガルに巻き付いていた宝石に絡み、引きちぎった。鞭は生き物のようにしなり、その先に絡みついた宝石はニッグの手に収まった。
おそらく何らかの掟を持った武器だったのだろう。
途端に、がくんとウシュムガルは力を失いついにはずしんと大きな音を立てて崩れ落ちた。
「我がティンギル、イシュタル様に万謝を。ラトゥス! 無事か!」
そうして後ろを振り向き、おそらくは逃げているであろう。ラトゥスに向かって呼びかける。
「ニッグ!」
その声は誰のものだったのか。
悲痛な、危急を告げる叫び。
危機を悟ったニッグは再び、ウシュムガルに向き直る。だが、彼が構えるよりも早く、ウシュムガルの爪は彼の胸に突き刺さった。
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