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第三章『身代わり王 』
第四十話 救援と罠
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エタの指示はいくつかあったが明快だった。
『罠にはめられた部隊を救援しに行って。最優先はニッグの救出。でも無理だと思ったらすぐに撤退して。そして最優先するべきは……』
「退路を断とうとする城壁の上の敵ね。いつものことだけど、頭だけは切れてるわよね」
「あたしの投擲も褒めろよう」
「あたしの『絶対に絡まる糸』の掟がなかったら意味がなかったでしょ。でもまあさすがの馬鹿力だったわ」
ターハが掟で強化された腕力でミミエルの掟の毛玉を城壁の上まで投げ、まさに一網打尽にして動きを封じたのだ。
これもエタの指示だ。
城壁の上に戦力を送る時間はない。
かといって弓矢で射たところで焼け石に水だ。すぐに新たなクサリクが補充されるだろう。
ならば動きを封じてしまえばいい。
その狙いは正しく、絡み合った糸は落とそうとした岩とクサリクたちを複雑に絡ませ、容易には動けなくなっている。
壊された扉の前に立ち、ミミエルは叫ぶ。
「今のうちに撤退しなさい! これは本営からの命令よ!」
実はミミエルとターハは本営からの命令を受け取っていない。
だが、エタとラバサルの進言が聞き入れられると信じて、なによりも今すぐに行動を始めなければ間に合わなくなるというのが実際に現場に来たミミエルの直感だった。
壊れた城門付近の部隊からは前衛の部隊が袋小路に陥っていたことはわからなかったが、進軍が止まっていることには気づいており、このまま進んで大丈夫なのかと言う疑念を浮かべる者は少なくなかった。
周囲の兵士は顔を見合わせてから、回れ右して逆走を始めた。
集団行動とは数が大きくなればなるほど進路を変更するのが難しくなるものだが、一方で一度逃げると決まってしまえば濁流のごとく逃げ始める。
これは人間の本能として流れに従う傾向があることに起因するのだろう。
そうこうしているうちに、本営から正式な撤退命令が届き、一気にその流れは加速する。
しかしその間にも動きを封じていないクサリクから槍や投石が降りしきる。
だが降ってきたのはそれだけではない。
「間に合うといいんだけ……い!?」
一際重いずしんと響く音。そちらにターハが首を向けるとつぶれたネズミの鳴き声に似た奇声をあげた。
「おばさんどうした……はあ!? なんでクサリクが降りてきてるのよ!?」
くぼんだ大地からゆっくりと立ち上がるクサリク。それがどこから来たのかはすぐに分かった。
どしんどしんと続く落下音。
それはすべて城壁のからクサリクが飛び降りた音だった。
城壁はかなり高く、命綱も何もなしに飛び降りれば骨折してもおかしくない。
まっとうな人間なら間違いなく躊躇するだろう。しかしここにいるのは世の理から外れた魔物だった。
「くそ! あの蟻を思い出すなあ!」
ターハは足を引きずりながら迫るクサリクの横っ面に棍棒を叩き込む。
「嫌なこと思い出させないでよ」
ミミエルは槍を低く構えて突っ込んできたクサリクの槍を足で踏みつけ、動きの止まった相手の頭を大槌で潰した。
ほとんど曲芸のような動きを何事もないかのように行った。
クサリクたちの目的は明白だ。撤退を阻止するつもりなのだ。
おそらくクサリクたちからしてもこの罠は一度きりしか使えないことは理解しており、かなりの無茶をしても逃がしてはならないと理解しているのだろう。
撤退する遠征軍の横腹を突いて時間を稼ぐつもりなのだ。
「手伝おう!」
逃げる兵の中から数十人が飛び出し、ミミエルとターハに加わった。
その先頭にいたのはニッグだった。
「あんた生きてたのね」
「おかげさまで、ね!」
剣を横に振り、クサリクを薙ぎ払う。
さすがに城壁から飛び降りるという無茶をしたせいで動きは良くない。
寡兵でも戦える程度だった。
しかしこの場合時間は敵だった。
『罠にはめられた部隊を救援しに行って。最優先はニッグの救出。でも無理だと思ったらすぐに撤退して。そして最優先するべきは……』
「退路を断とうとする城壁の上の敵ね。いつものことだけど、頭だけは切れてるわよね」
「あたしの投擲も褒めろよう」
「あたしの『絶対に絡まる糸』の掟がなかったら意味がなかったでしょ。でもまあさすがの馬鹿力だったわ」
ターハが掟で強化された腕力でミミエルの掟の毛玉を城壁の上まで投げ、まさに一網打尽にして動きを封じたのだ。
これもエタの指示だ。
城壁の上に戦力を送る時間はない。
かといって弓矢で射たところで焼け石に水だ。すぐに新たなクサリクが補充されるだろう。
ならば動きを封じてしまえばいい。
その狙いは正しく、絡み合った糸は落とそうとした岩とクサリクたちを複雑に絡ませ、容易には動けなくなっている。
壊された扉の前に立ち、ミミエルは叫ぶ。
「今のうちに撤退しなさい! これは本営からの命令よ!」
実はミミエルとターハは本営からの命令を受け取っていない。
だが、エタとラバサルの進言が聞き入れられると信じて、なによりも今すぐに行動を始めなければ間に合わなくなるというのが実際に現場に来たミミエルの直感だった。
壊れた城門付近の部隊からは前衛の部隊が袋小路に陥っていたことはわからなかったが、進軍が止まっていることには気づいており、このまま進んで大丈夫なのかと言う疑念を浮かべる者は少なくなかった。
周囲の兵士は顔を見合わせてから、回れ右して逆走を始めた。
集団行動とは数が大きくなればなるほど進路を変更するのが難しくなるものだが、一方で一度逃げると決まってしまえば濁流のごとく逃げ始める。
これは人間の本能として流れに従う傾向があることに起因するのだろう。
そうこうしているうちに、本営から正式な撤退命令が届き、一気にその流れは加速する。
しかしその間にも動きを封じていないクサリクから槍や投石が降りしきる。
だが降ってきたのはそれだけではない。
「間に合うといいんだけ……い!?」
一際重いずしんと響く音。そちらにターハが首を向けるとつぶれたネズミの鳴き声に似た奇声をあげた。
「おばさんどうした……はあ!? なんでクサリクが降りてきてるのよ!?」
くぼんだ大地からゆっくりと立ち上がるクサリク。それがどこから来たのかはすぐに分かった。
どしんどしんと続く落下音。
それはすべて城壁のからクサリクが飛び降りた音だった。
城壁はかなり高く、命綱も何もなしに飛び降りれば骨折してもおかしくない。
まっとうな人間なら間違いなく躊躇するだろう。しかしここにいるのは世の理から外れた魔物だった。
「くそ! あの蟻を思い出すなあ!」
ターハは足を引きずりながら迫るクサリクの横っ面に棍棒を叩き込む。
「嫌なこと思い出させないでよ」
ミミエルは槍を低く構えて突っ込んできたクサリクの槍を足で踏みつけ、動きの止まった相手の頭を大槌で潰した。
ほとんど曲芸のような動きを何事もないかのように行った。
クサリクたちの目的は明白だ。撤退を阻止するつもりなのだ。
おそらくクサリクたちからしてもこの罠は一度きりしか使えないことは理解しており、かなりの無茶をしても逃がしてはならないと理解しているのだろう。
撤退する遠征軍の横腹を突いて時間を稼ぐつもりなのだ。
「手伝おう!」
逃げる兵の中から数十人が飛び出し、ミミエルとターハに加わった。
その先頭にいたのはニッグだった。
「あんた生きてたのね」
「おかげさまで、ね!」
剣を横に振り、クサリクを薙ぎ払う。
さすがに城壁から飛び降りるという無茶をしたせいで動きは良くない。
寡兵でも戦える程度だった。
しかしこの場合時間は敵だった。
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