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第三章『身代わり王 』
第三十八話 誰が犯人だ
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「殺されたセパスが殺し屋ぁ? どういうことだよ?」
ターハの言う通り、おかしな話だ。王子候補を殺すはずの人間が、逆に殺されてしまうとは。
「今回は様々な思惑が錯綜していますけど、この事件は複雑で、これから僕が話すことはあくまでも推測です」
「前置きはいいわよ。さっさと話しなさい」
「うん。じゃあまず。僕が倒れた後、イシュタル神殿のラキアさんに連絡をとって可能な限り今回の遠征に参加した人の掟を調べてもらいました」
「掟? ああ、お前が倒れた原因を探っていたのか」
エタが倒れたとき、可能性として誰かの掟によるものだと推測したが、それを確かめたかったのだ。
「神聖なイシュタル神殿を何だと思ってるのよ……」
神殿に思い入れの強いミミエルからはいい顔をされなかったが、ラキアは快く(少なくとも表面上は)引き受けてくれたのでエタも厚意に甘えることにしたのだ。
「そこでセパスが病に関わる掟を所持していると突き止めてくれました」
「……つまりお前をげろげろ吐かせたのはセパス……いや、なんで殺されてんだよう」
「ここからは完全な推測ですが、セパスは『荒野の鷲』に王子が潜んでいるという情報を聞いた誰かが送り込んだ間者でしょう。そしてミミエルの推測のように王子を暗殺する仕事に切り替えた。もしかすると送り込んだ時点でもともと暗殺するつもりだったのかもしれませんね」
「スーファイは実際に死亡したからな。そうなると……ニッグを殺そうとして返り討ちにあったのか?」
「そう考えるとつじつまが合います」
「でもそれって……実は毒を盛られた時に死んだスーファイが王子だったって可能性を除外してるわよね?」
「ううん。スーファイが王子である可能性はそれほど高くないと思う。ラキア様に調査してもらった結果、彼がヌスク神の信者だったことがわかったんだ」
「……そんな神様いたっけ?」
「西方の光の神のようです。ウルクでは珍しいですね。イシュタル神殿で改宗した記録が残っていたようです」
「王族ともなりゃあ、イシュタル神から掟を賜り、信徒になる確率は高い。王子である可能性は低くなったな」
「それでも絶対とは言えないでしょう?」
ミミエルにチクリと事実を指摘されて苦笑いを浮かべるしかなかった。
「それはまあ……ニッグが王子であることを神々に祈るしかないかなあ」
「おいおい……」
「だが、ニッグが自分は王子だという自覚があったからこそ暗殺者の存在を疑っていた可能性はある」
「ほんとに可能性とか推測ばっかね」
「どうもこの事件は当事者でさえ全容を把握している人がほとんどいないみたいだからね」
「神のみぞ知る……か」
ラバサルの嘆息交じりの言葉に頷く。
誰もが真実に繋がる綱を引き寄せようとして、結局誰にも手に入れられないまま宙ぶらりんに真実が浮いているのだろう。
「でも結局僕らのやることは変わらない」
「ニッグを守る。できればアラッタを攻略して……ううん、早く攻略すればそれだけ安全を確保できるはずよね」
「攻略するあてはあるのかよう?」
「うん」
あっさりと断言したエタに三人は瞠目する。
「お得意のあれか? 掟を見破ったのか?」
「これも確証はありませんけどね」
「わしらに何か手伝えることはあるか?」
「いえ……もう準備はできていますし、僕らだけでは人数が足りませんのでニスキツルに頼もうと思います」
「準備って……あんたが終わらせたの?」
「いいえ。すでにおおよそ終わらせています。計画の概要を説明しますね」
そこでアラッタを攻略するための計画を説明した。
三人は驚いていた……いやもはや慄いてすらいたかもしれない。
それほどまでにエタの計画はこの時代、特に都市国家の人々において常識外れだったのだ
ターハの言う通り、おかしな話だ。王子候補を殺すはずの人間が、逆に殺されてしまうとは。
「今回は様々な思惑が錯綜していますけど、この事件は複雑で、これから僕が話すことはあくまでも推測です」
「前置きはいいわよ。さっさと話しなさい」
「うん。じゃあまず。僕が倒れた後、イシュタル神殿のラキアさんに連絡をとって可能な限り今回の遠征に参加した人の掟を調べてもらいました」
「掟? ああ、お前が倒れた原因を探っていたのか」
エタが倒れたとき、可能性として誰かの掟によるものだと推測したが、それを確かめたかったのだ。
「神聖なイシュタル神殿を何だと思ってるのよ……」
神殿に思い入れの強いミミエルからはいい顔をされなかったが、ラキアは快く(少なくとも表面上は)引き受けてくれたのでエタも厚意に甘えることにしたのだ。
「そこでセパスが病に関わる掟を所持していると突き止めてくれました」
「……つまりお前をげろげろ吐かせたのはセパス……いや、なんで殺されてんだよう」
「ここからは完全な推測ですが、セパスは『荒野の鷲』に王子が潜んでいるという情報を聞いた誰かが送り込んだ間者でしょう。そしてミミエルの推測のように王子を暗殺する仕事に切り替えた。もしかすると送り込んだ時点でもともと暗殺するつもりだったのかもしれませんね」
「スーファイは実際に死亡したからな。そうなると……ニッグを殺そうとして返り討ちにあったのか?」
「そう考えるとつじつまが合います」
「でもそれって……実は毒を盛られた時に死んだスーファイが王子だったって可能性を除外してるわよね?」
「ううん。スーファイが王子である可能性はそれほど高くないと思う。ラキア様に調査してもらった結果、彼がヌスク神の信者だったことがわかったんだ」
「……そんな神様いたっけ?」
「西方の光の神のようです。ウルクでは珍しいですね。イシュタル神殿で改宗した記録が残っていたようです」
「王族ともなりゃあ、イシュタル神から掟を賜り、信徒になる確率は高い。王子である可能性は低くなったな」
「それでも絶対とは言えないでしょう?」
ミミエルにチクリと事実を指摘されて苦笑いを浮かべるしかなかった。
「それはまあ……ニッグが王子であることを神々に祈るしかないかなあ」
「おいおい……」
「だが、ニッグが自分は王子だという自覚があったからこそ暗殺者の存在を疑っていた可能性はある」
「ほんとに可能性とか推測ばっかね」
「どうもこの事件は当事者でさえ全容を把握している人がほとんどいないみたいだからね」
「神のみぞ知る……か」
ラバサルの嘆息交じりの言葉に頷く。
誰もが真実に繋がる綱を引き寄せようとして、結局誰にも手に入れられないまま宙ぶらりんに真実が浮いているのだろう。
「でも結局僕らのやることは変わらない」
「ニッグを守る。できればアラッタを攻略して……ううん、早く攻略すればそれだけ安全を確保できるはずよね」
「攻略するあてはあるのかよう?」
「うん」
あっさりと断言したエタに三人は瞠目する。
「お得意のあれか? 掟を見破ったのか?」
「これも確証はありませんけどね」
「わしらに何か手伝えることはあるか?」
「いえ……もう準備はできていますし、僕らだけでは人数が足りませんのでニスキツルに頼もうと思います」
「準備って……あんたが終わらせたの?」
「いいえ。すでにおおよそ終わらせています。計画の概要を説明しますね」
そこでアラッタを攻略するための計画を説明した。
三人は驚いていた……いやもはや慄いてすらいたかもしれない。
それほどまでにエタの計画はこの時代、特に都市国家の人々において常識外れだったのだ
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