迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
218 / 260
第三章『身代わり王 』

第三十六話 きこりの軍隊

しおりを挟む
 コン、コン、コン、コン。
 木を切る小気味良い音が山の斜面に響く
 異なる律動で数十もの木を切り崩すその様子はまるで楽隊のようでもあった。
 少なくとも軍隊には見えなかったであろう。
 単純作業であるが良い器を作ったものには褒美を出すという触れが出ていたため、皆それなりにやる気はあるようだった。
 そしてシュメールの面々は極めて素早く作業を進めていた。
 何しろ、ラバサルは『樹木を切る掟』が宿った石斧を持っている。太い幹を小枝のように切り落とすラバサルには称賛の眼差しが集まっていた。
 エタもまだらの森での経験を活かし、木を効率的に切り落とす方法を伝授していた。
 ……しかもそのコツを他の冒険者たちにも少額の対価で教えていたのだから、やはり根っこのところで商人気質なのだろう。
 ミミエルもまだらの森で大蟻を倒していたばかりではなく、伐採作業に加わることもあったので手際が良く、ターハも持ち前の怪力を活かして樹木の運搬などに従事していた。
 シュメールのように順調に作業を進めていた企業やギルドだけではないが、雰囲気は悪くなかった。
 ……誰もが心の中でひっそりと、あの城壁に挑むよりもましだとおもっていたのだろう。

 この辺りはウルクに比べると降水量が多いのか、背の高い樹木が少なくなかった。しかしそう時間が経たないうちにめぼしい木は切り倒されてしまった。
 さてそうなると木の器を作らなければならない。
 本来こういう木材加工を行う場合、樹木を乾燥させるべきだが、そんな時間はない。
 切り倒した樹木を早速加工し始めた。
 ……無論、苦戦しているものが多かった。
 この遠征軍は戦うために集められた集団であり、細やかな作業が苦手だったのだろう。
 しかしここでも。

「ラバサルさん、うまいですね」
「おっさん、無駄に器用だよな」
「無駄は余計だ」
 反論しながらも、仏頂面の下にわずかながら嬉しそうな表情があった。
 短刀を器用に使い、器を削る。さらにはエンリル神を象徴する嵐をあしらった模様さえつけている。
 一朝一夕で身に着けられる技術ではなさそうだった。
「だー、やっぱこういうのは性に合わねえ」
 反対に投げ出しそうになったのはターハだ。
 見た目通り、性格通り、ちまちました彫刻にはやくも飽きがき始めていた。
「せめてノミかなんかがあれば……あ」
 そこでじっとターハはエタを見た。
 最初何故なのかわからなかったが、エタははっとして声をひそめた。
「ターハさん。いくらなんでもメラムを纏った突きノミは貸しませんよ」
 メラムを纏った掟を持っているのならばあらゆる都市国家の市民が羨望するだろうが、余計なやっかみも招きかねない。
 公衆の面前で取り出していいものではない。
「そんなこと言わずによう。先っぽだけでいいからさ」
「お断りします。アトラハシス様から賜った大事な掟を他人に貸して、ましてや本来の用途と異なることをするなんてできません」
 突きノミの掟は『粘土板を砕く』。それゆえ樹木を彫ってもあまり効率は良くないだろう。
 もちろんターハにそんな道理は通用しない。
「いいじゃねえか。な? な? 礼はするからさ」
「いやです」
「頼むよ。一回くらい触らせてくれよう」
「そんな金の製品じゃないんですから……」
 酔っぱらいに絡まれているようでげんなりしていたが、ミミエルが手近な枝でぴしゃりとターハの腕を打つと、ターハはにやりと笑い、拳を突き出す構えを取った。
(本気じゃないのはわかるけど……ここで喧嘩はやめてほしいなあ)
 何とか仲裁の手段を考えていると。
「あれ? ニッグ?」
 体格の良い茶髪の少年、そして今回の護衛対象であるニッグが近づいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ラーメン

さいとう みさき
ファンタジー
その噂は酒場でささやかれていた。 迷宮の奥深くに、森の奥深くに、そして遺跡の奥深くにその屋台店はあると言う。 異世界人がこの世界に召喚され、何故かそんな辺鄙な所で屋台店を開いていると言う。 しかし、その屋台店に数々の冒険者は救われ、そしてそこで食べた「らーめん」なる摩訶不思議なシチューに長細い何かが入った食べ物に魅了される。 「もう一度あの味を!」 そう言って冒険者たちはまたその屋台店を探して冒険に出るのだった。

ボッチな俺は自宅に出来たダンジョン攻略に励む

佐原
ファンタジー
ボッチの高校生佐藤颯太は庭の草刈りをしようと思い、倉庫に鎌を取りに行くと倉庫は洞窟みたいなっていた。 その洞窟にはファンタジーのようなゴブリンやスライムが居て主人公は自身が強くなって行くことでボッチを卒業する日が来る? それから世界中でダンジョンが出現し主人公を取り巻く環境も変わっていく。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...