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第三章『身代わり王 』
第二十九話 生存
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一度防衛の態勢が整うと、後は順調だった。
クサリクはそれほど賢くないのか、柵に集まる兵や冒険者たちにまっすぐ突っ込んでくる。
柵に阻まれているうちに武器を突き出し、寄せ付けない。少なくとも逃亡兵はほとんどいなかった。
防備があるという安心感と、味方が背後にいるため逃げられないという責任感が結束を高めていた。
とはいえやはりどこかに穴はある。それをすぐさま塞ぐためにエタは指揮を執っていた。
「ミミエル! 今度は北側に! ターハさん! いったん下がってください!」
冒険者の等級はターハが四級。ミミエルが六級だったが、二人とも等級以上の実力があると言って過言ではなかった。さらに戦闘経験の質という意味ならこの二人を上回る冒険者はそういないだろう。
クサリクの圧力が強い部分を上手くかばっていた。
しかし戦術眼がある人間が見れば全く別の感想を抱いたことだろう。
(実際には他の人を盾に使っているようなものだけどね)
ここぞというときだけ二人を投入することで二人をなるべく消耗しないように指揮していた。
ある程度安全な位置から指揮をとれるラバサルと違って二人は真正面からしか戦えない。しかし戦いが長引けば紛れが起きる。
それを避けるために金を出してでも自ら指揮を執っているのだ。もちろん、このやり方が一番犠牲を出さないやり方だろうと思ってのことでもある。
エタが想像しているよりも、戦いは順調に進んでいた。
その理由は、時折たいした外傷もなく倒れるクサリクがいたせいである。
(クサリクはそれほど賢くないけどなかなか頑丈だ。でも……)
暗がりで目を凝らそうとして……やめた。
今はあまり視界が開けていないおかげで死体を見ずに済んでいるが、かなりの量の血が流れているはずだ。
もともと血が苦手なエタが死体を直視すれば良くて腹の中のものをぶちまける。悪ければ卒倒してもおかしくない。
この場でそんな真似をしでかすわけにはいかない。
「ミミエル。申し訳ないんだけど、クサリクの中に傷がないのに倒れている奴がいるよね」
『いるけど、どうしたのよ』
携帯粘土板を通して伝わる声もやはり、疲労がにじんでいる。それでも以前の戦士の岩山やまだらの森での激闘後に比べればまだ余裕がありそうだった。
「そいつの死体を調べて他と何か違うものがないかを確かめてくれない?」
『それ、今必要なことなの?』
「多分、この迷宮を攻略するためには必要なんだと思う」
『そ。わかったわ』
こんなことで手を煩わせるのは情けなかったが、こういう理由がわからない異常にこそ迷宮を攻略する鍵があるのだと経験から知っていた。
そこでよくとおる声が聞こえてきた。
「伝令! 本営から伝令! 各自、応戦し、クサリクを撃破せよ!」
(もうやってるよ!)
エタでなくとも同じような思いは抱いただろう、あまりにも遅い、そして曖昧な本営の指示だった。
(この遠征の上が信用できないのはわかっていたけど……能力の方でも、あまりあてにしない方がいいかもしれない)
苦々しい思いにとらわれていたエタだったが、どこか遠くから太鼓の音が聞こえると、クサリクたちは突然攻勢をやめ、撤退していった。
エタたちは生き延びたのだった。
クサリクはそれほど賢くないのか、柵に集まる兵や冒険者たちにまっすぐ突っ込んでくる。
柵に阻まれているうちに武器を突き出し、寄せ付けない。少なくとも逃亡兵はほとんどいなかった。
防備があるという安心感と、味方が背後にいるため逃げられないという責任感が結束を高めていた。
とはいえやはりどこかに穴はある。それをすぐさま塞ぐためにエタは指揮を執っていた。
「ミミエル! 今度は北側に! ターハさん! いったん下がってください!」
冒険者の等級はターハが四級。ミミエルが六級だったが、二人とも等級以上の実力があると言って過言ではなかった。さらに戦闘経験の質という意味ならこの二人を上回る冒険者はそういないだろう。
クサリクの圧力が強い部分を上手くかばっていた。
しかし戦術眼がある人間が見れば全く別の感想を抱いたことだろう。
(実際には他の人を盾に使っているようなものだけどね)
ここぞというときだけ二人を投入することで二人をなるべく消耗しないように指揮していた。
ある程度安全な位置から指揮をとれるラバサルと違って二人は真正面からしか戦えない。しかし戦いが長引けば紛れが起きる。
それを避けるために金を出してでも自ら指揮を執っているのだ。もちろん、このやり方が一番犠牲を出さないやり方だろうと思ってのことでもある。
エタが想像しているよりも、戦いは順調に進んでいた。
その理由は、時折たいした外傷もなく倒れるクサリクがいたせいである。
(クサリクはそれほど賢くないけどなかなか頑丈だ。でも……)
暗がりで目を凝らそうとして……やめた。
今はあまり視界が開けていないおかげで死体を見ずに済んでいるが、かなりの量の血が流れているはずだ。
もともと血が苦手なエタが死体を直視すれば良くて腹の中のものをぶちまける。悪ければ卒倒してもおかしくない。
この場でそんな真似をしでかすわけにはいかない。
「ミミエル。申し訳ないんだけど、クサリクの中に傷がないのに倒れている奴がいるよね」
『いるけど、どうしたのよ』
携帯粘土板を通して伝わる声もやはり、疲労がにじんでいる。それでも以前の戦士の岩山やまだらの森での激闘後に比べればまだ余裕がありそうだった。
「そいつの死体を調べて他と何か違うものがないかを確かめてくれない?」
『それ、今必要なことなの?』
「多分、この迷宮を攻略するためには必要なんだと思う」
『そ。わかったわ』
こんなことで手を煩わせるのは情けなかったが、こういう理由がわからない異常にこそ迷宮を攻略する鍵があるのだと経験から知っていた。
そこでよくとおる声が聞こえてきた。
「伝令! 本営から伝令! 各自、応戦し、クサリクを撃破せよ!」
(もうやってるよ!)
エタでなくとも同じような思いは抱いただろう、あまりにも遅い、そして曖昧な本営の指示だった。
(この遠征の上が信用できないのはわかっていたけど……能力の方でも、あまりあてにしない方がいいかもしれない)
苦々しい思いにとらわれていたエタだったが、どこか遠くから太鼓の音が聞こえると、クサリクたちは突然攻勢をやめ、撤退していった。
エタたちは生き延びたのだった。
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