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第三章『身代わり王 』
第二十五話 飛ぶが如く
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「ああそうや。あんたに念のためにいうとかなあかんことがあんねん」
今までよりも真面目な口調になったため、エタも少しだけ背筋を伸ばす。
「なんでしょうか」
「お前の仲間にも家族にも、わしらと会ったことを言うたらあかん」
「それは……僕のため、ですか?」
「そうや。幸運は黙っといたほうがええ。妬みや嫉みはお前が思うよりも身近にあんで」
「僕が妬まれる……? そんなことが本当にあるんですか?」
自分をたいしたことのない人間だとしか思っていないエタにとってはピンとこない言葉だったが、アンズー鳥という超自然的な存在からの言葉とあっては無視するわけにもいかないと心の中に刻み付けた。
「長生きしとる鳥からの助言や。覚えといたほうがええで。わしは人に寄り添っとるわけやないけど人をよう見てきた。裏切りも、にせもんも、ようけある」
今回の事件はある意味身代わり王という偽りから始まった。
ならばその中心にあるのは……嘘なのだろうか。
エタが煩悶していると空を舞う父鳥はやがて高度を下げ始めた。
「お前はそろそろお前の群れのもとに戻らなあかん。わしはわしの巣に戻らなあかん。各々生きるべき世界があるんや」
それはもしかすると。
分不相応な望みを抱いてはならないという忠告だったのかもしれない。
しかしそれでも。
(僕にはやらなければならないことがあるんだ)
いつの日か、魔人となった姉を殺し、その人生を全うさせること。
そうでなければ、今まで死んでいった人に顔向けさえできないのだ。
父鳥からはエタの表情を見るのは難しかったはずだが、それでもエタが顔をこわばらせていることは想像がついたのか、どこか労わるような声だった。
「ま、あんまり肩ひじ張らずな? 力いれっぱなしじゃできるもんもできん。そら、地面やぞ」
今まで疾風のごとく空を飛んでいたアンズー鳥は緩やかに下降するとふわりと地面に舞い降りた。
「こっからもうちょっと東に行けば軍に合流できるで」
「父鳥さん。本当に何から何までありがとうございます」
「かまへんよ! わしも楽しかったしな!」
太く、遠くまで届く笑い声が響く。
知らずエタも笑みを浮かべていた。
再び疾風が巻き起こり、アンズー鳥は空に帰っていく。エタはそれをさわやかな気持ちで見送っていた。
現実に戻ったエタがまず取り出したのは携帯粘土板だった。
連絡する予定の時間を過ぎているのできっと心配しているだろう。ミミエルに連絡を取る。
「あ、ミ」
『エタ!? あなた無事なの!?』
「え、あ、う」
『っていうかどうして連絡してくれなかったのよ!?』
「あ、いや、こっちにもいろいろとじじょ、」
『事情ってな……ちょっとおばさ、なにを……』
携帯粘土板の向こうでなにやらどたばたと動く音がする。
『おい。エタ。聞こえてるな? わしだ』
「ラバサルさんですか? ミミエルはどうしましたか?」
『らちが明かねえから替わった。ターハに押さえてもらってある。単刀直入に聞くぞ。無事なんだな?』
「はい。今日中に合流できそうです」
『なら、それでいい。詳しいことは後で聞く』
「わかりました。それでは」
ミミエルが何やら騒いでいる気配がしたが、藪をつつきたくなかったエタは早々に通話を打ち切ることにした。
仲間との会話は一日も途絶えていたわけではないが、それでも心が温かくなるような気がした。
今までよりも真面目な口調になったため、エタも少しだけ背筋を伸ばす。
「なんでしょうか」
「お前の仲間にも家族にも、わしらと会ったことを言うたらあかん」
「それは……僕のため、ですか?」
「そうや。幸運は黙っといたほうがええ。妬みや嫉みはお前が思うよりも身近にあんで」
「僕が妬まれる……? そんなことが本当にあるんですか?」
自分をたいしたことのない人間だとしか思っていないエタにとってはピンとこない言葉だったが、アンズー鳥という超自然的な存在からの言葉とあっては無視するわけにもいかないと心の中に刻み付けた。
「長生きしとる鳥からの助言や。覚えといたほうがええで。わしは人に寄り添っとるわけやないけど人をよう見てきた。裏切りも、にせもんも、ようけある」
今回の事件はある意味身代わり王という偽りから始まった。
ならばその中心にあるのは……嘘なのだろうか。
エタが煩悶していると空を舞う父鳥はやがて高度を下げ始めた。
「お前はそろそろお前の群れのもとに戻らなあかん。わしはわしの巣に戻らなあかん。各々生きるべき世界があるんや」
それはもしかすると。
分不相応な望みを抱いてはならないという忠告だったのかもしれない。
しかしそれでも。
(僕にはやらなければならないことがあるんだ)
いつの日か、魔人となった姉を殺し、その人生を全うさせること。
そうでなければ、今まで死んでいった人に顔向けさえできないのだ。
父鳥からはエタの表情を見るのは難しかったはずだが、それでもエタが顔をこわばらせていることは想像がついたのか、どこか労わるような声だった。
「ま、あんまり肩ひじ張らずな? 力いれっぱなしじゃできるもんもできん。そら、地面やぞ」
今まで疾風のごとく空を飛んでいたアンズー鳥は緩やかに下降するとふわりと地面に舞い降りた。
「こっからもうちょっと東に行けば軍に合流できるで」
「父鳥さん。本当に何から何までありがとうございます」
「かまへんよ! わしも楽しかったしな!」
太く、遠くまで届く笑い声が響く。
知らずエタも笑みを浮かべていた。
再び疾風が巻き起こり、アンズー鳥は空に帰っていく。エタはそれをさわやかな気持ちで見送っていた。
現実に戻ったエタがまず取り出したのは携帯粘土板だった。
連絡する予定の時間を過ぎているのできっと心配しているだろう。ミミエルに連絡を取る。
「あ、ミ」
『エタ!? あなた無事なの!?』
「え、あ、う」
『っていうかどうして連絡してくれなかったのよ!?』
「あ、いや、こっちにもいろいろとじじょ、」
『事情ってな……ちょっとおばさ、なにを……』
携帯粘土板の向こうでなにやらどたばたと動く音がする。
『おい。エタ。聞こえてるな? わしだ』
「ラバサルさんですか? ミミエルはどうしましたか?」
『らちが明かねえから替わった。ターハに押さえてもらってある。単刀直入に聞くぞ。無事なんだな?』
「はい。今日中に合流できそうです」
『なら、それでいい。詳しいことは後で聞く』
「わかりました。それでは」
ミミエルが何やら騒いでいる気配がしたが、藪をつつきたくなかったエタは早々に通話を打ち切ることにした。
仲間との会話は一日も途絶えていたわけではないが、それでも心が温かくなるような気がした。
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