迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
187 / 293
第三章『身代わり王 』

第十四話 処置

しおりを挟む
 エタの天幕に飛び込んだミミエルが見たのは外れてほしかった予想通りの光景だった。
 エタは激しくえずき、ラバサルが背中をさすっていた。
「エタ!? どうしたの!?」
「わからん。眠っていたらいきなり苦しみだした」
 冷汗をかきながらも冷静にラバサルが答える。
 エタはまともに口もきけない状態だったが、指で外を指し示した。
 それを見た二人は肩を貸して立たせた。天幕は狭かったが、今はユーフラテス川を渡るよりも遠く感じた。
 何とか外に出たエタはそのまま崩れ落ちた。
「エタ!?」
「エタ!」
「エタァ!?」
 心配になったターハも加え、三人の心配する声が同調する。
 しかしエタにはそれに答える余裕がない。
 腹の内側をガルラ霊が暴れまわるかの如く猛烈な痛みがエタを襲っていた。さらにガンガンと頭の中で剣戟の音が鳴り響いているようで実のところまともに声が聞こえていなかった。
 喉の奥から何かがせり上がってくるが、引っかかるような不快感が胸のあたりにあった。
 苦しい。
 どうして?
 冷静さなど微塵もなく、意味もない感想と疑問だけが頭の中をめぐる。
 そこで首が真横に向けられ、何かが口の中に入れられた
 それが他人の指だと気づいたのは一瞬後。
 誰かの指がエタの喉を強引に刺激した。
「お、う、げええええ!」
 エタの喉から堰を切ったように吐しゃ物が流れ出す。
 エタはこんなにもたくさんのものが自分の体の中にあったのか、という他人事のような感想が浮かんでいた。
 腹の中のものを吐き切ると、指を突っ込んだ誰かはエタの体を横たえた。地面の上だったが、それでも幾分体は楽になった。
 締め付けられるような頭痛を堪えながらエタを吐かせた相手に礼を言った。
「ありがとうシャルラ。でも、早く手を洗ったほうがいいよ。吐しゃ物の中に毒が残っていたらまずい」
 明るい髪を乱し、汗をにじませ、痛ましそうにエタを見つめるシャルラはか細い声で答えた。
「私はいいわ……あなたもそんなことを気にしなくていいのに……」
 シャルラはニスキツルで毒物を扱う経験などがあったため、その対処法も心得ていた。
 とにかく毒を吐かせることだ。もちろん毒の種類によっては手遅れであることもあるものの、エタの場合のどに詰まっている可能性があったため、シャルラの処置は適切であったと言える。
「そういうわけにはいかないよ。ごめん、ミミエル。近くに水たまりがあったはずだからそこまで連れて行ってくれる?」
「わかったわ。ほら、行くわよ、シャルラ」
 無理にでも連れて行かないとこの場を動かないと察したエタはミミエルにシャルラを任せることにし、ミミエルもそれを察したらしい。
 シャルラの手を引いて、水場へ向かった。シャルラは一度ちらりとエタを心配そうに振り返った。
 何とかあたりを見回す余裕を取り戻したエタが、自分と同じように倒れている人が多いことに気づいたが、問題はその年齢と性別だった。
 ただでさえ青ざめた顔をより青くする。
「ターハさん……ラバサルさん……」
「エタ。おめえはしばらく休……」
 エタはラバサルの言葉を遮った。
「そうじゃ、ないんです……今、苦しんでいる人の多くは……年若い男じゃないですか?」
 ふらつく頭でもちらりとあたりの様子を窺ったエタは冷静だった。
「え、ああそうだな。あたしが見たのもそうだったな」
「なら……早く王子の安全を確認してください。これは……この事件は、王子候補を毒殺しようとした何者かが起こした可能性があります」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

ある国立学院内の生徒指導室にて

よもぎ
ファンタジー
とある王国にある国立学院、その指導室に呼び出しを受けた生徒が数人。男女それぞれの指導担当が「指導」するお話。 生徒指導の担当目線で話が進みます。

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

処理中です...