178 / 293
第三章『身代わり王 』
第七話 白い神殿
しおりを挟む
白色神殿。
ウルクのイシュタル神殿の別称であり、その名の通り純白の建物だ。
ウルクの真の主であるイシュタル神のためにはるか昔に建造され、また、数百年先もそびえたつことを誰一人疑わないであろう美麗な姿を維持し続けている。
あるものは朝焼けに白く輝く姿が最も美しいと述べ、またある者は夕暮れに赤く照らされた姿が最もふさわしいと断言する。
敬虔な信者からはイシュタル神の象徴でもある金星を眺められる夜に神々しい光を放っていたと噂されることもある。
白色神殿はウルクで一、二を争うほど有名な建物だろう。
だからこそウルク市民なら一度と言わず、数十度来ることもある。
とはいえ神殿長直々の呼び出しを経験したことがあるはずはなかった。
参拝客の横を通り過ぎ、聖娼に案内され、この神殿に務めている人間以外立ち入りが禁止されている場所の内部に入る。
ウルクの都市神であるイシュタル神のおひざ元となれば、ウルクの心臓にも等しい場所だ。必然的に緊張し、言葉少なになる。ただ、ミミエルだけは別段気にした風もなく、自然体だった。
通い詰めだった場所であるここは気負うような場所ではないのだろう。
窓から明かりが差し込み、夏だというのに穏やかな風が流れる煉瓦に囲まれた部屋に案内される。
そこで、ミミエルに近づく影が一つ。
「まあまあ! ミミエルちゃん! 久しぶりねえ!」
親し気に近づいてきた恰幅の良い中年の女性はミミエルが行動するよりも早く抱きしめた。
「お久しぶりです、ラキア神殿長」
ミミエルがラキアと呼んだ彼女はイシュタル神の信徒らしく、華美な宝石に、やや露出の多い服を身に着けている。
ただ、なんとも……。
「ちょっと似合って無くねえか……?」
ターハがエタに耳打ちする。
失礼ながらエタも同感だった。
ラキアは若かりし頃なら美人だったと想像できるが、今となってはいささか無理がある服装をしている気がしてならない。
一見すると細身のミミエルと比べると、なおさらだった。
「わしはこういうのも嫌いじゃないがな」
「おっさんよう……いや、年取るとわかるもんなのか……?」
ターハが首をひねりながら、ラキアとラバサルを交互に見ていた。
そのラキアがぱちりと目を見開き、エタたち三人を見てにっこり微笑んだ。
「あなたたちが杉取引企業シュメールの皆さんね。お噂はかねがね聞いているわ」
人好きのする笑顔に他人を安心させる声。
神殿のまとめ役になっているのも頷ける人柄だった。
「初めまして。エタリッツと申します」
ラバサル、ターハが順に自己紹介していく。
「うんうん。ミミエルちゃんがギルドに行ってからすっかり連絡をくれなくて寂しかったけど……仲良くやってくれているようでうれしいわ」
「その、便りの一つも出さずにすみません」
「いいのいいの! 元気でいてくれればおばちゃんは一番なのよ!」
ミミエルは押しの強いラキアにすっかりたじたじな様子だった。
「ラキア様。そろそろ本題に……」
そばにいた付き人らしき女性に声をかけられ、ラキアはそっとミミエルから離れ、真面目な顔つきになった。
ウルクのイシュタル神殿の別称であり、その名の通り純白の建物だ。
ウルクの真の主であるイシュタル神のためにはるか昔に建造され、また、数百年先もそびえたつことを誰一人疑わないであろう美麗な姿を維持し続けている。
あるものは朝焼けに白く輝く姿が最も美しいと述べ、またある者は夕暮れに赤く照らされた姿が最もふさわしいと断言する。
敬虔な信者からはイシュタル神の象徴でもある金星を眺められる夜に神々しい光を放っていたと噂されることもある。
白色神殿はウルクで一、二を争うほど有名な建物だろう。
だからこそウルク市民なら一度と言わず、数十度来ることもある。
とはいえ神殿長直々の呼び出しを経験したことがあるはずはなかった。
参拝客の横を通り過ぎ、聖娼に案内され、この神殿に務めている人間以外立ち入りが禁止されている場所の内部に入る。
ウルクの都市神であるイシュタル神のおひざ元となれば、ウルクの心臓にも等しい場所だ。必然的に緊張し、言葉少なになる。ただ、ミミエルだけは別段気にした風もなく、自然体だった。
通い詰めだった場所であるここは気負うような場所ではないのだろう。
窓から明かりが差し込み、夏だというのに穏やかな風が流れる煉瓦に囲まれた部屋に案内される。
そこで、ミミエルに近づく影が一つ。
「まあまあ! ミミエルちゃん! 久しぶりねえ!」
親し気に近づいてきた恰幅の良い中年の女性はミミエルが行動するよりも早く抱きしめた。
「お久しぶりです、ラキア神殿長」
ミミエルがラキアと呼んだ彼女はイシュタル神の信徒らしく、華美な宝石に、やや露出の多い服を身に着けている。
ただ、なんとも……。
「ちょっと似合って無くねえか……?」
ターハがエタに耳打ちする。
失礼ながらエタも同感だった。
ラキアは若かりし頃なら美人だったと想像できるが、今となってはいささか無理がある服装をしている気がしてならない。
一見すると細身のミミエルと比べると、なおさらだった。
「わしはこういうのも嫌いじゃないがな」
「おっさんよう……いや、年取るとわかるもんなのか……?」
ターハが首をひねりながら、ラキアとラバサルを交互に見ていた。
そのラキアがぱちりと目を見開き、エタたち三人を見てにっこり微笑んだ。
「あなたたちが杉取引企業シュメールの皆さんね。お噂はかねがね聞いているわ」
人好きのする笑顔に他人を安心させる声。
神殿のまとめ役になっているのも頷ける人柄だった。
「初めまして。エタリッツと申します」
ラバサル、ターハが順に自己紹介していく。
「うんうん。ミミエルちゃんがギルドに行ってからすっかり連絡をくれなくて寂しかったけど……仲良くやってくれているようでうれしいわ」
「その、便りの一つも出さずにすみません」
「いいのいいの! 元気でいてくれればおばちゃんは一番なのよ!」
ミミエルは押しの強いラキアにすっかりたじたじな様子だった。
「ラキア様。そろそろ本題に……」
そばにいた付き人らしき女性に声をかけられ、ラキアはそっとミミエルから離れ、真面目な顔つきになった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる