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第三章『身代わり王 』
第五話 新たなる依頼
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リムズから『噂話』を聞かされた翌日、エタたちはシュメールの社務所の一つに集合していた。
そこはかつてディスカールたちが所属していた『雨の大牛』が保有していた小屋だった。酒が出る迷宮を管理する必要があるため、しばらくここを拠点にしていたのだ。
「どうやらわしらはとんでもないことに巻き込まれたようだな」
端的に現状をまとめたラバサルだが、すでに彼自身は身を引くつもりはないとほのめかしていた。
「しっかしまあ、王族ってのは陰気な奴ばっかなのかよ。俺の方が王様にふさわしい! ってくらい言えねえのかねえ」
「あんたみたいにお気楽な頭してないのよ。特に、欲の皮が突っ張った男はね」
ターハとミミエルは姫の夫に嫌悪感を隠そうとしていない。心情的には王子に味方したいようだった。
「今のところ、僕たちも王子の捜索と護衛に参加するつもりです。もちろん、姫の夫に不興を買わない範囲にとどめる予定ですが」
「戦士の岩山はいいのか?」
「リムズさんが口をきいてくれているので話が早くまとまりそうなんです。ギルドの方も早めに処理したいようでしたから」
どこもかしこも、大騒ぎはせずに大慌てしているという外から見ればなかなか滑稽な状態になっている。
「でもよう。結局手がかりはねえのか? いくら何でもウルクから人一人を探すなんて無理じゃねえかよ」
「手がかりならあります。これもリムズさんから教えてもらいました。王子ラバシュムは偽名を使ってあるギルドに所属しているそうです」
「ギルドに? どうして?」
「おおかた王子として復帰した時に箔が必要なんじゃないか?」
「ラバサルさんの言う通りでしょう。実際に身代わり王が建てられた時に冒険者として活動することはあったようです」
「箔だとか名誉だとか……そういえば自らを神として崇めろって言った王様も昔いたそうね」
「死後に神として崇められるならまだしも生きているうちに神として崇められたいなんて畏れ多いと思うんだけど……話が逸れてきたね。ええと、王子が所属しているギルドは『荒野の鷹』だそうです」
「確かなんだろうな」
「はい。どうやら亡くなった国王陛下と懇意にしていたようですが……」
「なんかあんのかよ」
「数か月前にギルド長が死亡し、新しいギルド長に代替わりしたようです」
三人の顔が一斉に渋面を作る。
完全に偶然だと楽観的にはなれない。何ものかに害されたか、よしんば偶然だったとしても新しいギルド長が王子を守るとは断言できない。
「ちなみに王子と目される冒険者は三人います」
「年齢とかから判断したの?」
「うん。だから少なくとも今すぐ王子を殺そうとしてはいないみたいだ」
「断言はできねえ。王子が誰か確信してねえだけかもしれん」
「確信なんてなくてもいいでしょう?」
エタはラバサルの質問にきょとんとした表情で疑問を返した。それにまた疑問を投げたのはターハだ。
「どうしても何も、王子が誰かわからなきゃ暗殺なんかできねえだろ?」
「いえ、そうではなく……ギルド長からしてみれば王子が誰かを特定しなくても王子を暗殺できるはずでしょう?」
今度は三人が疑問符を浮かべる番だった。エタとしてはその様子を見てますます疑問を強くする。
「王子を誰か特定せずに王子を殺す方法なんてあるのかよ」
「簡単でしょう? 王子候補を全員殺してしまえばいいだけですよ?」
「「「……」」」
またかこいつは。
そう言いたげな六つの目がエタを見る。
「えっと、何か間違ったことを言いましたか?」
「いいえ。何も間違えてはいないわよ」
「人間として間違ってねえか?」
「……育て方を間違ったかもしれんな」
合理的ではあるのだが、倫理や道徳を完全に無視した謀略。
ある意味それを思いつくこと自体がエタの資質を証明するものではあったのかもしれない。
それをあっさり口に出してしまうのは若さゆえか、あるいは仲間への信頼なのか、判断に迷うところではあったのだが。
そこはかつてディスカールたちが所属していた『雨の大牛』が保有していた小屋だった。酒が出る迷宮を管理する必要があるため、しばらくここを拠点にしていたのだ。
「どうやらわしらはとんでもないことに巻き込まれたようだな」
端的に現状をまとめたラバサルだが、すでに彼自身は身を引くつもりはないとほのめかしていた。
「しっかしまあ、王族ってのは陰気な奴ばっかなのかよ。俺の方が王様にふさわしい! ってくらい言えねえのかねえ」
「あんたみたいにお気楽な頭してないのよ。特に、欲の皮が突っ張った男はね」
ターハとミミエルは姫の夫に嫌悪感を隠そうとしていない。心情的には王子に味方したいようだった。
「今のところ、僕たちも王子の捜索と護衛に参加するつもりです。もちろん、姫の夫に不興を買わない範囲にとどめる予定ですが」
「戦士の岩山はいいのか?」
「リムズさんが口をきいてくれているので話が早くまとまりそうなんです。ギルドの方も早めに処理したいようでしたから」
どこもかしこも、大騒ぎはせずに大慌てしているという外から見ればなかなか滑稽な状態になっている。
「でもよう。結局手がかりはねえのか? いくら何でもウルクから人一人を探すなんて無理じゃねえかよ」
「手がかりならあります。これもリムズさんから教えてもらいました。王子ラバシュムは偽名を使ってあるギルドに所属しているそうです」
「ギルドに? どうして?」
「おおかた王子として復帰した時に箔が必要なんじゃないか?」
「ラバサルさんの言う通りでしょう。実際に身代わり王が建てられた時に冒険者として活動することはあったようです」
「箔だとか名誉だとか……そういえば自らを神として崇めろって言った王様も昔いたそうね」
「死後に神として崇められるならまだしも生きているうちに神として崇められたいなんて畏れ多いと思うんだけど……話が逸れてきたね。ええと、王子が所属しているギルドは『荒野の鷹』だそうです」
「確かなんだろうな」
「はい。どうやら亡くなった国王陛下と懇意にしていたようですが……」
「なんかあんのかよ」
「数か月前にギルド長が死亡し、新しいギルド長に代替わりしたようです」
三人の顔が一斉に渋面を作る。
完全に偶然だと楽観的にはなれない。何ものかに害されたか、よしんば偶然だったとしても新しいギルド長が王子を守るとは断言できない。
「ちなみに王子と目される冒険者は三人います」
「年齢とかから判断したの?」
「うん。だから少なくとも今すぐ王子を殺そうとしてはいないみたいだ」
「断言はできねえ。王子が誰か確信してねえだけかもしれん」
「確信なんてなくてもいいでしょう?」
エタはラバサルの質問にきょとんとした表情で疑問を返した。それにまた疑問を投げたのはターハだ。
「どうしても何も、王子が誰かわからなきゃ暗殺なんかできねえだろ?」
「いえ、そうではなく……ギルド長からしてみれば王子が誰かを特定しなくても王子を暗殺できるはずでしょう?」
今度は三人が疑問符を浮かべる番だった。エタとしてはその様子を見てますます疑問を強くする。
「王子を誰か特定せずに王子を殺す方法なんてあるのかよ」
「簡単でしょう? 王子候補を全員殺してしまえばいいだけですよ?」
「「「……」」」
またかこいつは。
そう言いたげな六つの目がエタを見る。
「えっと、何か間違ったことを言いましたか?」
「いいえ。何も間違えてはいないわよ」
「人間として間違ってねえか?」
「……育て方を間違ったかもしれんな」
合理的ではあるのだが、倫理や道徳を完全に無視した謀略。
ある意味それを思いつくこと自体がエタの資質を証明するものではあったのかもしれない。
それをあっさり口に出してしまうのは若さゆえか、あるいは仲間への信頼なのか、判断に迷うところではあったのだが。
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