迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
174 / 266
第三章『身代わり王 』

第四話 謀略の霧

しおりを挟む
「王子を暗殺しようとしているのは王の娘とその夫だ」
(でしょうね)
 エタは心の中で得心した。
 現在王位継承権の順位が最も高いのは王の息子、その次が王の娘の婿だ。王子を暗殺して最も利益があるのは姫と夫になる。
「念のために確認させていただけませんか? ラルサでの王位継承権はまず王の息子。その次が姫の夫。子供がいなければ王の兄弟。それもいなければ……」
「……王の親類。甥、あるいは叔父などから選出される。これは法典にも記載されている」
「お詳しいですね」
「急いで一夜漬けしたのだよ」
 つまり何か仕掛けるつもりであるのだろう。そうでなければわざわざ調べるはずもない。
「他の親類となると確か現国王陛下にはご兄弟がいらっしゃらなかったはずですよね。あ、いえ、夭折なさった王子がいらっしゃったはずですが……」
「死んだ子供のことなど気にしなくてよかろう」
 エタとしては死したとはいえ、王の子供の存在を無視するのは不敬だと感じての発言だったがリムズは不快そうだった。
「それもそうですね。それ以上に遠くの親類になると候補が多すぎて絞れませんし、暗殺しなければならない障害が多すぎます。それくらいなら、娘婿につくことを選ぶでしょうね」
 リムズは頷いた。
「もう気づいているだろうが、私の目的は王子の捜索、および護衛だ。もちろん可能な限り、隠密に」
「娘婿に気づかれないためですね」
「当然だが、王族のお家騒動に巻き込まれては命がいくつあっても足りない」
 ジッグラトの内部の権力争いがどのようなものであるかは想像でしかないが、あのアトラハシス様でさえ手を焼いているようなので、首を突っ込みたいわけがない。
「最低限の距離を取りつつ、王子に恩を売る。いざとなれば娘夫婦に乗り換えるつもりですか」
「卑劣かね?」
「そうですね。ですが社長である以上、企業を守る義務があります」
「結構。君のその割り切りは実に好感が持てる。……シャルラには難しいだろう。誰に似たのか……正義感が強く、激しやすい」
 小さなため息を漏らし、珍しく社長ではなく、父親としての顔をのぞかせた。
(……これが、人心掌握術の一種でないことを祈りたいけど)
 エタは経験から不意に見せる優しさが人を引き付けることがあると知っていた。リムズはそういう手段を用いる人間ではあるだろう。
 ふと、エタは何故リムズをこれほど警戒するのだろうと自問した。
 縁も恩もあるが、一度たりともリムズへの警戒を解いたことはない。はっきりとした答えはないが……しいて言えば同族嫌悪だろうか。
 冷酷に、容赦なく、策を用い、他者を出し抜く。
 そういう在り方に、自分の一歩先を行っているように思えるからどうしても心の底から信じることができないのだろうか。
「いや、今のは忘れてくれ。そして王子の行方ははっきりしない」
「はっきりしない? いくら何でも行方を知っている人ぐらい……いえ、まさか……」
「すでに前王の忠臣は娘婿に捕らえられている。王妃は数年前に亡くなっているからこれは考えなくてよい。娘婿はさして優秀な人物とは聞いていなかったのだが、どうも二人のどちらかが謀略には向いているようだな」
「そこまでしますか……」
 娘夫婦は徹底的に王子を排斥するつもりなのだろう。国王たるもの権謀術数の一つや二つこなせなくてはならないとは思うが、あまりにも露悪的すぎる。
 このような男を王位につけてよいものだろうか。
「ちなみにアトラハシス様は静観なさるつもりだ。裏で動いてくださってはいるだろうが……謀略に関わるつもりはないのか、あるいは王など誰でも良いと思っているのか……」
 つまり今最も重要なのは。
「誰が敵で誰が味方か判断しなくてはならないことですか」
「そうだね。では、どうするかね? 君は私の敵か? 味方か? それとも、無視を決め込むか?」
 試すように視線を投げつけるリムズに対して、エタは……ゆっくり答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...