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第三章『身代わり王 』
第三話 本物はどこだ
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身代わり王とはいえ、王は王。
それなりに動揺が広がるのは理解できる。
亡くなったため正式な葬式などが執り行われると発表され、また、王の復帰にも何らかの行事を行うはずだ。それまではアトラハシス様が政務を代行するとのことだった。忙しくなるのは当然ではあるのだが、エタはどうもしっくりしていなかった。
しかしながらミミエルの言う通り、いちいち気にしていられる状況でもない。戦士の岩山は鉱石の採掘に重要で、その利権をめぐって冒険者ギルドと交渉を行わなければならないのだ。
もちろんエタの運営するシュメールは弱小企業であるのでかなり譲歩しなければならないが、譲歩するならそれなりに利益を引き出すのが経営者としての務めだった。
だが、その務めを後回しにしなければならないほどの『噂話』をもたらしたのはシャルラの父親、リムズだった。
「リムズさん。今なんとおっしゃいましたか?」
震える声で動揺を押し隠しながらひねりも芸もない質問をする。
ここはリムズが経営する傭兵派遣会社、ニスキツルの社務所だった。
飾り気がなく、画一された建物であるここをターハやラバサルはあまり好んでいないようだったがエタはそれなりに気に入っていた。
しかし今は周りの内装など気にする余裕はなかった。
「もう一度言おうか。本物の国王陛下が逝去なさった」
「……確証はあるのですか?」
「ほとんどの人間は何とかして確かめようとしているところだろうが、私には確信がある。何度でも言うが国王陛下は亡くなった」
帽子を普段より目深にかぶり、獲物を待つ獣のように静かにぎらついた瞳は嘘をついているように見えなかった。
だが、リムズの言葉には頷ける要素がある。
ギルドが妙に慌ただしかったのは不確定な情報に右往左往していたからではないか。
本物の国王陛下が死亡したという事実がすぐに確認できるのであればすぐさま行動できるが、死亡したかもしれないというのなら話は違う。
何はともあれ事実確認。ギルドはそのために奔走しているはずだ。
だが、なぜかそれができないのだろう。
それはなぜか。事故か。それとも、何者かの意志か。
さらにより深刻な疑問は、そんなイシュタル神がため込む宝石のように貴重な情報をエタに語って聞かせるリムズの真意だった。
「陛下が亡くなった今、最大の問題は後継者だ。王子の名前は知っているかね?」
「確か、ラバシュムという方でしたね。それ以上は……いえ、全く聞いたことがありません」
一応エドゥッパに在籍していたエタは一般人よりも多少王族の事情に詳しい。
それなのに王子については噂さえ聞いたことがない。
「これもうわさに過ぎないが、王子は今までに何度か暗殺されそうになったことがあるらしい」
暗殺。
少なくとも数か月前まで……いや、危険と隣り合わせになった今さえも血なまぐさく、謀略の霧が漂う言葉を直に聞くとは想像もしていなかった。
そしてこの時点でリムズの目的はおおよそ想像できた。できてしまっていたというべきか。
「王子はどこかに隠されていたのですか?」
「そうだ。暗殺を恐れた陛下はいずこかに王子をどこかに匿わせた」
つまり国王は王子を守ろうとしてどこかに隠した。その王がいなくなればどうなるか。
「……問題は王子が誰か我々にはわからないこと。そして、王子の命を何者かが狙っていること。……そうですね?」
結論を先読みしたエタに対してリムズは珍しく感情の籠った……非常に粘着質な笑みを浮かべ、エタはわずかながら身を固くした。
それなりに動揺が広がるのは理解できる。
亡くなったため正式な葬式などが執り行われると発表され、また、王の復帰にも何らかの行事を行うはずだ。それまではアトラハシス様が政務を代行するとのことだった。忙しくなるのは当然ではあるのだが、エタはどうもしっくりしていなかった。
しかしながらミミエルの言う通り、いちいち気にしていられる状況でもない。戦士の岩山は鉱石の採掘に重要で、その利権をめぐって冒険者ギルドと交渉を行わなければならないのだ。
もちろんエタの運営するシュメールは弱小企業であるのでかなり譲歩しなければならないが、譲歩するならそれなりに利益を引き出すのが経営者としての務めだった。
だが、その務めを後回しにしなければならないほどの『噂話』をもたらしたのはシャルラの父親、リムズだった。
「リムズさん。今なんとおっしゃいましたか?」
震える声で動揺を押し隠しながらひねりも芸もない質問をする。
ここはリムズが経営する傭兵派遣会社、ニスキツルの社務所だった。
飾り気がなく、画一された建物であるここをターハやラバサルはあまり好んでいないようだったがエタはそれなりに気に入っていた。
しかし今は周りの内装など気にする余裕はなかった。
「もう一度言おうか。本物の国王陛下が逝去なさった」
「……確証はあるのですか?」
「ほとんどの人間は何とかして確かめようとしているところだろうが、私には確信がある。何度でも言うが国王陛下は亡くなった」
帽子を普段より目深にかぶり、獲物を待つ獣のように静かにぎらついた瞳は嘘をついているように見えなかった。
だが、リムズの言葉には頷ける要素がある。
ギルドが妙に慌ただしかったのは不確定な情報に右往左往していたからではないか。
本物の国王陛下が死亡したという事実がすぐに確認できるのであればすぐさま行動できるが、死亡したかもしれないというのなら話は違う。
何はともあれ事実確認。ギルドはそのために奔走しているはずだ。
だが、なぜかそれができないのだろう。
それはなぜか。事故か。それとも、何者かの意志か。
さらにより深刻な疑問は、そんなイシュタル神がため込む宝石のように貴重な情報をエタに語って聞かせるリムズの真意だった。
「陛下が亡くなった今、最大の問題は後継者だ。王子の名前は知っているかね?」
「確か、ラバシュムという方でしたね。それ以上は……いえ、全く聞いたことがありません」
一応エドゥッパに在籍していたエタは一般人よりも多少王族の事情に詳しい。
それなのに王子については噂さえ聞いたことがない。
「これもうわさに過ぎないが、王子は今までに何度か暗殺されそうになったことがあるらしい」
暗殺。
少なくとも数か月前まで……いや、危険と隣り合わせになった今さえも血なまぐさく、謀略の霧が漂う言葉を直に聞くとは想像もしていなかった。
そしてこの時点でリムズの目的はおおよそ想像できた。できてしまっていたというべきか。
「王子はどこかに隠されていたのですか?」
「そうだ。暗殺を恐れた陛下はいずこかに王子をどこかに匿わせた」
つまり国王は王子を守ろうとしてどこかに隠した。その王がいなくなればどうなるか。
「……問題は王子が誰か我々にはわからないこと。そして、王子の命を何者かが狙っていること。……そうですね?」
結論を先読みしたエタに対してリムズは珍しく感情の籠った……非常に粘着質な笑みを浮かべ、エタはわずかながら身を固くした。
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