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第二章 岩山の試練
第四十四話 解体
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揺れる『石膏』の鼻面に飛んだミミエルは銅の槌を軽く叩き込む。
軽くとは言うものの人の顔を陥没させるほどの威力があるに違いない。
さらに銅の槌は『岩を砕く』掟が備わっているため石の戦士の多くに有効だ。
叩いた衝撃を利用しミミエルは減速し、着地する。驚くべきことに着地した瞬間にはもう銅の槌は消えており、ベールを被っていた。
報復するように、『石膏』はミミエルを押しつぶそうとする。
重い音が響き、『石膏』が地面に横たわる。しかし地面と『石膏』の間には何もない。
ミミエルのベールには『優雅に舞い踊る』掟があり、素早く、素晴らしい足さばきを披露できる。
横倒しで無防備になった『石膏』の口に再び銅の槌が振るわれる。
痛みがあるのかどうかはわからないが、『石膏』は逃れるように転がる。しかしそれすらも予想していたのか、先回りしたミミエルに今度は目を潰された。
そこから先はほとんど一方的だった。
ミミエルに攻撃を加えようとする『石膏』の攻撃をひらりとかわし、小振りな打撃。しかし正確に相手の顔を削いでいく。
「うへえ。ちょっと同情するな」
ターハの気持ちもわからなくはない。『石膏』の顔はもうほとんど面影がなくなり、頭頂部の毛髪を模した部分だけが別れを惜しむように残っている。
ミミエルは接近してからほとんど一人だけで『石膏』を行動不能にしてしまった。
「もういいわよ。さっさと解体するんでしょ」
ぴくぴくと陸に上がった魚のような動きしかしなくなった『石膏』に全員が群がる。めいめいに取り出したノミや槌で『石膏』を砕いていく。
「おまえらさあ。何してんだ?」
細かい作戦を聞いていないリリーは何が何やらわからない様子だ。
「『石膏』を砕いてるんだよ」
「いや、そりゃわかるぜ? なんでそんなことしてんだ?」
「いいから黙って見ときなさい」
横から口を挟まれることに嫌気がさしたミミエルがぴしゃりと言い放つ。
それ以降誰も口を開かず黙々と『石膏』の体を砕き続ける。手足に汗がにじんでいるのは暑さのせいだけではなく焦りもある。
ここでぐずぐずしていると他の石の戦士がやってくるかもしれないのだ。
「あったぞ。砕けねえ石膏だ」
短くしわがれたような声を出したのはラバサルだ。
その手には人の頭ほどもある白く輝く球があった。
神々しさを感じるが、一方で汗のように水がぷつぷつと湧き出ているのが不気味だった。
「多分それが『石膏』の核です! これに包んでください!」
動物の胃をつなぎ合わせて作られた革袋で白い球をぐるぐると包む。
「意外と重いな。ラバサルのおっさんの鞄に入るか?」
「何とかなりそうだ」
ラバサルは自分の『持ち物を軽くする』掟を備えた鞄に『石膏』の核を押し込む。もともと入っていた道具も含めてぎゅうぎゅうになっていた。
「結構かさばるな。よし、あたしが持つよ」
「お願いします。ミミエルとラバサルさんはターハさんの護衛を。シャルラと僕は先に戻って準備をするよ!」
にわかに慌ただしくなったエタたちにやはり事態が呑み込めないリリーは困惑するばかりだ。
「え、ちょ、私は?」
「あなたはこっちについてきて!」
「うわ、ちょ、ちょっと待て! 手え縛られてんだぞ!?」
「急がないとだめなのよ!」
シャルラがリリーを引っ張りながら走る。他の面々もそれに続く。あとには『石膏』の残骸だけが残された。
軽くとは言うものの人の顔を陥没させるほどの威力があるに違いない。
さらに銅の槌は『岩を砕く』掟が備わっているため石の戦士の多くに有効だ。
叩いた衝撃を利用しミミエルは減速し、着地する。驚くべきことに着地した瞬間にはもう銅の槌は消えており、ベールを被っていた。
報復するように、『石膏』はミミエルを押しつぶそうとする。
重い音が響き、『石膏』が地面に横たわる。しかし地面と『石膏』の間には何もない。
ミミエルのベールには『優雅に舞い踊る』掟があり、素早く、素晴らしい足さばきを披露できる。
横倒しで無防備になった『石膏』の口に再び銅の槌が振るわれる。
痛みがあるのかどうかはわからないが、『石膏』は逃れるように転がる。しかしそれすらも予想していたのか、先回りしたミミエルに今度は目を潰された。
そこから先はほとんど一方的だった。
ミミエルに攻撃を加えようとする『石膏』の攻撃をひらりとかわし、小振りな打撃。しかし正確に相手の顔を削いでいく。
「うへえ。ちょっと同情するな」
ターハの気持ちもわからなくはない。『石膏』の顔はもうほとんど面影がなくなり、頭頂部の毛髪を模した部分だけが別れを惜しむように残っている。
ミミエルは接近してからほとんど一人だけで『石膏』を行動不能にしてしまった。
「もういいわよ。さっさと解体するんでしょ」
ぴくぴくと陸に上がった魚のような動きしかしなくなった『石膏』に全員が群がる。めいめいに取り出したノミや槌で『石膏』を砕いていく。
「おまえらさあ。何してんだ?」
細かい作戦を聞いていないリリーは何が何やらわからない様子だ。
「『石膏』を砕いてるんだよ」
「いや、そりゃわかるぜ? なんでそんなことしてんだ?」
「いいから黙って見ときなさい」
横から口を挟まれることに嫌気がさしたミミエルがぴしゃりと言い放つ。
それ以降誰も口を開かず黙々と『石膏』の体を砕き続ける。手足に汗がにじんでいるのは暑さのせいだけではなく焦りもある。
ここでぐずぐずしていると他の石の戦士がやってくるかもしれないのだ。
「あったぞ。砕けねえ石膏だ」
短くしわがれたような声を出したのはラバサルだ。
その手には人の頭ほどもある白く輝く球があった。
神々しさを感じるが、一方で汗のように水がぷつぷつと湧き出ているのが不気味だった。
「多分それが『石膏』の核です! これに包んでください!」
動物の胃をつなぎ合わせて作られた革袋で白い球をぐるぐると包む。
「意外と重いな。ラバサルのおっさんの鞄に入るか?」
「何とかなりそうだ」
ラバサルは自分の『持ち物を軽くする』掟を備えた鞄に『石膏』の核を押し込む。もともと入っていた道具も含めてぎゅうぎゅうになっていた。
「結構かさばるな。よし、あたしが持つよ」
「お願いします。ミミエルとラバサルさんはターハさんの護衛を。シャルラと僕は先に戻って準備をするよ!」
にわかに慌ただしくなったエタたちにやはり事態が呑み込めないリリーは困惑するばかりだ。
「え、ちょ、私は?」
「あなたはこっちについてきて!」
「うわ、ちょ、ちょっと待て! 手え縛られてんだぞ!?」
「急がないとだめなのよ!」
シャルラがリリーを引っ張りながら走る。他の面々もそれに続く。あとには『石膏』の残骸だけが残された。
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