迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
133 / 304
第二章 岩山の試練

第三十一話 独り言

しおりを挟む
「どうすっかな……」
 天幕の外で中に入る機会を逸したラバサルとターハは立ち尽くしていた。
 会話の内容は聞こえていたので状況は把握している。視界の端には遠ざかっていくミミエルが見えた。
「どうもこうもねえ。わしはエタに言葉をかける。おめえはミミエルを何とかしろ」
「何とかしろっつってもよう……不器用すぎだろう、あいつ」
 ラバサルもターハもミミエルがあえて憎まれ役を買って出たことはわかっている。
 エタのことを思ってのことだとも理解できる。
 やり方があまりにも極端すぎるとは思うが、おそらくああいうやり方しか知らないのだろう。
「本来わしらがやるべきだったことだろう」
「ま、そりゃそうかもな」
 あえて厳しい事実を告げるのは年長者の役目だ。
 それを年若いミミエルに先を越されてしまった。それに対して引け目のようなものを感じていた。
「しゃーない。あたしが見てくるよ。そっちは頼んだよ」
 手をひらひらさせて別れの合図を示した。

(まあ、気は進まないけどよう)
 ターハは自分のことを気ままな旅人だと思っているが、実際のところ彼女は面倒見がよい。特に、自分より年下、あるいは立場の弱い相手には。
 だからこそダメな男に引っかかったりもするわけだが。
「しゃあない。まずは見つけないとな……あ、いた」
 ミミエルはうずくまっていた。何かつぶやいているようだ。
(あいつ、やっぱりエタにあんなこと言ったの、後悔してんだよなあ)
 たとえ自分が傷ついたとしても相手を奮い立たせようとする。
 ミミエルという少女の異質な部分だ。何をどう育てばあんなふうになるのかターハには想像もできなかった。
「よう。ミミエル……」
 あまり深刻にならないように軽く声をかける。
 近づいたせいでミミエルの呟きが聞こえた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。でもああするしかなかったの。あのままじゃあなたはここで立ち止まっていた。それだけはダメ。あなたにとっても、周りにとっても。ううん、あたしにとってそれだけはダメ。傲慢だとも思うし、愚かだとも思うわ。あなたがあなたの目的を諦めることを私は認められない。だってあの時私と一緒に約束したでしょう? 最後まで付き合うって。あなたも頷いてくれたわよね、エタ。きっとあなたならみんなを、あたしを幸せにできるわ。だからそれまでにどんなに辛いことがあっても堪えないと。あたしもどんなに辛くても堪えてみせるから。きっとあたしがあなたを危険から守って見せるから。正直に言うとね、あたしまだハマームを殺したこと後悔してる。あんな奴だし殺されても当然だし殺したいと思ったこともある。でもあいつだった魔人を叩き潰した後の感触が忘れられないの。自分でもひどいと思うけど、あんたの寝言聞いて安心したの。あんたもハマームの死に加担したことを後悔してたみたいで。ひどいよね。醜いよね。でもそれが本音なの。だからあんたがザムグたちが死んだからもっと衝撃を受けているのもわかってるつもり。あんなに可愛がってたもん。あたしなんかよりあんたの傷のほうがずっと深いわよね。その場に居合わせて、何もできなかったの、しんどいわよね。あたしもあの子たちに下山するように勧めたけど、頑として譲らなかった。あの時のあたしはまともに動ける状態じゃなかった、なんて言い訳してあの子たちを代わりに行かせたのは私の失敗よ。ううん、そもそももっとちゃんとあの子たちを鍛えておくべきだった。そうしたら、みんな助かったかもしれないのに。あんたが崖の下でぼろぼろになって気を失ってるのを見て、ザムグがニントルの掟を使ってあんたを逃がしたってすぐに気づいた。悔しかった。情けなかった。この世から消えたいと思った。きっとエタもそう思ってるわよね。もう逃げたいと思ってるわよね。でもここで逃げたらもっと後悔するのよ。何度でも言うけどそれは事実なの。逃げても何も解決しないのよ。それを許さないあたしのことを恨んでるでしょうね。あたしだって同じ立場なら恨むし憎むわ。それは構わない。でもあたしにあなたを敬わせて。信仰させて? だってあなたはあたしにとってのティンギルだから。あなたがあたしをどう思っていてもいい。身勝手と言われてもいい。それでもあなたはあたしにとって一番の神なの。だってあなたはあたしのことを救ってくれたのもの。だからあなたならもっと多くの人を救える。こんなのは理想の押し付けなのはわかっているけれど、それでもそう思わずにはいられないの。わからなくていいけれど、それでもあなたを信仰させて?」

「…………」
 ミミエルの呟きを聞き届けたターハは黙るしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロでも諦めない! 転生エンジニアがITスキルで挑む異世界革命

暁ノ鳥
ファンタジー
ブラック企業で過労死寸前となったエンジニア・如月ケイは、意識を失った瞬間、中世風の異世界に転生する。  そこでは、魔力を持たない彼が「魔力ゼロ」として厳しい差別に晒され、さらに庶民から重い“保護費”を巻き上げる腐敗した制度が蔓延していた。  しかしケイは前世のプログラミング思考を活かし、“魔法をコード化”するという革新的手法で新たな道を切り拓く。  かつての失敗を繰り返さぬよう改革を推進しながら、アリアやエレナ、フレイア、そして改革派のラヴィニアら仲間と共に、歪んだ社会の変革を目指す。  一方、かつて家族を失い絶望した元ギルド魔術師・ローガンが暗躍し、封印された“大厄災”を再び解き放とうと企む。  世界を覆う差別と腐敗を打ち砕くのか、それとも破滅へ導くのか――ケイの“コード魔法”は新時代を切り拓けるのか?  魔力ゼロ差別、利権にまみれた保護費制度、そして再来する“大厄災”を前に、ケイたちの冒険と改革の物語が今、始まる。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...