迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
115 / 266
第二章 岩山の試練

第十八話 戦士の脅威

しおりを挟む
 山羊を押しつぶした石のトンボが去っていく姿を遠目で見送る。
 シュメールの面々は言葉もない。あれだけの暴威を見せつけられては無理もない。
「ほ、本当にあれと戦うんですか?」
 ザムグの声は震えていた。
 エタとしてはこの偵察の目的の一つを達成できてほっとしていた。石の戦士の強さを見せつけ、皆、特にザムグたち新人が軽率な行動をとらないように念押ししたかったのだ。
「いや、さすがにあれと正面からは戦わないよ。冒険者ギルドの作戦だと囮組と攻略組に分かれる予定らしい」
 全員が少しほっとする表情になったが、一方で気になったのは自分たちがどちらの組かということだ。
「僕らは攻略組。くじ運がよかったね」
「そうは言っても囮に引っかからねえやつもいるかもしれん。エタ。石の戦士ってのは何体いるんだ?」
「全部で十一体ですね。トンボ、竜、石膏、強き銅、勇士六つ頭の牡羊、イナゴ船、なつめやし、アンズー、七つ頭の蛇。主人。これらが石の怪物となって襲ってきます」
「ちょっと。十体じゃない? 一つ足りないわよ?」
「ああ、もともと十一体いたらしいんだけど、一体は三十年前に倒したらしいんだ」
「よく倒せたよなあ。でも百年もあったらもう二、三体倒せてもよさそうなもんなんだけど」
「それが……どうも石の戦士は一度倒してもそのうち復活するようです。ですが倒した一体はなぜか復活していないみたいですね」
 身を削る思いでようやく倒せそうな怪物がまだ十体。
 しかも倒してもきりがない。
「……この迷宮が攻略されなかったわけがよくわかったわね」
 ミミエルの言葉に全員が無言でうなずいた。
 これは力でどうにかできる相手ではないのだと、誰もが理解できた。
「ひとまずこれで偵察は終わりですね。皆さんは先に戻っていてください」
「おめえはまだ用があんのか?」
「はい。例のトラゾスが占拠している場所に行ってみようかと思います」
 今までいた社員はもちろん、ザムグたちでさえ不安そうな顔をした。



 さすがに一人で潜在的な敵勢力のど真ん中に行かせられないと主張したミミエルが同行することになった。
 エタの一人で行っても大丈夫と言う意見は全員が反対という圧倒的多数決により黙殺された。
 トラゾスの拠点は戦士の岩山の南西側にある。
 エタたちはウルクから近い戦士の岩山西側から南西側に移動していた。
「ふう。ちょっと足場が悪くて疲れるね」
「あんたがひ弱すぎるのよ。ていうか、わざわざなんでトラゾスなんて奴らに会うのよ」
 エタは息を切らしているが、ミミエルはエタの前方やや左を悠々と歩いている。
 エタはミミエルが自分の左側に立つことが多いことに気づいていた。
 おそらく左目の視力がなくなっているエタを気遣ってのことだろう。
 エタは以前の戦いでメラムを纏った掟を使い、左目の視力を失った。それそのものは全く後悔していないのだが、やはり不便である。
 ものを掴もうとして逆に落としたり、壁にぶつかりそうになったこともある。それを見かねてこんなことをしているのだろう。
 それを直接言わず、行動だけで示すあたりがミミエルらしいと思っていた。
「あの人たちはどうやってかわからないけどこの迷宮攻略で成果を上げているからね。見るだけでも何かわからないかと思ったんだ」
「見ただけでわかるの?」
「どうだろうね。でも見なければ絶対にわからないよ」
「ま、そりゃそうだけ……!!!!」
 ミミエルは突然厳しい目つきになると、自らの掟である銅の槌を出現させ、エタの死角から飛んできた石を弾いた。
「誰!?」
 誰何しながら右手に銅の槌を持ち、左手で服から黒曜石のナイフを取り出して投擲する。
 エタには何が起こったかわからないほどの早業だった。
 勢いよく飛び出したナイフが巨大な岩にぶつかりガキンと耳障りな音を立てた。
「きゃ、きゃあ!?」
「う、うわ!?
「「え……?」」
 エタとミミエルはぽかんと口を開いて驚いていた。
 岩の陰から腰を抜かして出てきたのはザムグたちよりも年下の少年少女だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...