115 / 293
第二章 岩山の試練
第十八話 戦士の脅威
しおりを挟む
山羊を押しつぶした石のトンボが去っていく姿を遠目で見送る。
シュメールの面々は言葉もない。あれだけの暴威を見せつけられては無理もない。
「ほ、本当にあれと戦うんですか?」
ザムグの声は震えていた。
エタとしてはこの偵察の目的の一つを達成できてほっとしていた。石の戦士の強さを見せつけ、皆、特にザムグたち新人が軽率な行動をとらないように念押ししたかったのだ。
「いや、さすがにあれと正面からは戦わないよ。冒険者ギルドの作戦だと囮組と攻略組に分かれる予定らしい」
全員が少しほっとする表情になったが、一方で気になったのは自分たちがどちらの組かということだ。
「僕らは攻略組。くじ運がよかったね」
「そうは言っても囮に引っかからねえやつもいるかもしれん。エタ。石の戦士ってのは何体いるんだ?」
「全部で十一体ですね。トンボ、竜、石膏、強き銅、勇士六つ頭の牡羊、イナゴ船、なつめやし、アンズー、七つ頭の蛇。主人。これらが石の怪物となって襲ってきます」
「ちょっと。十体じゃない? 一つ足りないわよ?」
「ああ、もともと十一体いたらしいんだけど、一体は三十年前に倒したらしいんだ」
「よく倒せたよなあ。でも百年もあったらもう二、三体倒せてもよさそうなもんなんだけど」
「それが……どうも石の戦士は一度倒してもそのうち復活するようです。ですが倒した一体はなぜか復活していないみたいですね」
身を削る思いでようやく倒せそうな怪物がまだ十体。
しかも倒してもきりがない。
「……この迷宮が攻略されなかったわけがよくわかったわね」
ミミエルの言葉に全員が無言でうなずいた。
これは力でどうにかできる相手ではないのだと、誰もが理解できた。
「ひとまずこれで偵察は終わりですね。皆さんは先に戻っていてください」
「おめえはまだ用があんのか?」
「はい。例のトラゾスが占拠している場所に行ってみようかと思います」
今までいた社員はもちろん、ザムグたちでさえ不安そうな顔をした。
さすがに一人で潜在的な敵勢力のど真ん中に行かせられないと主張したミミエルが同行することになった。
エタの一人で行っても大丈夫と言う意見は全員が反対という圧倒的多数決により黙殺された。
トラゾスの拠点は戦士の岩山の南西側にある。
エタたちはウルクから近い戦士の岩山西側から南西側に移動していた。
「ふう。ちょっと足場が悪くて疲れるね」
「あんたがひ弱すぎるのよ。ていうか、わざわざなんでトラゾスなんて奴らに会うのよ」
エタは息を切らしているが、ミミエルはエタの前方やや左を悠々と歩いている。
エタはミミエルが自分の左側に立つことが多いことに気づいていた。
おそらく左目の視力がなくなっているエタを気遣ってのことだろう。
エタは以前の戦いでメラムを纏った掟を使い、左目の視力を失った。それそのものは全く後悔していないのだが、やはり不便である。
ものを掴もうとして逆に落としたり、壁にぶつかりそうになったこともある。それを見かねてこんなことをしているのだろう。
それを直接言わず、行動だけで示すあたりがミミエルらしいと思っていた。
「あの人たちはどうやってかわからないけどこの迷宮攻略で成果を上げているからね。見るだけでも何かわからないかと思ったんだ」
「見ただけでわかるの?」
「どうだろうね。でも見なければ絶対にわからないよ」
「ま、そりゃそうだけ……!!!!」
ミミエルは突然厳しい目つきになると、自らの掟である銅の槌を出現させ、エタの死角から飛んできた石を弾いた。
「誰!?」
誰何しながら右手に銅の槌を持ち、左手で服から黒曜石のナイフを取り出して投擲する。
エタには何が起こったかわからないほどの早業だった。
勢いよく飛び出したナイフが巨大な岩にぶつかりガキンと耳障りな音を立てた。
「きゃ、きゃあ!?」
「う、うわ!?
「「え……?」」
エタとミミエルはぽかんと口を開いて驚いていた。
岩の陰から腰を抜かして出てきたのはザムグたちよりも年下の少年少女だった。
シュメールの面々は言葉もない。あれだけの暴威を見せつけられては無理もない。
「ほ、本当にあれと戦うんですか?」
ザムグの声は震えていた。
エタとしてはこの偵察の目的の一つを達成できてほっとしていた。石の戦士の強さを見せつけ、皆、特にザムグたち新人が軽率な行動をとらないように念押ししたかったのだ。
「いや、さすがにあれと正面からは戦わないよ。冒険者ギルドの作戦だと囮組と攻略組に分かれる予定らしい」
全員が少しほっとする表情になったが、一方で気になったのは自分たちがどちらの組かということだ。
「僕らは攻略組。くじ運がよかったね」
「そうは言っても囮に引っかからねえやつもいるかもしれん。エタ。石の戦士ってのは何体いるんだ?」
「全部で十一体ですね。トンボ、竜、石膏、強き銅、勇士六つ頭の牡羊、イナゴ船、なつめやし、アンズー、七つ頭の蛇。主人。これらが石の怪物となって襲ってきます」
「ちょっと。十体じゃない? 一つ足りないわよ?」
「ああ、もともと十一体いたらしいんだけど、一体は三十年前に倒したらしいんだ」
「よく倒せたよなあ。でも百年もあったらもう二、三体倒せてもよさそうなもんなんだけど」
「それが……どうも石の戦士は一度倒してもそのうち復活するようです。ですが倒した一体はなぜか復活していないみたいですね」
身を削る思いでようやく倒せそうな怪物がまだ十体。
しかも倒してもきりがない。
「……この迷宮が攻略されなかったわけがよくわかったわね」
ミミエルの言葉に全員が無言でうなずいた。
これは力でどうにかできる相手ではないのだと、誰もが理解できた。
「ひとまずこれで偵察は終わりですね。皆さんは先に戻っていてください」
「おめえはまだ用があんのか?」
「はい。例のトラゾスが占拠している場所に行ってみようかと思います」
今までいた社員はもちろん、ザムグたちでさえ不安そうな顔をした。
さすがに一人で潜在的な敵勢力のど真ん中に行かせられないと主張したミミエルが同行することになった。
エタの一人で行っても大丈夫と言う意見は全員が反対という圧倒的多数決により黙殺された。
トラゾスの拠点は戦士の岩山の南西側にある。
エタたちはウルクから近い戦士の岩山西側から南西側に移動していた。
「ふう。ちょっと足場が悪くて疲れるね」
「あんたがひ弱すぎるのよ。ていうか、わざわざなんでトラゾスなんて奴らに会うのよ」
エタは息を切らしているが、ミミエルはエタの前方やや左を悠々と歩いている。
エタはミミエルが自分の左側に立つことが多いことに気づいていた。
おそらく左目の視力がなくなっているエタを気遣ってのことだろう。
エタは以前の戦いでメラムを纏った掟を使い、左目の視力を失った。それそのものは全く後悔していないのだが、やはり不便である。
ものを掴もうとして逆に落としたり、壁にぶつかりそうになったこともある。それを見かねてこんなことをしているのだろう。
それを直接言わず、行動だけで示すあたりがミミエルらしいと思っていた。
「あの人たちはどうやってかわからないけどこの迷宮攻略で成果を上げているからね。見るだけでも何かわからないかと思ったんだ」
「見ただけでわかるの?」
「どうだろうね。でも見なければ絶対にわからないよ」
「ま、そりゃそうだけ……!!!!」
ミミエルは突然厳しい目つきになると、自らの掟である銅の槌を出現させ、エタの死角から飛んできた石を弾いた。
「誰!?」
誰何しながら右手に銅の槌を持ち、左手で服から黒曜石のナイフを取り出して投擲する。
エタには何が起こったかわからないほどの早業だった。
勢いよく飛び出したナイフが巨大な岩にぶつかりガキンと耳障りな音を立てた。
「きゃ、きゃあ!?」
「う、うわ!?
「「え……?」」
エタとミミエルはぽかんと口を開いて驚いていた。
岩の陰から腰を抜かして出てきたのはザムグたちよりも年下の少年少女だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。


主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる