迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
107 / 315
第二章 岩山の試練

第十二話 リサイクル

しおりを挟む
 エタはザムグたち四人を連れだって例の酒の湧く泉がある洞窟に到着した。そこには入り口にはきっちりとした扉がつけられていた。
「エタさん? これは……盗賊対策か何かですか?」
 今までも何度かそういう手合いに出くわしたことはあるが、危険と利益が見合わないせいでたいてい入ることすらしないようだった。
 しかしもしもこの迷宮に価値があるのなら、ちゃんと戸締りをしておくことに越したことはないだろう。
「それもあるけど、どちらかというと動物が入らないようにするためだね」
「ど、動物? ね、ネズミとかオオカミですか?」
「うん。迷宮が成長するのは知っているよね?」
「えっと、迷宮には核があってそれぞれにパルスを持つ……ですよね」
 ニントルがつい先日教えた知識をそらんじた。
 生徒の成長が垣間見える教師として嬉しい瞬間だ。
「多分この迷宮の掟は腐敗だ。食べ物や死体を腐らせる。君たちも気づいていたとはおもうけど」
「ええ。腐った死体に襲われたりもしますから。でも、不思議だったのは……」
「どうしてそんな迷宮に酒の湧く泉があるか。そうだよね?」
 迷宮に今まで入ったことがなかったニントル以外の三人は頷いた。
 何度となく出入りしてきた迷宮だが、不思議には思っていても詳しく調べる余裕はなかった……いや、そもそもそんな発想がなかったのだ。
「これはアトラハシス様の講義で聞いた話なんだけど……どうも酒が造られる原理、つまり発酵と腐敗の本質は同じものらしいんだ」
「そうなんですか?」
 エタ以外はいまいちピンと来ていない。
 彼らにとって腐っているものは食べられないが、酒は飲み物だ。それ以上の区別をする意味がない。
 だが数千年後の人類が聴けば、発酵も腐敗も同じ微生物の働きによるものだと理解しただろう。エタはそれを理解していないが、利用することはできる。
「僕も聞いただけだけどね。だから、湧いてくるお酒をもっとおいしくするには酒造りの知識を応用できないかって思ったんだ」
「だから動物が入れないようにしたんですか?」
 食物の保存に気をつけなければならないことの一つは害虫、害獣の駆除である。酒の品質をあげたいならあまり動物がうろつくようにさせたくないのは道理だった。
「それも一つ。もう一つは迷宮に他の物を腐敗させたくなかったからかな」
「ああん? 他の物?」
「あ、もしかして……腐敗の掟を泉に集中させたかった?」
「ニントルが正解だね。迷宮の掟は使える力に限界がある。だから、動物を腐らせたりするとそれだけ酒を造る力が落ちるはずなんだ」
「……エタさんの言ってることの半分くらいしか理解できていませんけど……俺たちはそんなことを思いつきもしませんでした。エドゥッパの学生ってみんなこうなんですか?」
 ザムグの質問に答えたのは後ろから来た少女の声だった。
「エタがちょっと変わり者なのよ。少なくともお嬢様はそうじゃなかったわよ」
 人を小馬鹿にするようなしゃべり方はミミエルのものだ。
 エタたちは振り返りミミエルの姿を見て……困惑した。
「ミミエルさん? その恰好はいったい……?」
 ミミエルは普段の煽情的な服装ではなく、肌を徹底的に隠し、さらに白い頭巾に白い布をマスク代わりに使っていた。
 おそらく数千年後の日本人の小学生が今のミミエルを見ればこう言うだろう。給食のおば……お姉さんと。
「エタがこうしろって言ったのよ。はい。あんたたちも」
 ミミエルは同じような衣服と布をザムグたちにも渡した。よく見るとミミエルだけでなくラバサルやターハも似たような恰好をしていた。
 困惑しきりのザムグたちだったが、反対する理由もないので黙って着用する。
「結局今から何をするんですか」
「そういえばまだ言ってなかったっけ。今から、迷宮内を徹底的に掃除するよ」
 返答を聞いても、やはり困惑は晴れなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

気弱令嬢の悪役令嬢化計画

みおな
ファンタジー
 事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?  しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?  いやいやいや。 そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!  せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。  屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

処理中です...