迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
90 / 293
第一章 迷宮へと挑む

第六十九話 企業

しおりを挟む
「おめぇの気持ちは分かった。だがどうするつもりだ。擬態の魔人は隠れることに長けた魔人だ。相手が強えってんならこっちも兵隊を用意すりゃいい。だが、見つけらんなきゃ戦いにすらなんねえぞ」
 ラバサルは感情ではなく、現実的な実行方法についての議論に変更した。
「方法はいくつかあります。あの魔人が冒険者に擬態するなら、迷宮をこの世界から無くせば、必然的に冒険者は消滅し、冒険者に擬態することはできなくなります」
「い、いやいや! 無理だろそりゃ! この世界にどんだけ迷宮があると思ってんだよ!?」
「いえ、この世界、は言い過ぎでした。僕らの冒険者憲章が有効な都市国家間だけなら不可能ではありません」
「不可能じゃあないでしょうけど、ほぼ無理でしょ」
 未踏破の迷宮はいくらでもあるし、神々によってばらまかれてしまった迷宮は今も成長し、増え続けている。千年たってもすべての迷宮を攻略するなど不可能だ。
「確かに、ミミエルの言う通りかもしれない」
「じゃあ、どうするって言うのよ?」
「だから他の案です。冒険者よりもはるかに優秀で、効率よく迷宮を攻略できる組織があれば冒険者は無用になります」
「エタ。あなた、もしかして企業を作って迷宮を攻略するつもり?」
 エタは迷わず頷いた。シャルラは恐怖に近い表情をしていた。冒険者ではなく社員であるシャルラでさえこれはとんでもないことなのだ。
 なぜならこの大地に住む人々は冒険せよ、神々からそう命じられていると信じているからだ。
「偉大なるエンリル様のお言葉に背くことにならないの……? それに……せっかく書記官の内定をもらっていたのに……」
「ならないよ。エンリル様は冒険をしろとだけお命じになられた。だから、冒険をするのが冒険者でなければならないとは言っていない。書記官については……僕から先生に謝るよ」
 人の望みを叶え、神の使命を果たし、自らの宿願を果たすための唯一の解。それが企業だった。
「屁理屈だろうが。そもそも、ギルドはウルクやウル、ニップル、アッカドなんかの全部の都市国家に点在している。そいつを滅ぼすなんてこたあ、国を滅ぼすよりも難しいぞ」
「それでも、やらなければなりません。それが僕の答えです」
 エタの表情に迷いはない。あるいは狂気と呼ばれるものが浮かんでいたのかもしれない。
 真っ先に賛同したのはミミエルだった。
「あたしは付き合ってもいいわ。最後まで見届けるわよ」
 かつての約束と同じ言葉。もしかしたら、ミミエルは最初から覚悟を決めていたのかもしれない。
 ふう、とため息をついたのはラバサルだった。
「わしもやる。弟子の不始末は師がつけるべきだ」
 イレースと近しいという意味でエタの気持ちが一番理解できたのはラバサルかもしれない。だからこそ、反対もしていたのだろうが。
「うーん」
 ターハは頭をがしがしとかく。銅の髪が短く揺れる。
「あたしは正直あの魔人を許せない。ペイリシュはろくでもないやつだったけどあたしの恋人だった。仇をとるような形になるかもしれないけど、いいかい?」
「はい。構いません」
「エタ。ごめんなさい。私は……」
「シャルラにはニスキツルがあるからね。しょうがないよ」
「うん。でも、父さんには力になってくれるよう頼んでみる」
「あー……いや、その……」
 エタはシャルラに対して申し訳なさそうにして頬をかいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

処理中です...