81 / 293
第一章 迷宮へと挑む
第六十二話 七十二時間
しおりを挟む
とりあえず第一段階を攻略したが、問題は山積みしていた。
「ここからは手分けしましょう。ラバサルさんは迷宮の変動が収まっていなくても探索できないか掛け合ってもらえませんか? シャルラはリムズさんにお金を借りれないか頼んでみてくれない? できれば他の人を雇いたい。ミミエルとターハさんは協力してくれそうな冒険者に片っ端から声をかけてきて」
「おめえはどうする?」
「この人から話を聞きます」
ペイリシュを一瞥する。
全員がてきぱきと行動し始めたが、ターハは申し訳なさそうにエタを見ていた。
その視線にエタは言葉をかける。
「ターハさん。これが終わったらきちんとお礼させてください。ターハさんだけじゃないですけど」
「そうだな。まだ奢ってもらってないもんな」
「え? なにそれ? 私聞いてないんだけど」
「お嬢様はあの時いなかったでしょ」
「あはは。ちゃんとシャルラにも何か奢るよ」
「ほんと? 約束ね」
「甘やかしすぎよ……って、おじさん? それ何?」
「縄だ。この男が逃げないように縛っておこうかと思ってな」
「おー、いいな。頼むよラバサルのおっさん」
「はあ!? なんで俺が……」
ペイリシュの反発は圧倒的賛成多数によって黙殺され、ペイリシュは携帯粘土板を奪ったうえで縛って転がされた。
そうしてエタはペイリシュから事情聴取を開始したが、おおむね予想通りの内容だった。
つまり予想通り、あまり役に立ちそうにないということだ。
ペイリシュは一言目にはあやふやな情報を、二言目には言い訳を、三言目には自慢話をする始末でとにかく要領を得なかった。
それでもなんとか大まかな位置を割り出した。
(アトラハシス様の授業で以前聞いた話だけど人間が孤立無援の状況で持ちこたえられるのは三日くらいらしい。でも、姉ちゃんならそれ以上を耐えられるはず)
明らかな希望的観測だったが、楽観論に縋らなければならないほど追い込まれているのはわかっていた。
「なあ、君。君はイレースの弟だろう? 彼女を心配する気持ちはわかるけど俺にこんなことをしたら彼女だって悲しむよ?」
「そうですか。そうなら後で謝ります」
けんもほろろなエタの対応に、明らかにいらだっている様子だった。
「だからあ。もっと敬意をもって接してほしいんだよ。こんな縛るだなんて乱暴すぎると思わないかい?」
いつまでも全く反省のない様子のペイリシュにいい加減堪忍袋の緒が切れそうになったエタだったが、そこで制止の声が届いた。
「そこまでだよ」
「ターハさん。協力してくれそうな人はいましたか?」
「あんまりいないよ。でも、暇な奴らは結構いるからね。他にも声をかけてくるってさ」
どうやらミミエルは外の冒険者に声をかけに行ったらしい。
「そうですか。でも、ターハさんは何故ここに?」
「お前と替わったほうがいいかと思ってな。これから忙しくなるかもしれないから食事ぐらいしときな」
ペイリシュは縛ってるとはいえ前科が前科だ。隙を見て逃げ出そうと思っているのは間違いないだろう。
「そうですね。ターハさんはどうですか?」
「あたしはもうここの食堂で済ませたよ。酢汁がおすすめだそうだ」
「わかりました。じゃあ、僕もいったん食事にします」
そのまま部屋を出て食堂に向かう。
しかしそこでふと疑問が浮かんだ。
(あれ? ターハさん、酢汁が苦手だって言ってなかったっけ)
人に勧めるものと自分で食べるものは別なのかもしれない。そう思いなおして食堂に向かった。
「ここからは手分けしましょう。ラバサルさんは迷宮の変動が収まっていなくても探索できないか掛け合ってもらえませんか? シャルラはリムズさんにお金を借りれないか頼んでみてくれない? できれば他の人を雇いたい。ミミエルとターハさんは協力してくれそうな冒険者に片っ端から声をかけてきて」
「おめえはどうする?」
「この人から話を聞きます」
ペイリシュを一瞥する。
全員がてきぱきと行動し始めたが、ターハは申し訳なさそうにエタを見ていた。
その視線にエタは言葉をかける。
「ターハさん。これが終わったらきちんとお礼させてください。ターハさんだけじゃないですけど」
「そうだな。まだ奢ってもらってないもんな」
「え? なにそれ? 私聞いてないんだけど」
「お嬢様はあの時いなかったでしょ」
「あはは。ちゃんとシャルラにも何か奢るよ」
「ほんと? 約束ね」
「甘やかしすぎよ……って、おじさん? それ何?」
「縄だ。この男が逃げないように縛っておこうかと思ってな」
「おー、いいな。頼むよラバサルのおっさん」
「はあ!? なんで俺が……」
ペイリシュの反発は圧倒的賛成多数によって黙殺され、ペイリシュは携帯粘土板を奪ったうえで縛って転がされた。
そうしてエタはペイリシュから事情聴取を開始したが、おおむね予想通りの内容だった。
つまり予想通り、あまり役に立ちそうにないということだ。
ペイリシュは一言目にはあやふやな情報を、二言目には言い訳を、三言目には自慢話をする始末でとにかく要領を得なかった。
それでもなんとか大まかな位置を割り出した。
(アトラハシス様の授業で以前聞いた話だけど人間が孤立無援の状況で持ちこたえられるのは三日くらいらしい。でも、姉ちゃんならそれ以上を耐えられるはず)
明らかな希望的観測だったが、楽観論に縋らなければならないほど追い込まれているのはわかっていた。
「なあ、君。君はイレースの弟だろう? 彼女を心配する気持ちはわかるけど俺にこんなことをしたら彼女だって悲しむよ?」
「そうですか。そうなら後で謝ります」
けんもほろろなエタの対応に、明らかにいらだっている様子だった。
「だからあ。もっと敬意をもって接してほしいんだよ。こんな縛るだなんて乱暴すぎると思わないかい?」
いつまでも全く反省のない様子のペイリシュにいい加減堪忍袋の緒が切れそうになったエタだったが、そこで制止の声が届いた。
「そこまでだよ」
「ターハさん。協力してくれそうな人はいましたか?」
「あんまりいないよ。でも、暇な奴らは結構いるからね。他にも声をかけてくるってさ」
どうやらミミエルは外の冒険者に声をかけに行ったらしい。
「そうですか。でも、ターハさんは何故ここに?」
「お前と替わったほうがいいかと思ってな。これから忙しくなるかもしれないから食事ぐらいしときな」
ペイリシュは縛ってるとはいえ前科が前科だ。隙を見て逃げ出そうと思っているのは間違いないだろう。
「そうですね。ターハさんはどうですか?」
「あたしはもうここの食堂で済ませたよ。酢汁がおすすめだそうだ」
「わかりました。じゃあ、僕もいったん食事にします」
そのまま部屋を出て食堂に向かう。
しかしそこでふと疑問が浮かんだ。
(あれ? ターハさん、酢汁が苦手だって言ってなかったっけ)
人に勧めるものと自分で食べるものは別なのかもしれない。そう思いなおして食堂に向かった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。



てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる