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第一章 迷宮へと挑む
第五十三話 激戦
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搾取の魔人は恐怖そのものとしか形容できない表情で虚空を睨んでいる。
「や、やめろ、そ、そんな目で俺を見るな。見るな見るな見るなー―――! ち、違う、俺が悪いんじゃない。そうだ、あいつが……」
何もない場所を見つめ、異様に狼狽える搾取の魔人に今更容赦するはずもなく、まずラバサルが首をはねようとする。しかし頭部は樹木ではないためか、首の三分ほどで止まる。さらにうまくないことに刃が噛んだせいなのか、抜けなくなってしまった。
それをきっかけに正気に戻った魔人は奇怪な叫びをあげ、再び前進を開始する。だが、体中から恐怖と怒りが吹き荒れているようだった。
目標はエタ。他には目もくれない。
石斧を諦めたラバサルは魔人に背後から組み付く。
いらだったように魔人の腕がラバサルに振り下ろされるが、ラバサルは声一つ上げず、石のように動かない。
そこにターハが棍棒を振るう。しかし酷使された棍棒はついに根元から折れた。わずかに笑みのようなものを浮かべる魔人に対して構うものかとばかりに今度は拳を振るう。
ターハの拳が奇妙な音を立てるが、さらにもう一撃、とばかりに振りかぶったところで魔人が吠えた。
「い、い、加減に、しろおおお!」
すさまじいニラムでターハとラバサルを吹き飛ばす。
「なぜそうまでして、戦う!?」
疑問を投げかけながら、蔦をエタに振るおうとして、今度は右目に矢が突き刺さり、おもわずのけぞった。
「お返し、よ」
シャルラが出血のせいで片目になりながらも正確に狙撃した。もう矢はすべて矢筒からこぼれていると思っていた魔人はシャルラを全く見ていなかった。だが、シャルラの矢筒には尽きぬ矢の掟が備わっており、無尽蔵に矢が供給されることを知らなかった。
エタに向けようとした蔓をシャルラに向け、シャルラを打った。ごろごろと硬い地面を転がる。
「なぜだ!? あのガキにそこまで期待する価値があるのか!?」
叫んだ魔人は一瞬だけ忘れた。この場で最も警戒するべき少女、ミミエルを。
完全に無表情、そして暗殺者のごとき動きで背後から迫り、二本の槌を振り下ろす。素早く向き直った魔人はそれを防ぐために防御の構えをとると、ミミエルは槌が当たる寸前に携帯粘土板に収納し、今度は無防備になった黒曜石のナイフを胸に突き刺す。再び魔人はよろめく。
四人のエタリッツに対する思いは様々だ。期待であったり、罪悪感であったり、羨望であったり、庇護欲であったり、同情であったりする。
ただ一つ共通しているのは。
『エタなら何かを変えてくれそうな気がする』
あまりにも弱すぎる彼がもがき、抗う姿を見て勇気づけられるのだろうか。
だからたとえ、何をしているのか理解していなくともそれを全力で助ける。
その思いを振り払うように魔人はその腕でミミエルを吹き飛ばし、ようやくエタに向き直る。
だが、エタはついにメラムを纏った掟、突きノミとハマームの粘土板を再び手にした。
「や、やめろ、そ、そんな目で俺を見るな。見るな見るな見るなー―――! ち、違う、俺が悪いんじゃない。そうだ、あいつが……」
何もない場所を見つめ、異様に狼狽える搾取の魔人に今更容赦するはずもなく、まずラバサルが首をはねようとする。しかし頭部は樹木ではないためか、首の三分ほどで止まる。さらにうまくないことに刃が噛んだせいなのか、抜けなくなってしまった。
それをきっかけに正気に戻った魔人は奇怪な叫びをあげ、再び前進を開始する。だが、体中から恐怖と怒りが吹き荒れているようだった。
目標はエタ。他には目もくれない。
石斧を諦めたラバサルは魔人に背後から組み付く。
いらだったように魔人の腕がラバサルに振り下ろされるが、ラバサルは声一つ上げず、石のように動かない。
そこにターハが棍棒を振るう。しかし酷使された棍棒はついに根元から折れた。わずかに笑みのようなものを浮かべる魔人に対して構うものかとばかりに今度は拳を振るう。
ターハの拳が奇妙な音を立てるが、さらにもう一撃、とばかりに振りかぶったところで魔人が吠えた。
「い、い、加減に、しろおおお!」
すさまじいニラムでターハとラバサルを吹き飛ばす。
「なぜそうまでして、戦う!?」
疑問を投げかけながら、蔦をエタに振るおうとして、今度は右目に矢が突き刺さり、おもわずのけぞった。
「お返し、よ」
シャルラが出血のせいで片目になりながらも正確に狙撃した。もう矢はすべて矢筒からこぼれていると思っていた魔人はシャルラを全く見ていなかった。だが、シャルラの矢筒には尽きぬ矢の掟が備わっており、無尽蔵に矢が供給されることを知らなかった。
エタに向けようとした蔓をシャルラに向け、シャルラを打った。ごろごろと硬い地面を転がる。
「なぜだ!? あのガキにそこまで期待する価値があるのか!?」
叫んだ魔人は一瞬だけ忘れた。この場で最も警戒するべき少女、ミミエルを。
完全に無表情、そして暗殺者のごとき動きで背後から迫り、二本の槌を振り下ろす。素早く向き直った魔人はそれを防ぐために防御の構えをとると、ミミエルは槌が当たる寸前に携帯粘土板に収納し、今度は無防備になった黒曜石のナイフを胸に突き刺す。再び魔人はよろめく。
四人のエタリッツに対する思いは様々だ。期待であったり、罪悪感であったり、羨望であったり、庇護欲であったり、同情であったりする。
ただ一つ共通しているのは。
『エタなら何かを変えてくれそうな気がする』
あまりにも弱すぎる彼がもがき、抗う姿を見て勇気づけられるのだろうか。
だからたとえ、何をしているのか理解していなくともそれを全力で助ける。
その思いを振り払うように魔人はその腕でミミエルを吹き飛ばし、ようやくエタに向き直る。
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