65 / 293
第一章 迷宮へと挑む
第四十九話 あがき
しおりを挟む
「あら、ほんとね」
エタに続いて携帯粘土板を操作したのはミミエルだ。灰の巨人を抜けた彼女は愛用の槌を小枝のように振り回している。
明らかに動きが良くなっている。
それを見ていた灰の巨人の冒険者たちは我先にと灰の巨人を抜け始めた。
「お、お前らああああ! 俺のギルドを抜けるんじゃねえええええ!」
自分の名前さえ忘れても、自分がギルド長だったことは覚えているらしい。魔人、いや、搾取の魔人としての特性だろうか。自分が搾取するための組織や部下は覚えているのかもしれない。
だからこそ、その搾取の連鎖を断ち切らなければならない。
「冒険者憲章によると、ギルドへの参加は冒険者の自由意志によるものとされる。脱退も同様に自由である!」
灰の巨人の現状を鑑みれば形ばかりの規則でしかないが、その規則が消えてなくなるわけではない。搾取の魔人にギルドからの脱退を阻むことはできない。
次々と脱退したハマームの元部下たちは息も絶え絶えといった様子だったが、命に別状はなさそうだった。
もしかすると、ハマームとの付き合いが長かったり、ハマームを信頼していると搾取の魔人の効果を受けやすいのかもしれない。
重圧から解放されたミミエルが黒曜石のナイフを顔面に投擲する。それを腕で受け止めるが、今度はシャルラの矢がみぞおちに突き刺さり、うめき声をあげた。
明らかに弱体化している。
隙を見せた魔人にターハとラバサルが振り回される樹の蔓をかいくぐり肉薄した。
それを予期していたのか、搾取の魔人は樹木を鎧のように身にまとう。ターハの棍棒を受けるが踏みとどまる。
同じようにラバサルの石斧を防ぐ……はずだった。
ラバサルが渾身の力を込めて薙ぎ払った石斧によって樹木はおろか、搾取の魔人の胴体までも切り裂いた。
血ではなく、何か濁った液体が滴り落ちていた。
「お、前。その掟は……」
「そうだ。運が悪かったな。わしの石斧の掟は樹木を切る掟。戦いの役に立つことなんざ滅多にねえが、体まで樹でできてるおめえには効いたみてえだな」
蟻の顔をおそらくは怒りの表情で歪ませた搾取の魔人はどさりと地面に投げ出された。
搾取の魔人は文字通り真っ二つにされており、人間なら間違いなく致命傷だ。
しかし相手は魔人。人の道理など通じるはずもない。その証拠に魔人は上半身だけなっても動きを止めていない。
とどめを刺すためにミミエル、ターハ、ラバサルがお互いの攻撃を邪魔しないように接近し、シャルラが矢をつがえる。
だが。
魔人の生命力は予想以上だった。
「お、れの、おれのおおおおおお!」
叫びと共に樹木が急成長するように洞窟内に根を張り巡らせる。しかも、上半身からではなく、下半身だった場所から。
予想外の攻撃に虚を突かれ。全員が下がり、エタも地面に身を投げ出して回避する。入り口付近で脱出を試みている元ハマームの部下たちの中にはよけきれずに串刺しにされたものもいた。
エタに続いて携帯粘土板を操作したのはミミエルだ。灰の巨人を抜けた彼女は愛用の槌を小枝のように振り回している。
明らかに動きが良くなっている。
それを見ていた灰の巨人の冒険者たちは我先にと灰の巨人を抜け始めた。
「お、お前らああああ! 俺のギルドを抜けるんじゃねえええええ!」
自分の名前さえ忘れても、自分がギルド長だったことは覚えているらしい。魔人、いや、搾取の魔人としての特性だろうか。自分が搾取するための組織や部下は覚えているのかもしれない。
だからこそ、その搾取の連鎖を断ち切らなければならない。
「冒険者憲章によると、ギルドへの参加は冒険者の自由意志によるものとされる。脱退も同様に自由である!」
灰の巨人の現状を鑑みれば形ばかりの規則でしかないが、その規則が消えてなくなるわけではない。搾取の魔人にギルドからの脱退を阻むことはできない。
次々と脱退したハマームの元部下たちは息も絶え絶えといった様子だったが、命に別状はなさそうだった。
もしかすると、ハマームとの付き合いが長かったり、ハマームを信頼していると搾取の魔人の効果を受けやすいのかもしれない。
重圧から解放されたミミエルが黒曜石のナイフを顔面に投擲する。それを腕で受け止めるが、今度はシャルラの矢がみぞおちに突き刺さり、うめき声をあげた。
明らかに弱体化している。
隙を見せた魔人にターハとラバサルが振り回される樹の蔓をかいくぐり肉薄した。
それを予期していたのか、搾取の魔人は樹木を鎧のように身にまとう。ターハの棍棒を受けるが踏みとどまる。
同じようにラバサルの石斧を防ぐ……はずだった。
ラバサルが渾身の力を込めて薙ぎ払った石斧によって樹木はおろか、搾取の魔人の胴体までも切り裂いた。
血ではなく、何か濁った液体が滴り落ちていた。
「お、前。その掟は……」
「そうだ。運が悪かったな。わしの石斧の掟は樹木を切る掟。戦いの役に立つことなんざ滅多にねえが、体まで樹でできてるおめえには効いたみてえだな」
蟻の顔をおそらくは怒りの表情で歪ませた搾取の魔人はどさりと地面に投げ出された。
搾取の魔人は文字通り真っ二つにされており、人間なら間違いなく致命傷だ。
しかし相手は魔人。人の道理など通じるはずもない。その証拠に魔人は上半身だけなっても動きを止めていない。
とどめを刺すためにミミエル、ターハ、ラバサルがお互いの攻撃を邪魔しないように接近し、シャルラが矢をつがえる。
だが。
魔人の生命力は予想以上だった。
「お、れの、おれのおおおおおお!」
叫びと共に樹木が急成長するように洞窟内に根を張り巡らせる。しかも、上半身からではなく、下半身だった場所から。
予想外の攻撃に虚を突かれ。全員が下がり、エタも地面に身を投げ出して回避する。入り口付近で脱出を試みている元ハマームの部下たちの中にはよけきれずに串刺しにされたものもいた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ある平民生徒のお話
よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。
伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。
それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる