迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
63 / 302
第一章 迷宮へと挑む

第四十八話 掟破り

しおりを挟む
 今までの知識と経験、そのすべてを活用して現状を分析、把握に努める。
 まず魔人とは何か。
 一般的には迷宮に選ばれた人間のことを指し、人ならざる力を発揮する。もちろん実際に見たのは初めてだ。そもそも最近までは実在さえ疑っていた。
 なら何故迷宮は他者に力を与えるのだろうか。迷宮は掟の具現化であり、一種の生命体であるとされるため、生物のように成長しようとしているはず。
 その一助として力を与え、同時に迷宮の意のままに動く人間を必要としているのではないか。
(ん? 今何か……?)
 エタの思考の端を閃きが掠めた。
 しかしまだ足りない。では、ハマームは何を与えられたのか。姿形は樹木、蟻、そして何かよくわからない丸い板。
 つまり丸い板以外この迷宮に存在するものだ。
(ハマームは迷宮に力を与えられている。そして迷宮の力の根源は掟。なら、ハマームにも迷宮と同じ掟が与えられている?)
 魔人の戦いぶりを見るとどうもハマームが人間だったころに持っていた掟は使っていない。いや、おそらく使えない。
(なら、まだらの森の掟を解き明かせば、その能力と弱点もわかるはず。いや、それだけじゃない。多分、ハマームだけがこの迷宮の掟に適応したんだ)
 考えてみればおかしい。ここにいるほかの人間を無視してハマームだけに迷宮が話しかけたのは理由があるはずだとエタは推察した。
 このまだらの森の構造。形ではなく、魔物や生き物がどのように扱われているか。それがこの迷宮の掟にもなっているはず。
 それに、何かハマームに近いものはあるだろうか。
 仲間たちはまだ奮戦している。しかし戦況は芳しくない。魔人の攻撃はより激しくなっているが、灰の巨人の冒険者たちはエタと同様に力が入らないらしく、全く戦列に加わる様子がない。
(僕、ミミエル。そしてあの人たち。その共通点、そうだ、全員灰の巨人に所属していることだ)
 抵抗感からか、あるいは裏切っている後ろめたさからか、無意識的にエタ自身とミミエルを灰の巨人の一員ではないと思い込んでいた。
(つまりハマームにとっての味方から力を奪う。そういう能力? それにふさわしい言葉は何?)
 不意に思い出したのはまだらの森に到着して初めて会話した老人。あの時、彼はこう言っていた。
『まあな。油断してあっさり死んだ奴なんか珍しくない。わしがここまで生き延びたのは運が良かっただけだ。わしらは搾取される側なんだよ』
 ついに答えを掴んだエタは叫んだ。
「この迷宮の掟は、搾取!」
 洞窟内の全員がわずかにエタを見る。ただ、魔人だけは驚いているかのようにエタを凝視していた。
「大白蟻が植物を、大黒蟻が大白蟻を、上位の者が下位の者から奪い続ける。それがこの迷宮の掟の構造。そしてハマームは自分の部下たちを使い捨てにすることで利益を得ている。搾取するものがなくなることを恐れたハマームと、攻略されることを恐れた迷宮が同調した。それが魔人として選ばれた理由。つまり!」
 一度言葉を切る。
 息が続かないほど体が重くなっていた。だが、これだけは伝えなくてはならない。朗々とした声で宣言した。
「ギルドの構成員でなくなれば搾取の対象にはならない!」
 携帯粘土板を操作し、灰の巨人を脱退する。
 するとエタの体は軽くなり、息も楽になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...