迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
57 / 293
第一章 迷宮へと挑む

第四十三話 終着

しおりを挟む
 勝った。
 そう確信したエタは力を抜こうとして。
「まだ終わってないわよ!」
 ミミエルの警告に跳ねるように飛びのいた。
 女王蟻の頭は完全につぶれていたが、その程度で蟻は死なない。
 朦朧としながらもエタに突っ込んできた。しかしさすがに動きが鈍い。
 態勢を立て直したミミエルがぼろぼろの顔面を切りつける。それでもひるむ様子さえなく、エタを追い続けてくる。
「いい加減にくたばれよ!」
 追いついたターハが棍棒を振るい、女王蟻の左後ろ足が奇妙な方向に折れ曲がる。さらにラバサルが石斧で右後ろ脚を半ばまで切り落とした。
 動きが鈍った女王蟻の胸元をミミエルがナイフで抉る。全力で突き上げたナイフが胸の奥深くに突き刺さり、ようやく女王蟻は動きを止めた。それと同時に大白蟻の死体も糸が切れたように動きを止めた。
 ターハが歓声を上げ、ラバサルが安堵のため息をつく。ただ、ミミエルは沈痛な表情で呟いた。
「……ごめんね」
 それを聞いていたのはエタだけだっただろう。少しだけエタにも気持ちは分かった。この女王蟻は卵を守りたかっただけなのだろう。自らの命を犠牲にしても。子供の体を貪っても。だが、その行為に人間の道理を持ち出しても意味はない。
 そして、エタは。
「う、ぐ」
 死体を眺めることさえ厳しいエタは緊張と集中で持ちこたえていたが、せり上がってきた気持ち悪さが限界に達し、地面にぶちまけた。
 ミミエルが呆れたように背中をさする。
「しまらないわねえ。へたれにしてはよくやったほうかしら」
「う……ありがとう」
 口元を拭い、仲間たちの様子を観察する。
「みなさん、けがはありませんか?」
「ないわよ」
 ミミエルの返答は強がりが混じっている。そこかしこがボロボロだった。
「わしは無事だが盾がおしゃかになったな」
「あたしも同じ感じだ」
 ラバサルとターハも細かい傷はあるものの、重傷ではなかった。ひとまずほっとした。
「で? 迷宮の核はどこにあるのよ」
 洞窟内を見回してもそれらしきものはない。もう一度同じことをしろと言われれば絶対に無理だ。ここに核がなければもう諦めるしかない。
「おそらく、この下です。卵の下にあるはずです」
 ミミエルが地面に耳を当て、こんこんと地面を打つ。音の反響を探っているのだろう。
「確かに下に空洞かある気配があるわね。それにここだけかなり地面が固いわ」
「なら、僕が掘ります。みんなは休んでいてください」
 穴掘りの掟を持つ踏み鋤を出現させ、しばらく掘り進む。以前のように外からここまで掘り進むのは距離的に難しかっただろう。
 エタの腕半分くらい掘ると、空洞が見つかった。
 それを見た三人は休憩を打ち切り、はやるように穴を広げる。人一人通れるようになるまで時間はかからなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...