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第一章 迷宮へと挑む
第四十三話 終着
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勝った。
そう確信したエタは力を抜こうとして。
「まだ終わってないわよ!」
ミミエルの警告に跳ねるように飛びのいた。
女王蟻の頭は完全につぶれていたが、その程度で蟻は死なない。
朦朧としながらもエタに突っ込んできた。しかしさすがに動きが鈍い。
態勢を立て直したミミエルがぼろぼろの顔面を切りつける。それでもひるむ様子さえなく、エタを追い続けてくる。
「いい加減にくたばれよ!」
追いついたターハが棍棒を振るい、女王蟻の左後ろ足が奇妙な方向に折れ曲がる。さらにラバサルが石斧で右後ろ脚を半ばまで切り落とした。
動きが鈍った女王蟻の胸元をミミエルがナイフで抉る。全力で突き上げたナイフが胸の奥深くに突き刺さり、ようやく女王蟻は動きを止めた。それと同時に大白蟻の死体も糸が切れたように動きを止めた。
ターハが歓声を上げ、ラバサルが安堵のため息をつく。ただ、ミミエルは沈痛な表情で呟いた。
「……ごめんね」
それを聞いていたのはエタだけだっただろう。少しだけエタにも気持ちは分かった。この女王蟻は卵を守りたかっただけなのだろう。自らの命を犠牲にしても。子供の体を貪っても。だが、その行為に人間の道理を持ち出しても意味はない。
そして、エタは。
「う、ぐ」
死体を眺めることさえ厳しいエタは緊張と集中で持ちこたえていたが、せり上がってきた気持ち悪さが限界に達し、地面にぶちまけた。
ミミエルが呆れたように背中をさする。
「しまらないわねえ。へたれにしてはよくやったほうかしら」
「う……ありがとう」
口元を拭い、仲間たちの様子を観察する。
「みなさん、けがはありませんか?」
「ないわよ」
ミミエルの返答は強がりが混じっている。そこかしこがボロボロだった。
「わしは無事だが盾がおしゃかになったな」
「あたしも同じ感じだ」
ラバサルとターハも細かい傷はあるものの、重傷ではなかった。ひとまずほっとした。
「で? 迷宮の核はどこにあるのよ」
洞窟内を見回してもそれらしきものはない。もう一度同じことをしろと言われれば絶対に無理だ。ここに核がなければもう諦めるしかない。
「おそらく、この下です。卵の下にあるはずです」
ミミエルが地面に耳を当て、こんこんと地面を打つ。音の反響を探っているのだろう。
「確かに下に空洞かある気配があるわね。それにここだけかなり地面が固いわ」
「なら、僕が掘ります。みんなは休んでいてください」
穴掘りの掟を持つ踏み鋤を出現させ、しばらく掘り進む。以前のように外からここまで掘り進むのは距離的に難しかっただろう。
エタの腕半分くらい掘ると、空洞が見つかった。
それを見た三人は休憩を打ち切り、はやるように穴を広げる。人一人通れるようになるまで時間はかからなかった。
そう確信したエタは力を抜こうとして。
「まだ終わってないわよ!」
ミミエルの警告に跳ねるように飛びのいた。
女王蟻の頭は完全につぶれていたが、その程度で蟻は死なない。
朦朧としながらもエタに突っ込んできた。しかしさすがに動きが鈍い。
態勢を立て直したミミエルがぼろぼろの顔面を切りつける。それでもひるむ様子さえなく、エタを追い続けてくる。
「いい加減にくたばれよ!」
追いついたターハが棍棒を振るい、女王蟻の左後ろ足が奇妙な方向に折れ曲がる。さらにラバサルが石斧で右後ろ脚を半ばまで切り落とした。
動きが鈍った女王蟻の胸元をミミエルがナイフで抉る。全力で突き上げたナイフが胸の奥深くに突き刺さり、ようやく女王蟻は動きを止めた。それと同時に大白蟻の死体も糸が切れたように動きを止めた。
ターハが歓声を上げ、ラバサルが安堵のため息をつく。ただ、ミミエルは沈痛な表情で呟いた。
「……ごめんね」
それを聞いていたのはエタだけだっただろう。少しだけエタにも気持ちは分かった。この女王蟻は卵を守りたかっただけなのだろう。自らの命を犠牲にしても。子供の体を貪っても。だが、その行為に人間の道理を持ち出しても意味はない。
そして、エタは。
「う、ぐ」
死体を眺めることさえ厳しいエタは緊張と集中で持ちこたえていたが、せり上がってきた気持ち悪さが限界に達し、地面にぶちまけた。
ミミエルが呆れたように背中をさする。
「しまらないわねえ。へたれにしてはよくやったほうかしら」
「う……ありがとう」
口元を拭い、仲間たちの様子を観察する。
「みなさん、けがはありませんか?」
「ないわよ」
ミミエルの返答は強がりが混じっている。そこかしこがボロボロだった。
「わしは無事だが盾がおしゃかになったな」
「あたしも同じ感じだ」
ラバサルとターハも細かい傷はあるものの、重傷ではなかった。ひとまずほっとした。
「で? 迷宮の核はどこにあるのよ」
洞窟内を見回してもそれらしきものはない。もう一度同じことをしろと言われれば絶対に無理だ。ここに核がなければもう諦めるしかない。
「おそらく、この下です。卵の下にあるはずです」
ミミエルが地面に耳を当て、こんこんと地面を打つ。音の反響を探っているのだろう。
「確かに下に空洞かある気配があるわね。それにここだけかなり地面が固いわ」
「なら、僕が掘ります。みんなは休んでいてください」
穴掘りの掟を持つ踏み鋤を出現させ、しばらく掘り進む。以前のように外からここまで掘り進むのは距離的に難しかっただろう。
エタの腕半分くらい掘ると、空洞が見つかった。
それを見た三人は休憩を打ち切り、はやるように穴を広げる。人一人通れるようになるまで時間はかからなかった。
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