40 / 293
第一章 迷宮へと挑む
第三十話 優しさにあふれていて
しおりを挟む
「そうしてあたしは母と二人で暮らしてた。でも、転機があったの。ある冒険者から母を第二婦人として迎えたいって言われたの」
「第二婦人を迎えることが許可されたってことは相当すごい冒険者だったんだね」
ウルクは原則として一夫一妻だが、前述のように理由があって聖娼を第二婦人として迎えたり、王族や偉業をなした人物は多数の妻や夫を迎え入れることがある。
「最高の階級は二級だそうよ。出会ったころには引退して商業を営んでいたけどね」
冒険者は一から十までの階級に分けられている。最高位の一級はウルクでもほとんどいない。二級でもごくわずかだったはずだ。
「それは、やっぱりイシュタル神殿の口利きもあったのかな」
「多分そうでしょうね。そうでなければ唐突すぎるもの。その冒険者に息子がいなかったことも関係しているんでしょうね」
様々な好意の結果としてミミエルと彼女の母は新たな家族を得た。しかしもともとの家族からしてみれば突然入り込んできた異物なのではないだろうか。そんな心配が顔に出ていたのだろうか。ミミエルの言葉は家族仲を説明するものだったが、予想とは違った。
「その冒険者の夫人も、その娘もとてもよくしてくれた。特に娘とはいつも一緒にいたわ。うん、あたしの一番の友達。一緒にイシュタル神殿に奉公したりもしたわね」
「つまり君は半分くらいお嬢様ってこと?」
「そうなるわね。意外だった?」
「いや……むしろ納得した」
普段の態度はともかく今こうして話しているミミエルは確かに育ちの良さを感じさせる。
しかしその反応はミミエルにとって不本意だったらしい。
「なんでよ。あたしそんな風に見える?」
「見えるっていうか……君、結構無理してそんな格好してない?」
「なあ!?」
図星だったらしい。そしてばれるとも思っていなかったらしい。ミミエルは口をパクパクさせていた。
ミミエルの服装はかなり扇情的で、態度も高圧的だ。一方で人に尽くすというか、情が深い面もある。どこかで無理をしていると考えるのは自然だろう。
「なんでそんなことしてるの?」
「あの子が……あたしが引き取られた家にいた女の子がね? 流行りのイシュタル信徒はこうだって言ってたまにくれるのよ」
いくら何でも従順すぎるのでは? そんなことを思ったが、家を出た後も連絡を取り合っているあたり仲は良好なのだろう。
「まあでも、引き取られた家でもいい人ばかりで良かったよ」
エタの何気ない一言に、今まで色彩鮮やかだったミミエルの表情は凍り付いた。
「ミミエル?」
「そうね。いい人ばっかりだった。一人を除けば」
エタは、話の核心に近づいている気配を感じ取っていた。
「第二婦人を迎えることが許可されたってことは相当すごい冒険者だったんだね」
ウルクは原則として一夫一妻だが、前述のように理由があって聖娼を第二婦人として迎えたり、王族や偉業をなした人物は多数の妻や夫を迎え入れることがある。
「最高の階級は二級だそうよ。出会ったころには引退して商業を営んでいたけどね」
冒険者は一から十までの階級に分けられている。最高位の一級はウルクでもほとんどいない。二級でもごくわずかだったはずだ。
「それは、やっぱりイシュタル神殿の口利きもあったのかな」
「多分そうでしょうね。そうでなければ唐突すぎるもの。その冒険者に息子がいなかったことも関係しているんでしょうね」
様々な好意の結果としてミミエルと彼女の母は新たな家族を得た。しかしもともとの家族からしてみれば突然入り込んできた異物なのではないだろうか。そんな心配が顔に出ていたのだろうか。ミミエルの言葉は家族仲を説明するものだったが、予想とは違った。
「その冒険者の夫人も、その娘もとてもよくしてくれた。特に娘とはいつも一緒にいたわ。うん、あたしの一番の友達。一緒にイシュタル神殿に奉公したりもしたわね」
「つまり君は半分くらいお嬢様ってこと?」
「そうなるわね。意外だった?」
「いや……むしろ納得した」
普段の態度はともかく今こうして話しているミミエルは確かに育ちの良さを感じさせる。
しかしその反応はミミエルにとって不本意だったらしい。
「なんでよ。あたしそんな風に見える?」
「見えるっていうか……君、結構無理してそんな格好してない?」
「なあ!?」
図星だったらしい。そしてばれるとも思っていなかったらしい。ミミエルは口をパクパクさせていた。
ミミエルの服装はかなり扇情的で、態度も高圧的だ。一方で人に尽くすというか、情が深い面もある。どこかで無理をしていると考えるのは自然だろう。
「なんでそんなことしてるの?」
「あの子が……あたしが引き取られた家にいた女の子がね? 流行りのイシュタル信徒はこうだって言ってたまにくれるのよ」
いくら何でも従順すぎるのでは? そんなことを思ったが、家を出た後も連絡を取り合っているあたり仲は良好なのだろう。
「まあでも、引き取られた家でもいい人ばかりで良かったよ」
エタの何気ない一言に、今まで色彩鮮やかだったミミエルの表情は凍り付いた。
「ミミエル?」
「そうね。いい人ばっかりだった。一人を除けば」
エタは、話の核心に近づいている気配を感じ取っていた。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ある平民生徒のお話
よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。
伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。
それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる