30 / 293
第一章 迷宮へと挑む
第二十二話 森のオオカミ
しおりを挟む
この討伐は主に三つのグループに分けられた。
灰の巨人を主力とする部隊とニスキツルを主力とする部隊。さらに蟻の死体を処理する部隊。ただし、ニスキツルには監視らしき灰の巨人のメンバーも同行していた。
エタは大別すると死体を処理する部隊だ。
当初の仕事は討伐した大白蟻の数を数える……要するに雑用である。戦力になるわけがないので妥当と言えば妥当な配置だった。
正直に言えば死骸を見るのも少しつらいが、大白蟻にせよ、大黒蟻にせよほとんどの死骸が原型をとどめないほど破壊されているので生き物には見えないためなんとか直視できていた。
ちなみに蟻が徹底的に破壊されるのは別に憎まれているからではない。単純にしぶとすぎるのだ。
何しろ手足をもがれても、腹を潰されても平気で這いまわる。頭と胸、腹を潰してようやく死んだと確信できるのだ。
しかし中にはきれいに原型をとどめている死骸があった。
ミミエルに殺害された巨大蟻である。それらは的確に急所である喉と胸の間をくりぬいたように破壊されていた。
緑の森を駆け抜ける巨大な白い蟻。それらは普段土中、あるいは樹木のうろの中に身を潜めていることも多い。
しかし今は虫よけの香草をいぶした煙によって追い立てられていた。混乱した蟻たちは本能的に三匹で固まりながら逃走を続けていた。そのうちの一匹に獣のごとく頭上から降り注ぐ影があった。
ミミエルである。
骨を砕く掟を持った大木槌を飛び降りた勢いのままに振るい、大白蟻の首あたりを叩き潰す。その行為が残りの二匹の敵意を引いたのか反転してミミエルに襲い掛かる。
すぐさま大木槌を携帯粘土板にしまい、外套に仕込んである黒曜石のナイフを二つ、目にも見えぬほどの速さで投擲する。あやまたず蟻の眉間に突き刺さり、二匹の大白蟻は苦しむように身をよじった。
あのナイフは掟ではなく、普通の武器だが彼女が使うと恐ろしい武器に見えていた。
巨大蟻たちは負傷しても気にせず行動しているように見えるが、眉間、または触角を攻撃するとなぜか苦しむ。灰の巨人に長く所属する冒険者は経験則として知っていた。
だから手慣れた冒険者はまず触覚や眉間を攻撃する。無論、そこを正確に攻撃できるのはかなりの熟練が必要である……はずだった。
身をよじっている大白蟻に再び大木槌の一撃で後頭部を打った。しかしまだ息があった大白蟻の傷口に刀身の長い黒曜石のナイフを突き刺し、確実にその命を奪った。
残りの一匹が再びこちらに突進してくるのを見て取ると、今度は銅の槌を携帯粘土板から取り出し、下から地面もろとも掬い上げるような一撃をお見舞いし、喉から胸のあたりを抉られた大白蟻は一撃で絶命した。
灰の巨人を主力とする部隊とニスキツルを主力とする部隊。さらに蟻の死体を処理する部隊。ただし、ニスキツルには監視らしき灰の巨人のメンバーも同行していた。
エタは大別すると死体を処理する部隊だ。
当初の仕事は討伐した大白蟻の数を数える……要するに雑用である。戦力になるわけがないので妥当と言えば妥当な配置だった。
正直に言えば死骸を見るのも少しつらいが、大白蟻にせよ、大黒蟻にせよほとんどの死骸が原型をとどめないほど破壊されているので生き物には見えないためなんとか直視できていた。
ちなみに蟻が徹底的に破壊されるのは別に憎まれているからではない。単純にしぶとすぎるのだ。
何しろ手足をもがれても、腹を潰されても平気で這いまわる。頭と胸、腹を潰してようやく死んだと確信できるのだ。
しかし中にはきれいに原型をとどめている死骸があった。
ミミエルに殺害された巨大蟻である。それらは的確に急所である喉と胸の間をくりぬいたように破壊されていた。
緑の森を駆け抜ける巨大な白い蟻。それらは普段土中、あるいは樹木のうろの中に身を潜めていることも多い。
しかし今は虫よけの香草をいぶした煙によって追い立てられていた。混乱した蟻たちは本能的に三匹で固まりながら逃走を続けていた。そのうちの一匹に獣のごとく頭上から降り注ぐ影があった。
ミミエルである。
骨を砕く掟を持った大木槌を飛び降りた勢いのままに振るい、大白蟻の首あたりを叩き潰す。その行為が残りの二匹の敵意を引いたのか反転してミミエルに襲い掛かる。
すぐさま大木槌を携帯粘土板にしまい、外套に仕込んである黒曜石のナイフを二つ、目にも見えぬほどの速さで投擲する。あやまたず蟻の眉間に突き刺さり、二匹の大白蟻は苦しむように身をよじった。
あのナイフは掟ではなく、普通の武器だが彼女が使うと恐ろしい武器に見えていた。
巨大蟻たちは負傷しても気にせず行動しているように見えるが、眉間、または触角を攻撃するとなぜか苦しむ。灰の巨人に長く所属する冒険者は経験則として知っていた。
だから手慣れた冒険者はまず触覚や眉間を攻撃する。無論、そこを正確に攻撃できるのはかなりの熟練が必要である……はずだった。
身をよじっている大白蟻に再び大木槌の一撃で後頭部を打った。しかしまだ息があった大白蟻の傷口に刀身の長い黒曜石のナイフを突き刺し、確実にその命を奪った。
残りの一匹が再びこちらに突進してくるのを見て取ると、今度は銅の槌を携帯粘土板から取り出し、下から地面もろとも掬い上げるような一撃をお見舞いし、喉から胸のあたりを抉られた大白蟻は一撃で絶命した。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。




主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる