迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
26 / 266
第一章 迷宮へと挑む

第十九話 くだらない策謀

しおりを挟む
 ラバサルが退室した後、部下の一人がハマームに質問した。
「ギルド長。今の話、本当ですかね?」
「わからん。ウルクにいる奴らとも連絡を取ってみるか」
 携帯粘土板を利用し、灰の巨人に所属する冒険者や知り合いのギルド長にさりげなく尋ねても大白蟻の内臓が高値で売れるという情報はなかった。偽情報なのか、あるいはラバサルが勘違いしているだけか。
 そうハマームが疑念を抱いたとき、再び来客があった。
 訪ねてきたのはターハだった。

「いやあ! 派手に遊んでたら盛大にすっちまってよう! ちょっくら金が入用なんだ! 少しの間でいいからここで働かせてくれないかい?」
 続けての来客に疑念を抱いたハマームがまたしても応対していた。
「護衛か、伐採かどっちがいい?」
「あたしゃ護衛がありがたいねえ。ちまちました作業は苦手だしね」
「ああ。とりあえず日雇いならこれぐらいだな」
 ざっくりとした報酬を粘土板に表示され、ターハはそれを見てから頷いた。
「いいよ。まあ、仕事があるだけましさ。ああでもひとついいかい?」
「ん? なんだ?」
「あたしが倒した魔物は全部あたしの取り分ってことでいいかい?」
 ハマームの眉がぴくりと動く。ターハの本当の目的が働き口ではなく大白蟻ではないかと勘繰ったのだ。
「……倒した分だけなら、まあ、いいぞ」
「おう。ありがとよ」
 ターハが退出すると、やや興奮した面持ちの部下がすぐに声をかけてきた。
「ギルド長。こいつは、がせじゃないかもしれませんね。今の奴も隠していますが大白蟻を狙っている素振りでした」
「そうだな。大白蟻は弱い。その気になればいくらでも狩れる。いや、俺たちだけじゃなく他の連中も呼べば数日あれば大量に内臓を懐に納められるはずだ」
「ええ。しかし、急にそんなことをすれば妙な疑いを招きますよ」
「それもそうだな。何か理由がいるな。……ああ、そういえば、なんつったっけな。最近入ったガキの名前……」
「確か、エタリッツとか言いましたね」
「ああ、そうだ。そいつをここに呼んで来い」
 妙案を思い浮かんだハマームは悪童のような笑みを浮かべていた。

 ギルド長に突然呼ばれたエタは緊張していた。
(もしも計画がばれていればよくて拷問。悪ければ追放される)
 自分の身の安全よりもこの迷宮を踏破できないことのほうがエタにとっては致命的だった。
 そして面と向かって相対することになったギルド長はやはり存在感があった。
 そんなハマームはなぜか懐にしまっていたラピスラズリを放り投げた。
「拾え」
 訳の分からない命令に従い、ラピスラズリを拾おうとすると、突然衝撃が襲った。
 ハマームがエタの腹を思いっきり蹴りつけたのだ。
(ああ、そういうこと)
 心の中で作戦がうまくいっていることを理解し、安堵した。ハマームはエタの内心など頓着せず痛みに襲われ、うずくまっているエタの髪を掴み、持ち上げた。
「あーあー可哀そうに。大白蟻に襲われちまったみてえだな。治療が必要だな。いいな? お前は大白蟻に襲われた。ほら、ここにそう書いてある。承認しろ」
 白々しく用意した言葉をしゃべりながら、ハマームはエタに粘土板を押し付けた。エタはハマームが右手に持っている粘土板に書かれている文字をろくに読まず、指を押し当てて承認した。
 つまりこういう筋書きだ。
 ギルドの一員が大白蟻に襲われたので大白蟻を討伐する必要がある。そういう名目を立てるためにエタを傷つけたのだ。
「ようしご苦労。もう行って……ああ待て。治療代は払ったぞ。お前の携帯粘土板で承認しろ」
 冒険中に負傷した場合ギルドが治療代の一部を負担する義務がある。普段のハマームなら難癖をつけて支払わなかっただろうが、今は大白蟻に襲われたという証拠を残す必要があったのだろう。
 息も絶え絶えだったエタは返事すらできずにハマームに従った。
 それきりハマームはエタを無視してどこかに連絡し始めた。ゆえにエタの表情を見逃していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...