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第一章 迷宮へと挑む
第十九話 くだらない策謀
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ラバサルが退室した後、部下の一人がハマームに質問した。
「ギルド長。今の話、本当ですかね?」
「わからん。ウルクにいる奴らとも連絡を取ってみるか」
携帯粘土板を利用し、灰の巨人に所属する冒険者や知り合いのギルド長にさりげなく尋ねても大白蟻の内臓が高値で売れるという情報はなかった。偽情報なのか、あるいはラバサルが勘違いしているだけか。
そうハマームが疑念を抱いたとき、再び来客があった。
訪ねてきたのはターハだった。
「いやあ! 派手に遊んでたら盛大にすっちまってよう! ちょっくら金が入用なんだ! 少しの間でいいからここで働かせてくれないかい?」
続けての来客に疑念を抱いたハマームがまたしても応対していた。
「護衛か、伐採かどっちがいい?」
「あたしゃ護衛がありがたいねえ。ちまちました作業は苦手だしね」
「ああ。とりあえず日雇いならこれぐらいだな」
ざっくりとした報酬を粘土板に表示され、ターハはそれを見てから頷いた。
「いいよ。まあ、仕事があるだけましさ。ああでもひとついいかい?」
「ん? なんだ?」
「あたしが倒した魔物は全部あたしの取り分ってことでいいかい?」
ハマームの眉がぴくりと動く。ターハの本当の目的が働き口ではなく大白蟻ではないかと勘繰ったのだ。
「……倒した分だけなら、まあ、いいぞ」
「おう。ありがとよ」
ターハが退出すると、やや興奮した面持ちの部下がすぐに声をかけてきた。
「ギルド長。こいつは、がせじゃないかもしれませんね。今の奴も隠していますが大白蟻を狙っている素振りでした」
「そうだな。大白蟻は弱い。その気になればいくらでも狩れる。いや、俺たちだけじゃなく他の連中も呼べば数日あれば大量に内臓を懐に納められるはずだ」
「ええ。しかし、急にそんなことをすれば妙な疑いを招きますよ」
「それもそうだな。何か理由がいるな。……ああ、そういえば、なんつったっけな。最近入ったガキの名前……」
「確か、エタリッツとか言いましたね」
「ああ、そうだ。そいつをここに呼んで来い」
妙案を思い浮かんだハマームは悪童のような笑みを浮かべていた。
ギルド長に突然呼ばれたエタは緊張していた。
(もしも計画がばれていればよくて拷問。悪ければ追放される)
自分の身の安全よりもこの迷宮を踏破できないことのほうがエタにとっては致命的だった。
そして面と向かって相対することになったギルド長はやはり存在感があった。
そんなハマームはなぜか懐にしまっていたラピスラズリを放り投げた。
「拾え」
訳の分からない命令に従い、ラピスラズリを拾おうとすると、突然衝撃が襲った。
ハマームがエタの腹を思いっきり蹴りつけたのだ。
(ああ、そういうこと)
心の中で作戦がうまくいっていることを理解し、安堵した。ハマームはエタの内心など頓着せず痛みに襲われ、うずくまっているエタの髪を掴み、持ち上げた。
「あーあー可哀そうに。大白蟻に襲われちまったみてえだな。治療が必要だな。いいな? お前は大白蟻に襲われた。ほら、ここにそう書いてある。承認しろ」
白々しく用意した言葉をしゃべりながら、ハマームはエタに粘土板を押し付けた。エタはハマームが右手に持っている粘土板に書かれている文字をろくに読まず、指を押し当てて承認した。
つまりこういう筋書きだ。
ギルドの一員が大白蟻に襲われたので大白蟻を討伐する必要がある。そういう名目を立てるためにエタを傷つけたのだ。
「ようしご苦労。もう行って……ああ待て。治療代は払ったぞ。お前の携帯粘土板で承認しろ」
冒険中に負傷した場合ギルドが治療代の一部を負担する義務がある。普段のハマームなら難癖をつけて支払わなかっただろうが、今は大白蟻に襲われたという証拠を残す必要があったのだろう。
息も絶え絶えだったエタは返事すらできずにハマームに従った。
それきりハマームはエタを無視してどこかに連絡し始めた。ゆえにエタの表情を見逃していた。
「ギルド長。今の話、本当ですかね?」
「わからん。ウルクにいる奴らとも連絡を取ってみるか」
携帯粘土板を利用し、灰の巨人に所属する冒険者や知り合いのギルド長にさりげなく尋ねても大白蟻の内臓が高値で売れるという情報はなかった。偽情報なのか、あるいはラバサルが勘違いしているだけか。
そうハマームが疑念を抱いたとき、再び来客があった。
訪ねてきたのはターハだった。
「いやあ! 派手に遊んでたら盛大にすっちまってよう! ちょっくら金が入用なんだ! 少しの間でいいからここで働かせてくれないかい?」
続けての来客に疑念を抱いたハマームがまたしても応対していた。
「護衛か、伐採かどっちがいい?」
「あたしゃ護衛がありがたいねえ。ちまちました作業は苦手だしね」
「ああ。とりあえず日雇いならこれぐらいだな」
ざっくりとした報酬を粘土板に表示され、ターハはそれを見てから頷いた。
「いいよ。まあ、仕事があるだけましさ。ああでもひとついいかい?」
「ん? なんだ?」
「あたしが倒した魔物は全部あたしの取り分ってことでいいかい?」
ハマームの眉がぴくりと動く。ターハの本当の目的が働き口ではなく大白蟻ではないかと勘繰ったのだ。
「……倒した分だけなら、まあ、いいぞ」
「おう。ありがとよ」
ターハが退出すると、やや興奮した面持ちの部下がすぐに声をかけてきた。
「ギルド長。こいつは、がせじゃないかもしれませんね。今の奴も隠していますが大白蟻を狙っている素振りでした」
「そうだな。大白蟻は弱い。その気になればいくらでも狩れる。いや、俺たちだけじゃなく他の連中も呼べば数日あれば大量に内臓を懐に納められるはずだ」
「ええ。しかし、急にそんなことをすれば妙な疑いを招きますよ」
「それもそうだな。何か理由がいるな。……ああ、そういえば、なんつったっけな。最近入ったガキの名前……」
「確か、エタリッツとか言いましたね」
「ああ、そうだ。そいつをここに呼んで来い」
妙案を思い浮かんだハマームは悪童のような笑みを浮かべていた。
ギルド長に突然呼ばれたエタは緊張していた。
(もしも計画がばれていればよくて拷問。悪ければ追放される)
自分の身の安全よりもこの迷宮を踏破できないことのほうがエタにとっては致命的だった。
そして面と向かって相対することになったギルド長はやはり存在感があった。
そんなハマームはなぜか懐にしまっていたラピスラズリを放り投げた。
「拾え」
訳の分からない命令に従い、ラピスラズリを拾おうとすると、突然衝撃が襲った。
ハマームがエタの腹を思いっきり蹴りつけたのだ。
(ああ、そういうこと)
心の中で作戦がうまくいっていることを理解し、安堵した。ハマームはエタの内心など頓着せず痛みに襲われ、うずくまっているエタの髪を掴み、持ち上げた。
「あーあー可哀そうに。大白蟻に襲われちまったみてえだな。治療が必要だな。いいな? お前は大白蟻に襲われた。ほら、ここにそう書いてある。承認しろ」
白々しく用意した言葉をしゃべりながら、ハマームはエタに粘土板を押し付けた。エタはハマームが右手に持っている粘土板に書かれている文字をろくに読まず、指を押し当てて承認した。
つまりこういう筋書きだ。
ギルドの一員が大白蟻に襲われたので大白蟻を討伐する必要がある。そういう名目を立てるためにエタを傷つけたのだ。
「ようしご苦労。もう行って……ああ待て。治療代は払ったぞ。お前の携帯粘土板で承認しろ」
冒険中に負傷した場合ギルドが治療代の一部を負担する義務がある。普段のハマームなら難癖をつけて支払わなかっただろうが、今は大白蟻に襲われたという証拠を残す必要があったのだろう。
息も絶え絶えだったエタは返事すらできずにハマームに従った。
それきりハマームはエタを無視してどこかに連絡し始めた。ゆえにエタの表情を見逃していた。
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