7 / 304
第一章 迷宮へと挑む
第五話 希望の光
しおりを挟む
エタとラバサルは初心者向け迷宮に到着したが、エタはそのまま洞窟の入り口を通り過ぎた。
「おい。どこへ行く?」
「……すぐにつきます」
入り口から歩いて四十歩ほどだろうか。小さな穴が開いていた。
「何だこりゃ?」
「穴を掘る掟で掘った穴です。迷宮の一番奥につながっています」
「はあ!? おめえ、まさか地上から迷宮の核につながる出入口を作ったのか?」
「はい……位置は学院にあった地図で確認しました」
エタは恥からかうつむき、真っ赤になっていた。
「わかっています。こんなことをするべきじゃなかったって。ちゃんと正面から入らなきゃ意味がないんだって……でも、それでも……」
いつまでも何も言ってこないラバサルを不思議に思い、顔をあげると、ラバサルは何とも奇妙な、呆れるような、愉快なような表情をしていた。
「これだから頭のいい奴ってのは……」
「ラバサルさん?」
「あのなあ。おめえが強くなりたいのは何のためだ?」
「え。それは迷宮を攻略するためですけど……」
「そうだ。間違えるな。強くなるために迷宮を攻略するんじゃねえ。迷宮を攻略するために強くなるんだ。つまり、弱いまま迷宮を攻略できるんなら弱くたっていいだろうが」
「それはそうですけど……こんな方法で攻略できる未踏破迷宮なんてそうそうありませんよ」
「かもな。だから探せ。頭を使って踏破できる迷宮を探せ。わしも手伝ってやる」
「ラ、ラバサルさん!」
エタの瞳が太陽を反射しているように輝いた。ここ数日で初めて見た光だったのだろう。
「まったく……そんなつもりはなかったんだがな。おめえの熱意に負けたよ」
「ありがとうございます! 本当になんとお礼を言えば……」
「礼を言うにはまだ早い。何しろわしらには敵しかいないからな」
「どういう意味ですか?」
「おめえはおかしいと思わなかったのか? どんなに叫んでもギルドに入れねえってことに」
「それは僕が弱いからで……」
「それだけじゃねえんだよ。裏で商業ギルドが手を回してやがったんだ。コネやら伝手やら、金やら使ってな」
「な! そ、そんなの冒険者憲章にもギルド友好規約にも違反しているじゃないですか!」
「どうだかな。連中はルールをこねくり回すのが無駄に得意だ。何とかしてるんじゃねえか」
「そ、そんな。いくらなんでもそれは……」
「おめえが思っているよりもはるかにギルド……特に冒険者ギルドは腐敗している。気をつけろよ。組織ってのはな、腐れば腐るほど人を飲み込むもんだ。おめえは飲まれるなよ」
ラバサルは、今日は家に泊っていけと言い残すと自分の仕事に戻っていった。
ウルクの住居はさして裕福でなくとも中庭と塀があり、中庭から家に入れる構造になっている。そういう家々が隣り合っているせいで上から見ると迷路のように見える。特に、地方から始めてウルクに来たお上りさんなどはしょっちゅう道に迷っている。
しかし幼少のころからウルクでの都市生活に慣れ親しんだエタにとってはこの迷路こそが我が家と呼べる。
都市から出た農村などは、森や川、自然物が人の暮らしと野外を隔てているが、それはエタにとって落ち着かない暮らしだった。
入り口のすだれ (ウルクではドアよりもすだれで内と外を仕切るのが一般的) をかき分けて入ったラバサルの家はやはり、質素だった。多少の保存食と最低限の家具。ただなぜか、この地方では高価な杉の椅子が置いてあったが、それに触れるのは少し気が引けた。
それよりも、と学院から借りるだけ借りてきた書物粘土板を床に置いた。これは文字を大量に記録できる粘土板で、画面をなでると別の板面に移行できる。
ある意味学院の根幹をなす粘土板でもあった。
今回持ってきたのは迷宮の情報が記載されている粘土板。地図、出現する魔物、攻略に参加しているギルド、企業などが事細かに記載されている。
(この中から、僕が踏破できる迷宮を見つけ出す)
迷宮の形やあり方は迷宮が持つ掟に基づいており、千差万別だ。今日のような洞窟型のものもあれば、都市のようになっていたり、挙句の果てには巨大な動物になっている迷宮もあるという。
ならば、自分にしか弱点を見つけ出せない迷宮があってもおかしくないかもしれない。
粘土板を穴が開くほど見つめ続ける。気づけば日が傾いていた。
「もうこんな時間なんだ。さすがに何か食べたほうが……?」
家の外から何か騒がしい。いや、騒がしさが近づいてくる。
そして入り口に近づくと、いきなり大柄な女性が上がりこんできた。
「ここにエタってやつはいるかああ!!!!」
「おい。どこへ行く?」
「……すぐにつきます」
入り口から歩いて四十歩ほどだろうか。小さな穴が開いていた。
「何だこりゃ?」
「穴を掘る掟で掘った穴です。迷宮の一番奥につながっています」
「はあ!? おめえ、まさか地上から迷宮の核につながる出入口を作ったのか?」
「はい……位置は学院にあった地図で確認しました」
エタは恥からかうつむき、真っ赤になっていた。
「わかっています。こんなことをするべきじゃなかったって。ちゃんと正面から入らなきゃ意味がないんだって……でも、それでも……」
いつまでも何も言ってこないラバサルを不思議に思い、顔をあげると、ラバサルは何とも奇妙な、呆れるような、愉快なような表情をしていた。
「これだから頭のいい奴ってのは……」
「ラバサルさん?」
「あのなあ。おめえが強くなりたいのは何のためだ?」
「え。それは迷宮を攻略するためですけど……」
「そうだ。間違えるな。強くなるために迷宮を攻略するんじゃねえ。迷宮を攻略するために強くなるんだ。つまり、弱いまま迷宮を攻略できるんなら弱くたっていいだろうが」
「それはそうですけど……こんな方法で攻略できる未踏破迷宮なんてそうそうありませんよ」
「かもな。だから探せ。頭を使って踏破できる迷宮を探せ。わしも手伝ってやる」
「ラ、ラバサルさん!」
エタの瞳が太陽を反射しているように輝いた。ここ数日で初めて見た光だったのだろう。
「まったく……そんなつもりはなかったんだがな。おめえの熱意に負けたよ」
「ありがとうございます! 本当になんとお礼を言えば……」
「礼を言うにはまだ早い。何しろわしらには敵しかいないからな」
「どういう意味ですか?」
「おめえはおかしいと思わなかったのか? どんなに叫んでもギルドに入れねえってことに」
「それは僕が弱いからで……」
「それだけじゃねえんだよ。裏で商業ギルドが手を回してやがったんだ。コネやら伝手やら、金やら使ってな」
「な! そ、そんなの冒険者憲章にもギルド友好規約にも違反しているじゃないですか!」
「どうだかな。連中はルールをこねくり回すのが無駄に得意だ。何とかしてるんじゃねえか」
「そ、そんな。いくらなんでもそれは……」
「おめえが思っているよりもはるかにギルド……特に冒険者ギルドは腐敗している。気をつけろよ。組織ってのはな、腐れば腐るほど人を飲み込むもんだ。おめえは飲まれるなよ」
ラバサルは、今日は家に泊っていけと言い残すと自分の仕事に戻っていった。
ウルクの住居はさして裕福でなくとも中庭と塀があり、中庭から家に入れる構造になっている。そういう家々が隣り合っているせいで上から見ると迷路のように見える。特に、地方から始めてウルクに来たお上りさんなどはしょっちゅう道に迷っている。
しかし幼少のころからウルクでの都市生活に慣れ親しんだエタにとってはこの迷路こそが我が家と呼べる。
都市から出た農村などは、森や川、自然物が人の暮らしと野外を隔てているが、それはエタにとって落ち着かない暮らしだった。
入り口のすだれ (ウルクではドアよりもすだれで内と外を仕切るのが一般的) をかき分けて入ったラバサルの家はやはり、質素だった。多少の保存食と最低限の家具。ただなぜか、この地方では高価な杉の椅子が置いてあったが、それに触れるのは少し気が引けた。
それよりも、と学院から借りるだけ借りてきた書物粘土板を床に置いた。これは文字を大量に記録できる粘土板で、画面をなでると別の板面に移行できる。
ある意味学院の根幹をなす粘土板でもあった。
今回持ってきたのは迷宮の情報が記載されている粘土板。地図、出現する魔物、攻略に参加しているギルド、企業などが事細かに記載されている。
(この中から、僕が踏破できる迷宮を見つけ出す)
迷宮の形やあり方は迷宮が持つ掟に基づいており、千差万別だ。今日のような洞窟型のものもあれば、都市のようになっていたり、挙句の果てには巨大な動物になっている迷宮もあるという。
ならば、自分にしか弱点を見つけ出せない迷宮があってもおかしくないかもしれない。
粘土板を穴が開くほど見つめ続ける。気づけば日が傾いていた。
「もうこんな時間なんだ。さすがに何か食べたほうが……?」
家の外から何か騒がしい。いや、騒がしさが近づいてくる。
そして入り口に近づくと、いきなり大柄な女性が上がりこんできた。
「ここにエタってやつはいるかああ!!!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

魔力ゼロでも諦めない! 転生エンジニアがITスキルで挑む異世界革命
暁ノ鳥
ファンタジー
ブラック企業で過労死寸前となったエンジニア・如月ケイは、意識を失った瞬間、中世風の異世界に転生する。
そこでは、魔力を持たない彼が「魔力ゼロ」として厳しい差別に晒され、さらに庶民から重い“保護費”を巻き上げる腐敗した制度が蔓延していた。
しかしケイは前世のプログラミング思考を活かし、“魔法をコード化”するという革新的手法で新たな道を切り拓く。
かつての失敗を繰り返さぬよう改革を推進しながら、アリアやエレナ、フレイア、そして改革派のラヴィニアら仲間と共に、歪んだ社会の変革を目指す。
一方、かつて家族を失い絶望した元ギルド魔術師・ローガンが暗躍し、封印された“大厄災”を再び解き放とうと企む。
世界を覆う差別と腐敗を打ち砕くのか、それとも破滅へ導くのか――ケイの“コード魔法”は新時代を切り拓けるのか?
魔力ゼロ差別、利権にまみれた保護費制度、そして再来する“大厄災”を前に、ケイたちの冒険と改革の物語が今、始まる。

冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる