迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
7 / 293
第一章 迷宮へと挑む

第五話 希望の光

しおりを挟む
 エタとラバサルは初心者向け迷宮に到着したが、エタはそのまま洞窟の入り口を通り過ぎた。
「おい。どこへ行く?」
「……すぐにつきます」
 入り口から歩いて四十歩ほどだろうか。小さな穴が開いていた。
「何だこりゃ?」
「穴を掘る掟で掘った穴です。迷宮の一番奥につながっています」
「はあ!? おめえ、まさか地上から迷宮の核につながる出入口を作ったのか?」
「はい……位置は学院にあった地図で確認しました」
 エタは恥からかうつむき、真っ赤になっていた。
「わかっています。こんなことをするべきじゃなかったって。ちゃんと正面から入らなきゃ意味がないんだって……でも、それでも……」
 いつまでも何も言ってこないラバサルを不思議に思い、顔をあげると、ラバサルは何とも奇妙な、呆れるような、愉快なような表情をしていた。
「これだから頭のいい奴ってのは……」
「ラバサルさん?」
「あのなあ。おめえが強くなりたいのは何のためだ?」
「え。それは迷宮を攻略するためですけど……」
「そうだ。間違えるな。強くなるために迷宮を攻略するんじゃねえ。迷宮を攻略するために強くなるんだ。つまり、弱いまま迷宮を攻略できるんなら弱くたっていいだろうが」
「それはそうですけど……こんな方法で攻略できる未踏破迷宮なんてそうそうありませんよ」
「かもな。だから探せ。頭を使って踏破できる迷宮を探せ。わしも手伝ってやる」
「ラ、ラバサルさん!」
 エタの瞳が太陽を反射しているように輝いた。ここ数日で初めて見た光だったのだろう。
「まったく……そんなつもりはなかったんだがな。おめえの熱意に負けたよ」
「ありがとうございます! 本当になんとお礼を言えば……」
「礼を言うにはまだ早い。何しろわしらには敵しかいないからな」
「どういう意味ですか?」
「おめえはおかしいと思わなかったのか? どんなに叫んでもギルドに入れねえってことに」
「それは僕が弱いからで……」
「それだけじゃねえんだよ。裏で商業ギルドが手を回してやがったんだ。コネやら伝手やら、金やら使ってな」
「な! そ、そんなの冒険者憲章にもギルド友好規約にも違反しているじゃないですか!」
「どうだかな。連中はルールをこねくり回すのが無駄に得意だ。何とかしてるんじゃねえか」
「そ、そんな。いくらなんでもそれは……」
「おめえが思っているよりもはるかにギルド……特に冒険者ギルドは腐敗している。気をつけろよ。組織ってのはな、腐れば腐るほど人を飲み込むもんだ。おめえは飲まれるなよ」
 ラバサルは、今日は家に泊っていけと言い残すと自分の仕事に戻っていった。



 ウルクの住居はさして裕福でなくとも中庭と塀があり、中庭から家に入れる構造になっている。そういう家々が隣り合っているせいで上から見ると迷路のように見える。特に、地方から始めてウルクに来たお上りさんなどはしょっちゅう道に迷っている。
 しかし幼少のころからウルクでの都市生活に慣れ親しんだエタにとってはこの迷路こそが我が家と呼べる。
 都市から出た農村などは、森や川、自然物が人の暮らしと野外を隔てているが、それはエタにとって落ち着かない暮らしだった。
 入り口のすだれ (ウルクではドアよりもすだれで内と外を仕切るのが一般的) をかき分けて入ったラバサルの家はやはり、質素だった。多少の保存食と最低限の家具。ただなぜか、この地方では高価な杉の椅子が置いてあったが、それに触れるのは少し気が引けた。
 それよりも、と学院から借りるだけ借りてきた書物粘土板を床に置いた。これは文字を大量に記録できる粘土板で、画面をなでると別の板面に移行できる。
 ある意味学院の根幹をなす粘土板でもあった。
 今回持ってきたのは迷宮の情報が記載されている粘土板。地図、出現する魔物、攻略に参加しているギルド、企業などが事細かに記載されている。
(この中から、僕が踏破できる迷宮を見つけ出す)
 迷宮の形やあり方は迷宮が持つ掟に基づいており、千差万別だ。今日のような洞窟型のものもあれば、都市のようになっていたり、挙句の果てには巨大な動物になっている迷宮もあるという。
 ならば、自分にしか弱点を見つけ出せない迷宮があってもおかしくないかもしれない。
 粘土板を穴が開くほど見つめ続ける。気づけば日が傾いていた。
「もうこんな時間なんだ。さすがに何か食べたほうが……?」
 家の外から何か騒がしい。いや、騒がしさが近づいてくる。
 そして入り口に近づくと、いきなり大柄な女性が上がりこんできた。
「ここにエタってやつはいるかああ!!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...