493 / 509
第六章
484 雲の最中
しおりを挟む
神秘的な青い体から放たれた攻撃は悪夢のように多彩で強烈だった。光弾、炎、水、泡、レールガン。だがひときわ目を引いたのが……。
「何じゃありゃ!? 竜!?」
巨大な蛇、あるいは龍のような何か。現実的に考えればそんなものが存在するはずがない。
「コッコー。違います。あれはただの幻影――――ゴッ!?」
言い終える前に龍に触れた機体から投げ出されるカッコウパイロット。え!? あのドラゴンマジで攻撃なのか!?
「コッコー。龍そのものは幻影ですが、幻影の中に攻撃を混ぜているようです」
「解説ありがとう和香! 厄介な小技使いやがって!」
つまりアベルの民はカッコウが幻影を見抜くことを予測して攻撃を組み立てていることになる。
「守勢に回るわけにもいかないな。ミサイル!」
ぽっかりとあいた雲の中をミサイルが切り裂く。しかしミサイルは何もない空中で突然爆発した。
「今誰か起爆したか!?」
「してない」
働き蟻の返答はそっけないが、だからこそ嘘を言ってはいないのだろう。つまり何らかの方法で強引に起爆させられたことになる。
(ユーカリの制御を乗っ取った? いや、それならもう全部起爆させられてるか。さっきの空中機雷みたいなものか、あるいは瞬間的に放電でもしたのか?)
はっきり言って訳がわからない。奴らの使う魔法と科学を組み合わせた技術は完全にオレの理解の範疇を超えている。
どうやって対処すればいいのかさっぱりわからない。だったら開き直ってやるまでだ!
「数で押しつぶすぞ! ミサイル、今度は直進させるな!」
今度は複数のミサイルが複雑な軌道で飛んでいく。ドードーの魔法でコントロールされたミサイルはある程度なら操作できるし、速度も速い。
すると、今度は空間の外側を飛んでいたミサイルから順に爆発していくことがわかった。
多分、ぽっかり空あいた空間の外、雷雲に何か仕掛けがしてあるのだろう。
「なら、ケーロイ! 誰でもいいから雲に向かって攻撃と妨害を散布してくれ!」
「おう!」
まずは敵の守りを崩すところから。だが敵もこのまま座して死を待つわけもない。
ますます攻撃が激しくなっていく。ほとんどシューティングゲームの弾幕みたいな有様だ。厄介なのはライガーの光魔法みたいな幻影を大量に放出してブラフにしてくることだ。多分ゲームでこれをやったら開発会社に抗議が殺到するだろう。
こちらも負けじとミサイルを飛ばし、中にはフォークトで特攻し、ぎりぎりで脱出するカッコウもいる。
謎の防衛能力は雲が晴れるたびに減衰していくようだけど、巨体のくせにわりと素早いアベルの民はぎりぎりで直撃を避けつつ、時にはヒトモドキのようなシールドを展開してミサイルを防いでいる。
だが気付いているだろうか。徐々に、徐々に、アベルの民が高度を下げていることを。
空中での戦いはとにかく上を取った方が有利だ。勢いのまま落下して攻撃することも、何かを落として攻撃することもできる。
だからこそカッコウや鷲は敵の上部に攻撃を集中させ、こちらが上をとり続けられる態勢を整えようとしている。
その策略に気付いたアベルの民はどうにか浮上しようとするがもう遅い。押し込むように攻撃を続け、アベルの民はぽっかりあいた空間の底に追い込まれた。格闘技で例えるならロープ際に追いつめられたようなものだろうか。
ケーロイが甲高い叫びと共に鷲を率いてアベルの民の直上に飛行する。そのかぎ爪にはここまで大事に運んできた爆弾をしっかりとつかんでいる。落下する勢いに身を任せようとしたとき、突如天井が崩落した。
正確には雲から何かが落ちてきたのだが、それを正確に理解できてはいなかった。恐らく雲を固めた雹だろう。いざという時のために空中に仕掛けておいたトラップかもしれない。
多分、アベルの民が空中で戦うのはこれが初めてではない。
そうでもなければこんな戦術は練ることができない。ばらばらと雹が降り注ぐ。一粒は小さくとも十分すぎるほど鋭利な凶器となったそれは飛行部隊の体を存分に痛めつける。アベルの民も無傷ではないだろうが、雹の嵐を強引に突っ切り、鷲に攻撃を仕掛ける。
上と下から挟まれることになった味方は態勢を立て直す余裕さえなく、力を失い……ケーロイの翼にはアベルの民の触手らしきものが絡みついた。
「ケーロイ!」
力の限りもがくが、離れられない。それどころかアベルの民に引き寄せられ、体の一部がぱくりと割れた。誰がどう見ても捕食するつもりだ。
あんなでたらめな体をしていても一応生き物であるアベルの民は何かを食べなければならないのだろう。
「ぐ……油断したなあ。ああ、だがよかろうさ」
「ケーロイ、ちょっと待――――」
「いや、よいさ、ちょうどいい。どうせここで代替わりするつもりだったからな。少しばかり予定が早まるだけだ」
後悔はない、といわんばかりの会心の笑み。
「我が名は石の部族の長、ケーロイ! 空に生き、空に死ぬ! それが我らの定め! だがな! 少しばかり貴様にも痛みを分けてやらねば気が済まぬ!」
ケーロイはアベルの民から離れようとはせず、むしろ近づきぱくりと割れた穴へ向けて爆弾を放り込もうとし――――その足を切り飛ばされた。
アベルの民から刃のような何かが剣山のように生えている。反撃の手段を失ったケーロイはそれでも笑みを崩さず、体の中に吸い込まれていった。
「何じゃありゃ!? 竜!?」
巨大な蛇、あるいは龍のような何か。現実的に考えればそんなものが存在するはずがない。
「コッコー。違います。あれはただの幻影――――ゴッ!?」
言い終える前に龍に触れた機体から投げ出されるカッコウパイロット。え!? あのドラゴンマジで攻撃なのか!?
「コッコー。龍そのものは幻影ですが、幻影の中に攻撃を混ぜているようです」
「解説ありがとう和香! 厄介な小技使いやがって!」
つまりアベルの民はカッコウが幻影を見抜くことを予測して攻撃を組み立てていることになる。
「守勢に回るわけにもいかないな。ミサイル!」
ぽっかりとあいた雲の中をミサイルが切り裂く。しかしミサイルは何もない空中で突然爆発した。
「今誰か起爆したか!?」
「してない」
働き蟻の返答はそっけないが、だからこそ嘘を言ってはいないのだろう。つまり何らかの方法で強引に起爆させられたことになる。
(ユーカリの制御を乗っ取った? いや、それならもう全部起爆させられてるか。さっきの空中機雷みたいなものか、あるいは瞬間的に放電でもしたのか?)
はっきり言って訳がわからない。奴らの使う魔法と科学を組み合わせた技術は完全にオレの理解の範疇を超えている。
どうやって対処すればいいのかさっぱりわからない。だったら開き直ってやるまでだ!
「数で押しつぶすぞ! ミサイル、今度は直進させるな!」
今度は複数のミサイルが複雑な軌道で飛んでいく。ドードーの魔法でコントロールされたミサイルはある程度なら操作できるし、速度も速い。
すると、今度は空間の外側を飛んでいたミサイルから順に爆発していくことがわかった。
多分、ぽっかり空あいた空間の外、雷雲に何か仕掛けがしてあるのだろう。
「なら、ケーロイ! 誰でもいいから雲に向かって攻撃と妨害を散布してくれ!」
「おう!」
まずは敵の守りを崩すところから。だが敵もこのまま座して死を待つわけもない。
ますます攻撃が激しくなっていく。ほとんどシューティングゲームの弾幕みたいな有様だ。厄介なのはライガーの光魔法みたいな幻影を大量に放出してブラフにしてくることだ。多分ゲームでこれをやったら開発会社に抗議が殺到するだろう。
こちらも負けじとミサイルを飛ばし、中にはフォークトで特攻し、ぎりぎりで脱出するカッコウもいる。
謎の防衛能力は雲が晴れるたびに減衰していくようだけど、巨体のくせにわりと素早いアベルの民はぎりぎりで直撃を避けつつ、時にはヒトモドキのようなシールドを展開してミサイルを防いでいる。
だが気付いているだろうか。徐々に、徐々に、アベルの民が高度を下げていることを。
空中での戦いはとにかく上を取った方が有利だ。勢いのまま落下して攻撃することも、何かを落として攻撃することもできる。
だからこそカッコウや鷲は敵の上部に攻撃を集中させ、こちらが上をとり続けられる態勢を整えようとしている。
その策略に気付いたアベルの民はどうにか浮上しようとするがもう遅い。押し込むように攻撃を続け、アベルの民はぽっかりあいた空間の底に追い込まれた。格闘技で例えるならロープ際に追いつめられたようなものだろうか。
ケーロイが甲高い叫びと共に鷲を率いてアベルの民の直上に飛行する。そのかぎ爪にはここまで大事に運んできた爆弾をしっかりとつかんでいる。落下する勢いに身を任せようとしたとき、突如天井が崩落した。
正確には雲から何かが落ちてきたのだが、それを正確に理解できてはいなかった。恐らく雲を固めた雹だろう。いざという時のために空中に仕掛けておいたトラップかもしれない。
多分、アベルの民が空中で戦うのはこれが初めてではない。
そうでもなければこんな戦術は練ることができない。ばらばらと雹が降り注ぐ。一粒は小さくとも十分すぎるほど鋭利な凶器となったそれは飛行部隊の体を存分に痛めつける。アベルの民も無傷ではないだろうが、雹の嵐を強引に突っ切り、鷲に攻撃を仕掛ける。
上と下から挟まれることになった味方は態勢を立て直す余裕さえなく、力を失い……ケーロイの翼にはアベルの民の触手らしきものが絡みついた。
「ケーロイ!」
力の限りもがくが、離れられない。それどころかアベルの民に引き寄せられ、体の一部がぱくりと割れた。誰がどう見ても捕食するつもりだ。
あんなでたらめな体をしていても一応生き物であるアベルの民は何かを食べなければならないのだろう。
「ぐ……油断したなあ。ああ、だがよかろうさ」
「ケーロイ、ちょっと待――――」
「いや、よいさ、ちょうどいい。どうせここで代替わりするつもりだったからな。少しばかり予定が早まるだけだ」
後悔はない、といわんばかりの会心の笑み。
「我が名は石の部族の長、ケーロイ! 空に生き、空に死ぬ! それが我らの定め! だがな! 少しばかり貴様にも痛みを分けてやらねば気が済まぬ!」
ケーロイはアベルの民から離れようとはせず、むしろ近づきぱくりと割れた穴へ向けて爆弾を放り込もうとし――――その足を切り飛ばされた。
アベルの民から刃のような何かが剣山のように生えている。反撃の手段を失ったケーロイはそれでも笑みを崩さず、体の中に吸い込まれていった。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~
Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。
彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。
「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」
そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。
「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」
正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。
いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。
春乞いの国
綿入しずる
ファンタジー
その国では季節は巡るものではなく、掴み取るものである。
ユフト・エスカーヤ――北の央国で今年も冬の百二十一日が過ぎ、春告げの儀式が始まった。
一人の神官と四人の男たち、三頭の大熊。王子の命を受けた春告げの使者は神に贈られた〝春〟を探すべく、聖山ボフバロータへと赴く。
元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる
ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。
モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。
実は前世が剣聖の俺。
剣を持てば最強だ。
最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ナポレオンの妊活・立会い出産・子育て
せりもも
歴史・時代
帝国の皇子に必要なのは、高貴なる青き血。40歳を過ぎた皇帝ナポレオンは、早急に子宮と結婚する必要があった。だがその前に、彼は、既婚者だった……。ローマ王(ナポレオン2世 ライヒシュタット公)の両親の結婚から、彼がウィーンへ幽閉されるまでを、史実に忠実に描きます。
カクヨムから、一部転載
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる