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秋葉夕雲

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第六章

480 最終珍兵器

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 文字通りそれまでの戦場のあり方を一変させてしまった航空機だが……この世界においてその恩恵はそれほど大きくはない。もともと空を飛べる魔物がいくらでもいるのだ。カッコウ、鷲、トンボなど。場合によっては地球の航空機よりも優れた利便性を持つ魔物を上回る航空機を作らなければならないのはかなりの難題だった。
 さらにこの世界にはあまりにも金属が少ない。これが内燃機関を発明するうえでかなりの障害になっている。高温と高圧に耐えられる物質の開発に非常に難儀していた。しかし最大の標的である銀髪が航空機への対抗手段を持ち合わせていなかったために小回りが利く空中戦に向いた航空機の開発は進んでいなかった。
 だがアベルの民の出現により空での戦いに備えなければならなかったエミシは戦闘機の開発を余儀なくされた。まさに必要は発明の母だろうか。
 とはいえ紫水はアベルの民だけの為の間に合わせの道具を開発するのではなく、その後も量産、発展の余地がある兵器を作りたがった。よって数の少ない金属を使うわけにはいかない。
 となるとやはり、魔法に頼らざるを得ないのである。結果として虫車の機構を応用したシンプルなプロペラを開発した。数十人、数百人の魔法を集中させたプロペラは十分な推進力を発揮した。
 が、やはり魔法は完全にコントロールができるわけではない。紫水の航空機に対する知識の乏しさもあり、急制動などが難しくなってしまった。
 実のところ飛行機の操縦で最も難しいのが着陸である。飛行機事故の大部分が離着陸の瞬間なのだ。当然のように試作機は着陸の事故が多発した。
 だが、エミシが誇る開発者樹里はとんでもない解決方法を編み出した。

『じゃあ着陸しなければいいんじゃないですか』

 ……それは航空機なのかという疑問はさておき合理的ではある。繰り返し使うと安全面の保証ができないのなら使い捨てにしてしまえばいい。
 樹里の開発者として奇妙な部分は技術に対してこだわりがないということだろうか。技術者というのは自分の技術を惜しみなく使いコストよりも性能を重視する傾向にあるのだが樹里はとにかく結果重視。使えるのなら粗悪な技術でも構わず、苦労して作った道具を平然と使い捨てにする。
 そうして誕生したのが航空機とミサイルを足して四くらいで割った謎兵器。使い捨て航空機フォークト。
 問題点は二つ。コスト。パイロットの安全。
 プラスチック複合素材を上手く使い、それこそ木や石を組み合わせれば存外コストは下がった。ただしパイロットの安全はそうもいかない。そもそも一回飛ぶだけなのでちょいちょい空中分解することもある。が、これもまたエミシらしい方法で解決できた。
 パイロットをカッコウにしたのだ。言うまでもないがカッコウは飛べる。脱出装置などなくても平気で脱出してのける。さらにカッコウをはじめとして飛行する魔物は高度の空気にも対応できる。
 地球人が一気に数千メートルも上昇すると様々な体調不良に見舞われるが、空を飛ぶ鳥は気圧の乱高下、低酸素に対応できるのだ。
 もちろんカッコウに手はないが、そもそも使い捨て航空機なので複雑な操作を必要としない。爪で押す、引く、などの操作で何とか動かせるように改良した。
 ちなみに、かつて高原のティラミスで試作型虫車に乗って以来乗り物がトラウマになっている和香がパイロット候補に選ばれたことを知るとすんごい嫌そうな顔をしていたことを追記しておく。



 フォークト隊はまっすぐにアベルの民がいると思われる入道雲へとぐんぐん向かっていく。単純な最高速ならこの世界のたいていの魔物よりも速い。
 だが……。
 雲から飛び出した一条の光が一機の航空機を貫く。音よりも速い弾丸を避けられるはずもない。
「コッコー。離脱しろ」
 後方で指揮を執る和香の指示に従い一斉に飛び立つカッコウパイロット。不安定な天候でもなんとか勢いを殺しつつ急降下する。
 フォークトはただまっすぐ飛ぶだけならパイロット無しでも問題はない。運よく敵に当たれば爆薬が炸裂するはずなのだが……。
 入道雲にたどり着きさえせずにレールガンに貫かれる。威力、命中精度共に申し分ない。敵ながら素晴らしい兵器だ。
 今回の攻撃はあくまでも牽制。敵がどのくらいできるのか。特に、何を狙うのか知りたかった。
 敵はほぼ間違いなく入道雲のど真ん中にいる。
 ならばどうやってフォークト隊を見たのだろうか。魔物の探知能力ではない。もしそうなら航空機よりも脱出したカッコウを狙ったはず。
 何でもありのアベルの民ならどんな方法で探知して来てもおかしくはない。とはいえこんな悪天候ではそうそう狙えないはず。入道雲の中からでは。
「地上に観測手スポッターがいるな。分裂したのか、本国から援軍が来たのかはわからないけど、空! 出番だぞ」
「お任せください。エミシの将軍として恥じぬ働きをしてみせましょう!」
 いよいよ稲光が煌めきだした平原にラプトルを筆頭とした地上部隊が暴風さえも切り裂くように走り出した。
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