こちら!蟻の王国です!

秋葉夕雲

文字の大きさ
上 下
483 / 509
第六章

474 身分違いの思い

しおりを挟む
 久斗からの報告を聞いたオレは数秒後に大爆笑。千尋に止められるまでずっと笑い転げていた。
「あー、笑いすぎて腹痛いな」
「何度も言うけど笑いすぎだよ~?」
「悪い。でもさあ、銀髪がちょろすぎなんだよ」
 まさか作戦開始数日でここまで接近できるとは思わなかった。流石ヒトモドキの頭目。騙されやすすぎる。久斗のたらしスキルが限界突破してるのかもしれないけどな。美月も合わせて傾国の双子だ。
「結局あの銀髪は一人が寂しかったのかなあ」
「だな。だから仲間や家族が欲しかったのかもしれない。ま、セイノス教的な栄誉は奴の好むところじゃなかったみたいだ。そこに現れた王子様に一目ぼれしちゃうとか……あー、また笑いそ」
 ロミジュリなみのちょろさだ。
 しかし家族だのなんだのがそんなにいいもんかね? あんな奴らいても人生の荷物になるだけだぞ? む? そう言えばオレの家族、少なくとも二親等くらいの蟻の数は余裕で万を超える。いかんな。銀髪にこのことを知られると嫉妬されてしまうかもしれん。
「これからは銀髪に賛同しつつ、敵の仲を裂いていく感じでいいのかな~?」
「そうだな。タスト……銀髪の懐刀は明らかに都合の悪い情報を隠している。美月や久斗を通じてそれらの嘘をばらしていけば勝手に内部分裂してくれるはずだ」
 タストはどうもセイノス教徒の性質や、オレが転生者であることを隠している。信用していたはずの相手に隠し事をされて気分のいい奴はいない。
 しかしまあタストは間違ったことをしていないだろう。だって銀髪のあのバカさ加減なら放っておけばどんどん余計なことをするに決まってる。おみこしに担がれておくべき存在で自分から動けばドツボにはまるだけだ。
「仲良くなりたいなら他人との仲を悪くするのが手っ取り早いかもしれないね~」
「またえげつない意見を……ただちょっと気になるのは……」
「何~?」
「美月や久斗が銀髪に感化されないかどうかだな」
 万が一にもあのふたりが裏切ればすべては水泡に帰す。それどころか開き直って敵も味方も皆殺しなんて暴挙に出るかもしれない。
「それはないんじゃないかな~?」
「その根拠は?」
「二人はもともと銀髪が嫌いなんだよね~? そこから相手を好きになるには誤解みたいなものがないといけないと思うんだ~。でも二人とももともとの銀髪の性格を聞いてそれから嫌っているから感情が裏返ったりしないと思うよ~?」
 最初の人物評と実際に会話してみたギャップ差で相手を好きなることはあるかもしれない。逆にギャップが何もなければ評価が変わるはずもない。
 皮肉なことだけど、クワイの民が大いに銀髪を誤解しているのに対して敵であるオレたちは正確に銀髪を理解していた。
 千尋の人物評は結構正確かもしれない。
「なら、多少時間があれば銀髪は口説けるな。後はアベルの民か」
 もはや銀髪は敵ではない。その実力に反して精神が脆すぎる。それに対してアベルの民は……訳が分からん。七海が色々調べてくれてるけど……何なんだあいつら?
「あの青いのについても何かわかったの~?」
「わかったぞ。まず奴らは相手を捕食して体内の細胞と宝石を取り入れることで敵の魔法が使えるようになる」
「それは大体想像してたかなあ~」
「いや、そうでもない。例えば魔物の体内に毒が仕込んであれば毒を食わせられるかもしれない」
「……そんなにうまくいく~?」
 ち。千尋のくせに勘がいい。この作戦は絶対にうまくいかない。
「無理だな。どうもあいつらは毒を感知して自動的に一部を切りはなす機能があるらしい」
 群体生物の強みだろう。普通の生物なら体の一部を切り離せば重大なダメージを負う。しかし奴らは内臓を切り離してもそのうち再生する。
 毒を食っても皿を食っても多分平気だ。
「つまり結局は力押しになっちゃいそうなんだね~?」
 大正解。
「ふん、まあいいさ。オレたちがどのくらい強くなったのか、その試金石になるはずだ」
 さらに言えばアベルの民の強さを他の勢力に吹聴すれば奴らに対抗できるオレたちに逆らおうとする奴らも現れにくくなるかもしれない。
 何しろアベルの民の本国にはあの程度の奴がうじゃうじゃいるかもしれないのだ。……いや、流石にそれはないよな。あんなもんがいくらでもいたらマジで負ける。考えようによっては銀髪よりも厄介だ。
 ひとまず今ここにいるアベルの民は最新鋭の装備を整えた最強の侵略生物であると仮定しておこう。

「コッコー。ご報告があります」
「和香? どうした」
「コッコー。サリ率いる遊牧民が順調に進軍しているそうです」
「ああ、あいつらか。了解。適度に支援してやれ」
「コッコー」
 奴らにぶつけるための戦力として遊牧民を呼びつけてある。まあ正直今更いらない気もするけど……予備戦力はいるよな。
 それよりも……。
「いい加減サリがうっとおしいな」
「ああ。あれ~? 私にも来たよ~」
 あれとはサリからの報告だ。ただの報告じゃなく、自分の成果を誇大に報告して褒めろ褒めろとさえずってくる。あいつSNSがない時代に産まれてほんとによかったな。絶対クソリプばっかり送ってるぞ。
 あまりにもうっとおしいので和香を経由するように指示を出した。ちなみにその和香も部下を経由するように指示を出したらしい。
 ザ・お役所仕事って感じだ。和香の部下よ、すまん。
「いい加減調子に乗りすぎじゃないかな~? 銀髪がいるうちはまだしょうがないけどね~」
「だな。あいつが完全に掌握できれば……ま、それはその時考えよう」
 決着はそう遠くないうちにつきそうだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

召喚魔法の正しいつかいかた

一片
ファンタジー
「世界を救って頂きたいのです」 そんな言葉から始まった上代薦の異世界転移。 世界最高の才能を一つ与えると言われたものの……何故かろくでもない状況ばかりが積み重ねられていく中、薦は使い勝手が非常に悪く役に立たないと言われている召喚魔法に全てを賭ける。 召喚魔法……何かを使役したり、とんでもない攻撃力を持つ魔法……ではない。ただ呼び出し、そして送り返すだけ。それ以外の効果を一切持たない魔法だが、薦はこれこそが自分がこの理不尽な世界で生き延びるために必要な魔法だと考えた。 状況を打破するために必要なのはとりあえず動くこと、ではない!とにかく考えて考えて考えつくすことだ! 八方ふさがりならば空を飛ぶか地面を掘れ!四面楚歌ならば別の歌を歌え! これは世界最弱のまま、世界を救わなければならず……世界最弱のまま英雄と呼ばれるようになる世界最高の召喚魔法使いの物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います

かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。 現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。 一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。 【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。 癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。 レイナの目標は自立する事なのだが……。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

処理中です...