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秋葉夕雲

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第六章

462 一神教

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 ヒトモドキとアベルの民との会合の数日後。
 さあて、それじゃあ会議の時間だおらあ!
「お久しぶりの面倒ごとだぞ」
「言うほど久しぶりか?」
「そこは久しぶりっていうことにしておいてくれ」
 千尋は相変わらず憎まれ口をたたかなければ済まないのだろうか。
「我々戦士としては力の見せどころです。いかなるご命令にも従います」
 空は戦いに高揚しているけれど、同時に戦わないという選択肢も否定するつもりはないと言外にほのめかしている。
「オッケー。ひとまずはこの三人で始めようか。予想外の同盟が締結されそうな雰囲気だな」
「美月はどう見ているのですか?」
「今のところ話はまとまりそうだとさ」
 スパイがいるおかげで敵の動向は丸裸。敵だって警戒位しているだろうけど、根本的に防諜という概念がないクワイでは秘密を隠すことそのものが難しい。
 かつての王族みたいに物理的に隔離すればまだしも、人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、一度懐に入り込んでしまえばペラペラと国家機密にすべきことでさえ口を滑らせている。
「ふむ。それなのだがのう? どうにも妾には腑に落ちぬ」
「ん? 何が?」
「奴らが同盟を結ぶきっかけは邪教によるものだろう?」
「邪教て。いやまあその通りだけど、何が問題なんだ?」
「宗教が近いというだけで仲良くなれるものか? むしろ、近親憎悪という感情が湧くかと思うのだが」
 千尋の指摘はとても鋭い。千尋もシレーナという宗教を信仰しているけれど、シイネルだったか。同種の魔物である蜘蛛がよく似た宗教でもわずかな違いでいがみあったように宗教による同盟はとてもアンバランスだ。つまり。
「断言してもいい。そのうち必ず崩壊する。仲がいいのは今だけだよ」

 セイノス教もアベルの民も一神教に近い性質を持つ。
 そもそも一神教どうしはお互いに仲が悪い。
 これはきっと地球だけの話じゃない。セイノス教も始まりからしてそもそもそういう性質を持った宗教だ。
 一神教の教義の基本は世界を創造した絶対の創造主が存在し、それを信じていれば必ず救われる。
 言い換えれば信じなければ地獄行き。そして信じてさえいればどんな奴でも救われる。
 これらから一神教の成り立ちはおおよそ推測できる。
 迫害されていた連中へのを狙ったのだ。今まで虐げられていた連中は絶対の神に全てを丸投げできるという安心感と、今まさに権力を握っている連中が地獄行きだという歪んだ充実感を手に入れることができた。
 要するにいじめられていた連中がいじめていた連中を見下すきっかけになった。そして時代が進み実力を手に入れた宗教はそれを他のコミュニティを排斥、あるいは同化する方便として使った。
 これは多神教の神が他の神々を習合することで発展するのに対して、一神教では他の神々を悪魔として扱っていることからもよくわかる。
 要するに他者を排除し、無理矢理組み込む力が強いのだ。
 それだけ聞くと一神教がまるで悪役のようだけど、一応良い所もある。
 神という絶対者がいるがゆえに人の間で差を作らないというお題目を掲げなければならないこと。これが差別や理不尽を根絶する力の一端となることは確かだ。
 もっとも、それらは欲深い坊さんが楽をするための言い訳……いや、免罪符にしていることは地球の歴史を紐解くまでもないだろう。はっきり言えば宗教組織はとても腐敗しやすい。ありとあらゆる組織は腐敗を避けられないと言えばその通りだけどね。
 しかしその点においてセイノス教、あるいはヒトモドキたちは地球のどこぞの宗教よりもはるかに賢明だ。
 クワイの町を占領した時、驚いたのはとにかく一か所に財や贅沢が集中していなかったことだ。もちろん完全に平等とまではいかなかったものの、表面上は理不尽に民を苦しめ、搾取している暴君はいなかった。
 これだけでもセイノス教やクワイが優れた統治機構を持っていたことは想像に容易い。
 ま、その代わり奴らは魔物との戦いで命を懸けろと平気で言う狂信者の群れ。ただまあ、それでも自分自身が命を懸けて戦うことを全く恐れていなかった事実を見過ごしてはならないけどな。



「何はともあれ、奴らの宗教は根本的に排斥と同化をよしとする。だからこそ一時的な共闘はありえても時間が経てば争いのもとになるさ」
「で、あろうな」
 千尋は得心した様子だ。
 蜘蛛の宗教も一神教に近い要素はあるけど、祖霊信仰の一面もあるせいか、あまり他者に信仰を押し付けない。
 オレ自身も思想の統一に対してはそれほど心を砕く必要もないと感じている。なんだかんだでセイノス教以外の宗教は他者と折り合いをつけやすい。最悪蟻だけでもついてくれれば国を維持できるくらいの力はもう持っている。
「では、美月に離間の計を命じれば容易くことは済むのでは?」
「そうかもしれないけど……どうもクワイでもスパイ連中を警戒しているし、非常時だから敵も多少強引な同盟も結びたいだろう。しかもテレパシーを迂闊に使うとアベルの民に盗聴されるかもしれないからな。もうちょっと様子を見たい」
「では、ほどほどに状況が落ち着いたころに、内部から切り崩すつもりか?」
「そうだな。それがベストだ。今なら攻め手はいくらでもある。逆に、敵がもっと逼迫してからの方がやりやすいかもしれない」
「動いている敵は攻めるに難い。ですが動く敵はつけ入る隙がありますか」
「そういうこと。敵の目的地がはっきりしているなら、そこでじっくり待ち構えればいい。異論はあるか?」
「ない」
「ございません」
 もともとオレたちはあんまり攻めが得意じゃないからな。ゆっくり迎え撃てばいい。それに何よりこの戦いは負けてもいい。負ければ全滅確定だった前回とは違い、敗北したとしても銀髪が別の場所にわたるだけ。もちろん厄介には違いないけど、さっきも言った通りアベルの民とクワイの同盟は薄氷のように割れやすい。敵の戦力が増大することはないだろう。気楽に戦える。
 では、スーサンにいる七海や、援軍を出してくれそうな連中に声をかけるか。
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