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秋葉夕雲

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第六章

451 非人間の証明

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 言葉を無くしていたタストだったが、自動的にあるいは自暴自棄となって反論を始める。
「ま、待ってくれ。そんな染色体の数なんて、そんな簡単にわかるはずがない」
「はあ? あんたほんとに義務教育受けてんのか? 酢酸カーミンくらい使ったことあるだろ?」
 多分中学生の実験でやったはずだ。酢酸カーミン液を使って染色体を顕微鏡で観察する実験。何しろ染色体だ。色を染めると書いて染色体だ。細胞の器官の中ではかなり観察しやすい部類に入る。
「聞いたことはあるけど……そんなものが手に入……」
「酢酸カーミンはお酢とコチニール色素があれば大体できるはずだ。コチニール色素はカイガラムシから採れる色素だな」
 ぶっちゃけ運さえあれば着の身着のままで原始時代にタイムスリップしても作れる可能性はある。
 アンティ同盟のティウからカイガラムシの居場所などを聞いて、真っ先に作ったのが酢酸カーミンだ。これを使って魔物の交配実験の成功確率が結構上がった。
 やっぱり染色体の数が違うとほとんどの魔物では交配ができなかった。
 言い換えれば、ヒトモドキとホモサピエンスが交尾したとしても子供ができる可能性は低い。まあ、普通に考えてヒトモドキが地球人類と同種であるわけがない。
 ……タストはそう考えてなかったようだけど。

「う、嘘だ……僕たちは……人間……」
「何だったら自分の細胞を観察してみるか? 一日くらい待ってくれれば用意は整えられるぞ?」
「やめてくれ!」
 頭を抱え、いやいやする。子供か!
 ちょっと情緒不安定すぎませんかねこの人。そんなに自分たちが人間じゃないことがショックなのかなあ。
「じゃあなんだ!? 僕たちに比べればチンパンジーの方が人間に近いっていうのか!?」
「染色体の数の違いがそのまま生物として近縁か否かを判断する基準にはならないけど……確か、チンパンジーが48本で、犬の染色体の数が78本だったから、まあ百万年くらい前に分岐した別種よりは遠いかな。いや、監理局の干渉があったらそうではないかもしれないけど……」
「干渉……?」
「んー、こっちの生物っていうか転生者? 後は環境とか? その辺を操作できるみたいなんだよね。昔はもっと色々できたみたいだから、生物の進化にかかわってるのかもしれない」
「そうなのかい?」
 ありゃ? えらく反応が薄いな。インテリジェンスデザインが正しいかもしれないなんて相当衝撃的な発言だと思うんだけど。どうにもこいつの驚くツボがよくわからん。
「そうそう。ついでに言うと、この惑星、異世界じゃなくて別の銀河っぽいかな。正確な距離はわからないけど」
「それも、転生管理局から奪った情報なのかい?」
「いや、光を操作する魔法を使うやつがいて、そいつらが天文学を修めてた。確信できたのは管理局経由だな」
「て、天文学……?」
 魔物がそんなことするなんて思っていなかったから、驚きもひとしおだろうな。ていうかやっぱりライガーの天測能力はおかしい。下手すると地上の光学望遠鏡じゃ現代科学でも不可能な領域に到達している。

「ひとまず信じてくれたかな?」
「……君が今更嘘をつく理由があるとも思えないからね。でもどうやってその、監理局から情報を奪ったんだい?」
 乾いた顔に少しだけ生気が戻ってきた。まあきっとこれからもっと曇るんだけどね!

「詳細は言えないけど転生の条件を突き止めたんだ。それで何度か転生者を地球に送り込んで、がちゃがちゃやってると管理局の内ゲバでもろもろの情報をオレの部下が奪取した」
 一文でまとめたけど寧々、小春、翼の功績の大きさを改めて実感できるな。
「て、転生の法則がわかった!? なら、地球に帰ることができるのか!?」
 タストは黄金の山を見るような目つきをしている。はっはっは。そんな喜んでくれるとはね。よっぽどここでの暮らしに嫌気がさしているみたいだな。そんなに喜んでくれて嬉しいよ。
 ま、そんな美味しい話があると思ってるのかね?
「期待を裏切るようで悪いけど、転生はできても、オレたちが地球に帰ることはできない」
「どうして!」
 もはや怒りすら感じられるほどの大声。ま、オレだって帰れるなら――――いや、行けるのなら、一度でいいから行ってみたい。
 転生の真実を知ってからはそう思うようになった。
「そもそも転生ってなんだと思う?」
「え、それは生まれ変わりとか……その、一度肉体が滅んでも魂が新しい肉体を得るとか……そういうことじゃないのか?」
 普通はそうなんだろう。でもこの場合の転生は、転生管理局にとっての転生で、一般的な転生ではないのだ。その齟齬は大きい。
「そもそもさ。魂ってなんだ?」
「そんなこと言われても……そういうものがあるとしか……」
 ま、そうだろうな。
 魂とは何か。
 とある宗教では不滅だとか、生きている存在だとか。ある哲学者は三分割できるとか。ある科学者は二十一グラムの何かだとか。
 人間、あるいは生物に宿る何か。それが魂である。
 しかして。
 魂というものを完全に証明できた人類はただの一人として存在しない。
「ないんだよ。そんなもの。少なくとも、転生管理局では魂なんてものの存在を認めてない」
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