こちら!蟻の王国です!

秋葉夕雲

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第六章

449 都合のいい不真実

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「君が転生者、そして蟻の王かい?」
 きょろきょろと辺りを見回しながら姿の見えないオレに向かって話しかけている。
「そうだな。一応王ってことになるのかな」
 転生者相手に自分のことを王様だって説明するのはなんか気恥ずかしい。
「姿が見えないけど、これが君の能力かい?」
「そうなるかな」
 テレパシーは女王蟻の魔法だから、それがオレの能力ということ。ってことはもうオレたちがテレパシーを使っていることはばれてたのかな?
「そうか……」
 藤本雄二さんは疲れた顔を重々しく動かしてなにやら納得していた。

 タストの言う能力とは神から授けられた力であり、紫水の解釈による能力とは女王蟻なら誰もが使える魔法である。
 この時点で二人は大いにすれ違っているが、まだそれに気付いていない。

「念のために聞いておくけど、あんた転生者? 日本人?」
「ああそうだよ。こっちでの名前はタスト。こっちも尋ねたいことがある。君はあのバスに乗っていた乗客の一人かい?」
 バス。死の直前の記憶。確かにそれはある。言葉を省いているのはオレを試しているからだろうか。
「そうだよ。バスに乗っていた。他にも何人か乗客はいたかな。もしかして他のバスに乗っていた奴らも転生してんの?」
 寧々からの情報によって銀髪が転生者だということは知っているけど、ほかにも転生者がいるかどうかまでは聞いてない。多分、時間がなかったんだろう。
「ああ。全部で四人……いや、君を含めると五人か。僕は四人だと聞いていたけど……やっぱり騙されていたのか」
「ん? 騙されてた? 誰に?」
「僕らを転生させた、神」
 神、ねえ? タストも神とやらにいい印象は持ってないようだけどなあ。こいつどこまで知ってるんだ?
「それってどっち? 百舌鳥? 翡翠?」
「……? いや、名前は知らない」
 んー……この様子だとあんまり知らなそう……ていうか……そもそも転生管理局について知らない……?
「そうか。君は僕たちのしらないことをたくさん教えられているんだね」
 教えられてる? 知ってるじゃなくて? さっきからどうにも……話が食い違っているような気がしなくもないけど……。
 オレの戸惑いをよそにタストは覚悟を決めたように顔を上げた。

「単刀直入に言うよ。クワイへの侵攻をやめてもらえないか」
 はあ? そんなことわざわざ言いに来たのか? いや、そもそも今現在クワイに直接攻めているクマムシは……まあそこは置いておこう。
「あー……そりゃまた何で? あんな国守る価値あるのか?」
「今、クワイの民は苦しんでいるんだ。勝手な言い分なのはわかるし、君が人間を憎むのも当然だと思うけど……でも……」
 よし! 絶対になんかすれ違ってますよねこの会話!
「いやちょっと待ってくれ。何でオレがお前らを憎んでることになってるんだ?」
 オレの言葉を聞いたタストは呆けた顔をしている。そんなに意外だったのだろうか。
「それは、僕らが魔物を虐げているから……」
 それは事実だ。事実だけど、別にオレはこき使われてる魔物を解放するために戦っているわけじゃないんだが。
「別にお前たちを恨んじゃいないぞ」
 ただ単にうっとおしいだけだ。
 オレの言葉を聞いたタストは眼に見えて安堵の表情を作る。何十年も背負っていた荷物を降ろしたようだった。
「そう……なのか? なら、もう戦いをやめてくれるのか?」
「え? 何で? やめないよ?」

 安堵から一転、タストは絶壁から突き落とされたように、絶望そのものを体現する。
 オレからすると何故やめるのかわからないんだが。そんなにおかしなことを言っているだろうか?
「何故?」
 からからになった喉から絞り出したのはか細い疑問。疑問には答えなければならない。
「いや、だってこのまま戦ってれば勝てるし。そもそもオレが止めるって言ったところでそう簡単に止まらないよ」
「そんなことはない! 君の、君の能力なら、なんだってできるだろう!?」
 そこで何を食い違っているのかがようやく鮮明になってきた。こう、どうにもこいつ、オレのことをものすごく強いと勘違いしてないか?
「なあ、そのオレの能力ってなんだよ?」
「だから、魔物を支配する能力だ!」
 ……なにそれ? いつの間にオレはそんなラスボスっぽい洗脳支配能力に目覚めたんだ?
「ちょっと待ってくれ。オレにはそんな能力ないぞ?」
 ごくまっとうな返答のつもりだったけど、タストは幽霊だと信じ込んでいたものがただの壁のシミだったと言われたような、絶対に信じられないという表情をしていた。
「そ、そんなはずはない! 魔物を操れなければあんなに多様な魔物が協力して戦えるはずがない!」
「いや、同盟を結んだり、利害が一致すれば普通に協力できるぞ。そもそもオレが使える魔法はテレパシーただ一つだ」
 むきになって反論するタストに諭すように説明する。
「そ、そんな……いや、ちょっと待ってくれ君、何か嘘をついてくれないか?」
「はあ? 何で?」
「いいから、お願いだ」
「そう言われても……無理だよ」
「どうして!」
「テレパシーじゃ嘘をつけない。ええと、相手に意思そのものを伝えるせいなのか、絶対に嘘をつけない。わざと黙ったり、文字なら偽の情報を書くこともできるけど、テレパシーによる会話なら嘘をつきたくてもつけない」
「そんな……それじゃあ僕の能力の意味は……?」
「え、何その能力って?」
「僕は他人の嘘が見抜けるんだ。僕らを転生させた相手からもらったんだ」
 うーん。地球なら役に立つけど、テレパシーじゃヒトモドキみたいな一部の魔物しか嘘がつけないから微妙な能力だなあ。……なにもないよりはいいけどな。
「それじゃあもしかしてさっきの支配するうんぬんはオレにも連中から与えられた特殊能力があると思ったわけだな?」
 オレが指摘すると、タストは身を震わせて黙った。しゃべらなくても、能力なんかなくてもそれが正解であると予想するのはたやすい。
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