443 / 509
第五章
434 死線
しおりを挟む
「は。銀髪の奴め。味方を捨てやがったな? なるほど。防御よりも攻撃がお望みか」
あっさりと砕け散る敵の姿を見て確信する。恐らく前回の失敗に懲りたのだろう。銀髪といえども全能ではない。その魔法の限界は確かに存在する。
なら、いなくては困るけど、全員生き残っている必要はない歩兵をわざわざ守るのは非効率だ。かわいそうに。どうやら肉の盾らしいな。
必要最低限だけ守って後は自分の力を温存しておくつもりのようだ。さらに歩兵にこちら側の兵器を無駄撃ちさせれば銀髪を攻撃するのも難しくなるか。短期決戦狙いだな。オレの兵器が尽きるのが先か、相手がオレを殺すのが先か。
そうなれば、いかに効率よく敵を殺すかが肝になる。さて、どこを狙うべきか。
「和香。百人ほど出撃。爆弾を駕籠の隊列に向けて一発だけ空爆。他は投石」
「コッコー。銀髪がどこまで守るのか調べるのですね?」
「そういうこと」
こちらの戦術目標を理解してくれることに感謝を感じる。
ヒトモドキの上空を旋回していたカッコウが大地に向けて何かを放す。空という銀髪でさえ手の出しようがない場所からの攻撃は安全かつ脅威的だ。一発の爆弾が炸裂し、投石の一部は前進にかまけて上方不注意だったヒトモドキの頭を砕いた。
しかし爆弾は誰も傷つけなかった。銀髪の魔法である<盾>に防がれていた。ただしその範囲はとても狭く、守れたのはせいぜい一万匹ぐらいだろうか。
この攻撃は線引き。銀髪がどこまで守るつもりなのかを確かめられた。
「樹里、和香。砲撃と爆撃は銀髪を避けて行え」
「ただし、銀髪が盾を張り続ける程度には圧力をかけるのですね」
「その通り」
銀髪が守っている範囲は広くない。だからこそ疲労は最小限に抑えられるし、盾の強度も高いはずだ。それでも何もしないよりは疲れる。そのちょっとが後で戦局を左右すると信じて攻撃を続けさせる。
敵は日が沈み切る前に壁を抜けるつもりだろう。夜になれば暗闇でも動けるこっちが有利なのだから。
命を削ってオレを殺しにくるに違いない。上等だ。こんなところで死ねるか。
タストはいつの間にか額に滲んでいた汗をぬぐいながら次にファティに出す指示を考えていた。
ファティやタストがいるのは数ある駕籠の内の一つだが、その内装はいささか特殊だ。駕籠の内部に部屋が二つあり、奥側には窓や出入り口がなく、外界から隔絶された空間になっている。
こんな奇妙な駕籠になっているのは万が一にもファティの姿を見られないため、それ以上に外の惨状を知られないためだ。
この作戦はとにかく敵も味方も犠牲者が多い。それを知れば彼女がどんな行動に出るのかは読めない。だから……銀の聖女は何も知らせず、知らないまま、この戦いを終わらせる。
それが、誰のためにもなると信じて。
「タスト様。味方の被害は軽微です」
連絡役であるアグルが報告してくる。軽微とはすなわちまだ数千人でしかないということ。地球なら狂乱するほどの犠牲でも、この世界ではごくわずかな犠牲に過ぎない。
「わかりました。このまま引き続き外の様子を報告してください」
アグルは謹厳な態度を崩さずに踵を返す。
アグルとウェングには駕籠を巡回しつつ、戦況を知らせてもらっている。ファティのいない駕籠まで巡ってもらうのはやはり、居場所を隠すためだ。
さらに、とある駕籠だけは他よりも警備が厚く、そこには貴人がいるという噂を流している。事実としてそこには国王がいるのだ。つまり、もしもスパイが紛れ込んでいたとしてもそこに注意を向けるはずだ。
国王でさえ、囮でしかない。もっとも、あの国王なら文句ひとつ言わないかもしれない。むしろ銀の聖女の役に立てたことを誇りに思うだろう。
「タスト。そろそろ射程に入るぞ」
ぼんやりとしているとウェングがいつの間にか正面に座っていた。
「わかったファティに伝える」
条件反射のような返答。もはや思考などしなくても勝手にこの体は動くのではないだろうか。
「なあ、ほんとにいいのか……?」
ウェングのためらいも無理はない。今からやろうとしていることはまっとうな状況なら石を投げつけられるはずの行為だから。
「いいんだ。これしか方法がない」
この数日何度も繰り返してきた言葉をうわ言のようにつぶやく。
そんな自分に何も言えず、ウェングはしばらく座っていたような気がしたが、いつの間にかいなくなっていた。
あっさりと砕け散る敵の姿を見て確信する。恐らく前回の失敗に懲りたのだろう。銀髪といえども全能ではない。その魔法の限界は確かに存在する。
なら、いなくては困るけど、全員生き残っている必要はない歩兵をわざわざ守るのは非効率だ。かわいそうに。どうやら肉の盾らしいな。
必要最低限だけ守って後は自分の力を温存しておくつもりのようだ。さらに歩兵にこちら側の兵器を無駄撃ちさせれば銀髪を攻撃するのも難しくなるか。短期決戦狙いだな。オレの兵器が尽きるのが先か、相手がオレを殺すのが先か。
そうなれば、いかに効率よく敵を殺すかが肝になる。さて、どこを狙うべきか。
「和香。百人ほど出撃。爆弾を駕籠の隊列に向けて一発だけ空爆。他は投石」
「コッコー。銀髪がどこまで守るのか調べるのですね?」
「そういうこと」
こちらの戦術目標を理解してくれることに感謝を感じる。
ヒトモドキの上空を旋回していたカッコウが大地に向けて何かを放す。空という銀髪でさえ手の出しようがない場所からの攻撃は安全かつ脅威的だ。一発の爆弾が炸裂し、投石の一部は前進にかまけて上方不注意だったヒトモドキの頭を砕いた。
しかし爆弾は誰も傷つけなかった。銀髪の魔法である<盾>に防がれていた。ただしその範囲はとても狭く、守れたのはせいぜい一万匹ぐらいだろうか。
この攻撃は線引き。銀髪がどこまで守るつもりなのかを確かめられた。
「樹里、和香。砲撃と爆撃は銀髪を避けて行え」
「ただし、銀髪が盾を張り続ける程度には圧力をかけるのですね」
「その通り」
銀髪が守っている範囲は広くない。だからこそ疲労は最小限に抑えられるし、盾の強度も高いはずだ。それでも何もしないよりは疲れる。そのちょっとが後で戦局を左右すると信じて攻撃を続けさせる。
敵は日が沈み切る前に壁を抜けるつもりだろう。夜になれば暗闇でも動けるこっちが有利なのだから。
命を削ってオレを殺しにくるに違いない。上等だ。こんなところで死ねるか。
タストはいつの間にか額に滲んでいた汗をぬぐいながら次にファティに出す指示を考えていた。
ファティやタストがいるのは数ある駕籠の内の一つだが、その内装はいささか特殊だ。駕籠の内部に部屋が二つあり、奥側には窓や出入り口がなく、外界から隔絶された空間になっている。
こんな奇妙な駕籠になっているのは万が一にもファティの姿を見られないため、それ以上に外の惨状を知られないためだ。
この作戦はとにかく敵も味方も犠牲者が多い。それを知れば彼女がどんな行動に出るのかは読めない。だから……銀の聖女は何も知らせず、知らないまま、この戦いを終わらせる。
それが、誰のためにもなると信じて。
「タスト様。味方の被害は軽微です」
連絡役であるアグルが報告してくる。軽微とはすなわちまだ数千人でしかないということ。地球なら狂乱するほどの犠牲でも、この世界ではごくわずかな犠牲に過ぎない。
「わかりました。このまま引き続き外の様子を報告してください」
アグルは謹厳な態度を崩さずに踵を返す。
アグルとウェングには駕籠を巡回しつつ、戦況を知らせてもらっている。ファティのいない駕籠まで巡ってもらうのはやはり、居場所を隠すためだ。
さらに、とある駕籠だけは他よりも警備が厚く、そこには貴人がいるという噂を流している。事実としてそこには国王がいるのだ。つまり、もしもスパイが紛れ込んでいたとしてもそこに注意を向けるはずだ。
国王でさえ、囮でしかない。もっとも、あの国王なら文句ひとつ言わないかもしれない。むしろ銀の聖女の役に立てたことを誇りに思うだろう。
「タスト。そろそろ射程に入るぞ」
ぼんやりとしているとウェングがいつの間にか正面に座っていた。
「わかったファティに伝える」
条件反射のような返答。もはや思考などしなくても勝手にこの体は動くのではないだろうか。
「なあ、ほんとにいいのか……?」
ウェングのためらいも無理はない。今からやろうとしていることはまっとうな状況なら石を投げつけられるはずの行為だから。
「いいんだ。これしか方法がない」
この数日何度も繰り返してきた言葉をうわ言のようにつぶやく。
そんな自分に何も言えず、ウェングはしばらく座っていたような気がしたが、いつの間にかいなくなっていた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~
Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。
彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。
「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」
そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。
「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」
正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。
いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。
春乞いの国
綿入しずる
ファンタジー
その国では季節は巡るものではなく、掴み取るものである。
ユフト・エスカーヤ――北の央国で今年も冬の百二十一日が過ぎ、春告げの儀式が始まった。
一人の神官と四人の男たち、三頭の大熊。王子の命を受けた春告げの使者は神に贈られた〝春〟を探すべく、聖山ボフバロータへと赴く。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる
ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。
モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。
実は前世が剣聖の俺。
剣を持てば最強だ。
最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。
ナポレオンの妊活・立会い出産・子育て
せりもも
歴史・時代
帝国の皇子に必要なのは、高貴なる青き血。40歳を過ぎた皇帝ナポレオンは、早急に子宮と結婚する必要があった。だがその前に、彼は、既婚者だった……。ローマ王(ナポレオン2世 ライヒシュタット公)の両親の結婚から、彼がウィーンへ幽閉されるまでを、史実に忠実に描きます。
カクヨムから、一部転載
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる