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第五章
425 空っぽの心臓
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「空。どうだ? 熱いか?」
「熱くはありません。やはり体温より少し温かい程度かと」
ふうん。巨人が動かない夜にラプトルなどを近づかせて調査を開始させた。
恐らく巨人が到達するまであと二日か三日。時間はない。
あの巨体だと、本来なら難所であるはずの山でさえ難なく乗り越えるだろう。何としても今晩中に対策を見つけないといけない。
「触った感触はどうだ?」
「どうにも表現が難しいです。何かあるはずですが、何もないような、虚空に触れているようです」
ふむ。触った感触はそんなもんか。硬い、というより感触がまるでないようだ。
「じゃ、次の実験だ。火を近づけてくれ」
松明を掲げた蟻が巨人にその松明を押し当てる。すると炎は吸い込まれるようにふっと掻き消えた。
「次はユーカリだ」
「は」
まず実験として鷲が運んできてくれたユーカリを使う。
ユーカリの葉だけを巨人に当てて、その枝を燃やす。本来ならここでユーカリの魔法が発動して、葉は燃えるはず。
……しかしはっぱはうんともすんともいわない。
間違いなさそうだ。この巨人の能力。
「エネルギーの吸収だな」
「エネルギーの吸収? それは一体?」
「言葉通りだよ空。物理的な衝撃や、熱を吸収して自分のエネルギーにしてしまう能力」
「それはつまり、攻撃すればするほど相手が強くなるということですか?」
「少なくとも攻撃すればするほどあいつの動力になるわけだからな。結果的に強くなるのと変わらん」
なんとまあ厄介な能力だ。
どんなに強い攻撃でも逆効果になってしまう。能力がわからないままだと躍起になって強力な攻撃を繰り出して……その繰り返しになるだろう。
「比較できないほど強力ですが、カンガルーの魔法に似ていますね」
「まあな。あれは運動エネルギーの吸収だったけど」
「であれば、対策も同じものが使えますか?」
「一応な。相手がエネルギーを吸収するならこっちがそれ以上のエネルギーを叩きこめばいい」
「……できますか?」
「無理」
あの巨人に対してはすでに最強の攻撃である爆弾を使用している。それでも全く動じていないのだ。奴の限界がわからないからこれ以上強引な攻撃は無意味だ。
「他の方法としては、相手が吸収できないエネルギーを使うことだな」
電気とか、放射線なら、もしかしたら通じるかもしれない。光は吸収しているだろうな。体が黒いし。
「それは、実行可能なのですか?」
「無理。今の時点じゃなあ」
西藍の奴らが味方だったらともかく、発電は厳しい。放射線とか無理無理無理。
「では、どうすれば……?」
「そうだな。こっちも敵のエネルギーを吸収しよう」
「そのようなことが?」
「できるよ。あの巨人を徹底的に冷やせばいい」
氷が何故溶けるかというと、氷が空気や水、体温などの熱エネルギーを奪うからだ。熱力学の基本法則としてエネルギーは平らになろうとする。
つまり熱ければやがて冷め、冷たければやがてぬるくなる。その単純な法則は巨人でさえ逃れられない。
その証拠に巨人が運んでいた海水はやや温度が高かった。巨人の熱エネルギーが水に移動したのだ。
ここからは大雑把な推測になるけど、あの巨人はエネルギーを吸収し、それを熱に変換し、貯蓄しているのではないだろうか。そして巨人が何かを動かす場合、その熱を消費して動力源にしている。
つまり冷やせばそれだけ動きが鈍くなるはず。問題なのは――――。
「敵がどれほどの熱量を抱えているか、ですか?」
「そうだよなあ。どれくらい冷やせば倒せるのかわからない」
体がでかいということは容量も大きいということ。熱を保存する能力があると仮定すると、あの巨人そのものが巨大なバッテリーのようなものだ。
ちょっとやそっとのエネルギーではない。
「だからもう一手。あいつを倒す戦略が必要だ」
「まだ、何か?」
「ああ。あの巨人が一体何でできているか、だ」
「あの体ですか? とてもこの世の物とは思えませんが」
「いいや。あれは必ずこの世に存在する物質だ。そうじゃなきゃいけない」
あの巨人は熱力学のくびきからは逃れられていない。なら、物理法則を超越した超常の存在ではない。
そもそもの問題としてエネルギーを吸収するなんてことをしている時点で万能ではない。真に万能であればただ自身から発生させるエネルギーだけですべてを解決できるはずなのだ。つまりエネルギー保存則も有効である。
いやまあ、あの巨人を出現させる最初のエネルギーは銀髪だけで賄っているはずだから、やっぱり銀髪自身のエネルギーはどっから持ってきているのかはわからん。
何にせよ、絶対に通常の物質である。それを解き明かせば……あの巨人に対抗する手段が産まれるはずだ。
おおよその推測はできている。そして弱点を突くために今ここにいない魔物の力が必要だ。
あいつらには何度も往復してもらって申し訳ないけれど、あの機動力は奴らしか持っていない。
さて、ではみんなの力を合わせて戦うとしましょうか。
「熱くはありません。やはり体温より少し温かい程度かと」
ふうん。巨人が動かない夜にラプトルなどを近づかせて調査を開始させた。
恐らく巨人が到達するまであと二日か三日。時間はない。
あの巨体だと、本来なら難所であるはずの山でさえ難なく乗り越えるだろう。何としても今晩中に対策を見つけないといけない。
「触った感触はどうだ?」
「どうにも表現が難しいです。何かあるはずですが、何もないような、虚空に触れているようです」
ふむ。触った感触はそんなもんか。硬い、というより感触がまるでないようだ。
「じゃ、次の実験だ。火を近づけてくれ」
松明を掲げた蟻が巨人にその松明を押し当てる。すると炎は吸い込まれるようにふっと掻き消えた。
「次はユーカリだ」
「は」
まず実験として鷲が運んできてくれたユーカリを使う。
ユーカリの葉だけを巨人に当てて、その枝を燃やす。本来ならここでユーカリの魔法が発動して、葉は燃えるはず。
……しかしはっぱはうんともすんともいわない。
間違いなさそうだ。この巨人の能力。
「エネルギーの吸収だな」
「エネルギーの吸収? それは一体?」
「言葉通りだよ空。物理的な衝撃や、熱を吸収して自分のエネルギーにしてしまう能力」
「それはつまり、攻撃すればするほど相手が強くなるということですか?」
「少なくとも攻撃すればするほどあいつの動力になるわけだからな。結果的に強くなるのと変わらん」
なんとまあ厄介な能力だ。
どんなに強い攻撃でも逆効果になってしまう。能力がわからないままだと躍起になって強力な攻撃を繰り出して……その繰り返しになるだろう。
「比較できないほど強力ですが、カンガルーの魔法に似ていますね」
「まあな。あれは運動エネルギーの吸収だったけど」
「であれば、対策も同じものが使えますか?」
「一応な。相手がエネルギーを吸収するならこっちがそれ以上のエネルギーを叩きこめばいい」
「……できますか?」
「無理」
あの巨人に対してはすでに最強の攻撃である爆弾を使用している。それでも全く動じていないのだ。奴の限界がわからないからこれ以上強引な攻撃は無意味だ。
「他の方法としては、相手が吸収できないエネルギーを使うことだな」
電気とか、放射線なら、もしかしたら通じるかもしれない。光は吸収しているだろうな。体が黒いし。
「それは、実行可能なのですか?」
「無理。今の時点じゃなあ」
西藍の奴らが味方だったらともかく、発電は厳しい。放射線とか無理無理無理。
「では、どうすれば……?」
「そうだな。こっちも敵のエネルギーを吸収しよう」
「そのようなことが?」
「できるよ。あの巨人を徹底的に冷やせばいい」
氷が何故溶けるかというと、氷が空気や水、体温などの熱エネルギーを奪うからだ。熱力学の基本法則としてエネルギーは平らになろうとする。
つまり熱ければやがて冷め、冷たければやがてぬるくなる。その単純な法則は巨人でさえ逃れられない。
その証拠に巨人が運んでいた海水はやや温度が高かった。巨人の熱エネルギーが水に移動したのだ。
ここからは大雑把な推測になるけど、あの巨人はエネルギーを吸収し、それを熱に変換し、貯蓄しているのではないだろうか。そして巨人が何かを動かす場合、その熱を消費して動力源にしている。
つまり冷やせばそれだけ動きが鈍くなるはず。問題なのは――――。
「敵がどれほどの熱量を抱えているか、ですか?」
「そうだよなあ。どれくらい冷やせば倒せるのかわからない」
体がでかいということは容量も大きいということ。熱を保存する能力があると仮定すると、あの巨人そのものが巨大なバッテリーのようなものだ。
ちょっとやそっとのエネルギーではない。
「だからもう一手。あいつを倒す戦略が必要だ」
「まだ、何か?」
「ああ。あの巨人が一体何でできているか、だ」
「あの体ですか? とてもこの世の物とは思えませんが」
「いいや。あれは必ずこの世に存在する物質だ。そうじゃなきゃいけない」
あの巨人は熱力学のくびきからは逃れられていない。なら、物理法則を超越した超常の存在ではない。
そもそもの問題としてエネルギーを吸収するなんてことをしている時点で万能ではない。真に万能であればただ自身から発生させるエネルギーだけですべてを解決できるはずなのだ。つまりエネルギー保存則も有効である。
いやまあ、あの巨人を出現させる最初のエネルギーは銀髪だけで賄っているはずだから、やっぱり銀髪自身のエネルギーはどっから持ってきているのかはわからん。
何にせよ、絶対に通常の物質である。それを解き明かせば……あの巨人に対抗する手段が産まれるはずだ。
おおよその推測はできている。そして弱点を突くために今ここにいない魔物の力が必要だ。
あいつらには何度も往復してもらって申し訳ないけれど、あの機動力は奴らしか持っていない。
さて、ではみんなの力を合わせて戦うとしましょうか。
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