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第五章
417 どこへ行くのか
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「具体的にどういう作戦にするかはまだ決まっていないけどお前たちにはクワイの国王を誘拐してもらおうと思う」
「重大な任務ですよね」
「かなり」
銀髪を倒すのはほぼ無理だろう。でもこのままではいずれ銀髪がエミシに襲いかかるのは避けられない。何とかして人質として価値のある誰かを捕縛する必要がある。
教皇、もしくは国王。そのどちらかを銀髪への抑止力にする。もうこれくらいしか思いつかない。
「今でも銀髪の居場所は全く見つかっていないんですか?」
「影も形もない。ずっと探してるんだけどな」
教都チャンガンで消息を絶ってから一切音沙汰がない。ここまで何もないとなるとオレたちの、というかカッコウの情報収集対策を行っているのだろう。
「銀髪が見つかるまでお前たちは偽銀の聖女として手駒を増やしてもらうぞ」
「お任せください。もうあいつの手管は学び終えました」
「はい。僕もお手伝いできるはずです」
頼もしいね。
あとどれくらい時間があるかはわからないけど一つでも多くの課題をこなさないとな。
ヒトモドキの侵攻に対して最も尽力しているのが誰なのかを決めることはできない。しかし銀髪の捜索に対して最も力を入れているのはカッコウの和香だろう。
だからこそこうして今日も和香とテレパシー会議を開催している。
「コッコー。銀髪を見かけたという噂があった報告ならあります」
「噂、なのか?」
「コッコー。ただの噂です。ただし自然発生したのか人為的にばらまかれたのか判断できません」
前者ならたまたまで片づけられるけど、後者だと厄介だ。クワイの上層部にカッコウの情報収集力を理解して、なおかつその対策を練っている奴がいる証拠だからな。
「でも、逆にそうした噂を意図的に流したのなら、銀髪の居場所を隠したがってるってこと? やっぱりどっかの軍に紛れ込んでるのかな?」
木を隠すなら森。人を隠すなら人の中。一兵卒として銀髪たちが身を隠している可能性はあった。
「コッコー。ですがあの目立つ銀髪が国王や教皇と一緒に行動していて隠れられるでしょうか」
「言われてみればそれもそうか。あいつや王様がいれば嫌でも目立つな」
駕籠にでも乗ればかなり隠れられるだろうけど、そんな駕籠が列を作っていれば余計に目立つ。
いっそ銀髪にかつらでもつけて黒髪にすれば……あ、ダメだな。銀髪を隠すなんてとんでもないとか言い出す未来しか見えん。
とにもかくにもセイノス教というシステムは隠密行動と相性が悪い。徹底的に上位存在を敬い、崇め奉るが、それらを前面に押し出すきらいがある。
本当に隠さなければいけないものは隠すのではなく、自分にとって都合のいい解釈にゆがめてしまう。隠すのではなく厚化粧でごまかして開きなおるのがセイノス教のやり口だ。
だから、こそこそと銀髪が隠れている姿がイマイチしっくりこない。
隠れてもいないのに格好の監視を掻い潜る方法があるのだろうか? もちろんカッコウだって完璧じゃないからどこかに見落としはあるかもしれない。
「いっそ荷物に紛れ込むとかいうことはないかな?」
「コッコー。否定できませんが、奴らが銀髪や国王をそのように扱うでしょうか?」
「それもそうだよなあ」
この世界にはトラックみたいな大荷物を載せられる車はない。数人を隠せるような乗り物は駕籠くらいしかない。琴音たちの魔物殺そうぜキャンペーンのおかげで運搬用の魔物さえ少なくなっているくらいだし。めちゃくちゃ狭い荷台に押し込むなんてしないだろう。というか国王だって積み荷扱いは嫌だろう多分。
「コッコー。それに樹海に向かう荷物は概ねチェックしてあります。怪しい積み荷はないかと」
「まじか」
「コッコー。荷物にせよ、生き物にせよ、動きには流れがあります。その流れを見極めれば何がどこを通るのかはおのずとわかります。そしてその流れに沿って監視を置けば見逃すことはありません」
お、おう。
よくわからんがこいつ流通のプロとしての素質もあるのか? そう言われると反論できないな。
ただ……ちょっと気になることがある。
「和香。お前は樹海側に近づく荷物を見張っているみたいだったけど、そうじゃない荷物は見張っているのか?」
「コッコー。人数が足りないのでそれはできません。樹海に近い場所を重点的に見張っています。ですが迂回したり、新しい道を作ろうとするなら必ず気づきます」
カッコウの数は膨大だ。ただし和香が完全に支配下に置いているカッコウより、たまに情報交換をするような関係のカッコウが多い。
だからこそちゃんと見張らなければならない場所を任せられる部下はそこまで多くない。それらの人員を上手く使うことも和香の優秀さの証明だけど、同時にすべての情報を完全に入手することは不可能だという証明でもある。なにごとも完全なリスクゼロにすることは不可能だ。
なら……。
「なあ、オレたちの樹海から遠ざかっている荷物や人員はいるのか?」
「コッコー。存在しますが、何らかの理由があるようです」
むう。やっぱりあるのか。
一見無謀な国民全てがオレたちの討伐に向かうという暴挙は単純な戦力だけではなく、人の移動をわかりにくくするという働きもある。
「そのオレたちから遠ざかっている荷物はどこに向かっているかわかるか?」
「特に教都チャンガンより西、および南の地域で何らかのモノの流れがありますが、恐らく樹海にはむかっていません」
教都チャンガンは樹海の西にある。となると必然的にそこから西や南に向かって妙な物流があるのか? もう少し西に行くと王都ハンシェン。さらに思いっきり西に行くとスーサンか。もしも敵が西に大移動を行うとすれば……国外逃亡でも目論んでいることになるのか? それはないな。
南は……ラオ……はもっと東。ラオの前に草原がある。草原は空率いるラプトル部隊が見張っている。大軍どころか少人数の移動でさえ確実に見つけられるはずだ。
そもそも教都や王都の南には小さな領がぽつぽつとあるだけで目立った拠点はないはず。
さらに南に向かっても何もないはずだ。本当に? 本当に何もないのか?
どうしようもない靄のような疑問だけが取り残されている気がした。
「重大な任務ですよね」
「かなり」
銀髪を倒すのはほぼ無理だろう。でもこのままではいずれ銀髪がエミシに襲いかかるのは避けられない。何とかして人質として価値のある誰かを捕縛する必要がある。
教皇、もしくは国王。そのどちらかを銀髪への抑止力にする。もうこれくらいしか思いつかない。
「今でも銀髪の居場所は全く見つかっていないんですか?」
「影も形もない。ずっと探してるんだけどな」
教都チャンガンで消息を絶ってから一切音沙汰がない。ここまで何もないとなるとオレたちの、というかカッコウの情報収集対策を行っているのだろう。
「銀髪が見つかるまでお前たちは偽銀の聖女として手駒を増やしてもらうぞ」
「お任せください。もうあいつの手管は学び終えました」
「はい。僕もお手伝いできるはずです」
頼もしいね。
あとどれくらい時間があるかはわからないけど一つでも多くの課題をこなさないとな。
ヒトモドキの侵攻に対して最も尽力しているのが誰なのかを決めることはできない。しかし銀髪の捜索に対して最も力を入れているのはカッコウの和香だろう。
だからこそこうして今日も和香とテレパシー会議を開催している。
「コッコー。銀髪を見かけたという噂があった報告ならあります」
「噂、なのか?」
「コッコー。ただの噂です。ただし自然発生したのか人為的にばらまかれたのか判断できません」
前者ならたまたまで片づけられるけど、後者だと厄介だ。クワイの上層部にカッコウの情報収集力を理解して、なおかつその対策を練っている奴がいる証拠だからな。
「でも、逆にそうした噂を意図的に流したのなら、銀髪の居場所を隠したがってるってこと? やっぱりどっかの軍に紛れ込んでるのかな?」
木を隠すなら森。人を隠すなら人の中。一兵卒として銀髪たちが身を隠している可能性はあった。
「コッコー。ですがあの目立つ銀髪が国王や教皇と一緒に行動していて隠れられるでしょうか」
「言われてみればそれもそうか。あいつや王様がいれば嫌でも目立つな」
駕籠にでも乗ればかなり隠れられるだろうけど、そんな駕籠が列を作っていれば余計に目立つ。
いっそ銀髪にかつらでもつけて黒髪にすれば……あ、ダメだな。銀髪を隠すなんてとんでもないとか言い出す未来しか見えん。
とにもかくにもセイノス教というシステムは隠密行動と相性が悪い。徹底的に上位存在を敬い、崇め奉るが、それらを前面に押し出すきらいがある。
本当に隠さなければいけないものは隠すのではなく、自分にとって都合のいい解釈にゆがめてしまう。隠すのではなく厚化粧でごまかして開きなおるのがセイノス教のやり口だ。
だから、こそこそと銀髪が隠れている姿がイマイチしっくりこない。
隠れてもいないのに格好の監視を掻い潜る方法があるのだろうか? もちろんカッコウだって完璧じゃないからどこかに見落としはあるかもしれない。
「いっそ荷物に紛れ込むとかいうことはないかな?」
「コッコー。否定できませんが、奴らが銀髪や国王をそのように扱うでしょうか?」
「それもそうだよなあ」
この世界にはトラックみたいな大荷物を載せられる車はない。数人を隠せるような乗り物は駕籠くらいしかない。琴音たちの魔物殺そうぜキャンペーンのおかげで運搬用の魔物さえ少なくなっているくらいだし。めちゃくちゃ狭い荷台に押し込むなんてしないだろう。というか国王だって積み荷扱いは嫌だろう多分。
「コッコー。それに樹海に向かう荷物は概ねチェックしてあります。怪しい積み荷はないかと」
「まじか」
「コッコー。荷物にせよ、生き物にせよ、動きには流れがあります。その流れを見極めれば何がどこを通るのかはおのずとわかります。そしてその流れに沿って監視を置けば見逃すことはありません」
お、おう。
よくわからんがこいつ流通のプロとしての素質もあるのか? そう言われると反論できないな。
ただ……ちょっと気になることがある。
「和香。お前は樹海側に近づく荷物を見張っているみたいだったけど、そうじゃない荷物は見張っているのか?」
「コッコー。人数が足りないのでそれはできません。樹海に近い場所を重点的に見張っています。ですが迂回したり、新しい道を作ろうとするなら必ず気づきます」
カッコウの数は膨大だ。ただし和香が完全に支配下に置いているカッコウより、たまに情報交換をするような関係のカッコウが多い。
だからこそちゃんと見張らなければならない場所を任せられる部下はそこまで多くない。それらの人員を上手く使うことも和香の優秀さの証明だけど、同時にすべての情報を完全に入手することは不可能だという証明でもある。なにごとも完全なリスクゼロにすることは不可能だ。
なら……。
「なあ、オレたちの樹海から遠ざかっている荷物や人員はいるのか?」
「コッコー。存在しますが、何らかの理由があるようです」
むう。やっぱりあるのか。
一見無謀な国民全てがオレたちの討伐に向かうという暴挙は単純な戦力だけではなく、人の移動をわかりにくくするという働きもある。
「そのオレたちから遠ざかっている荷物はどこに向かっているかわかるか?」
「特に教都チャンガンより西、および南の地域で何らかのモノの流れがありますが、恐らく樹海にはむかっていません」
教都チャンガンは樹海の西にある。となると必然的にそこから西や南に向かって妙な物流があるのか? もう少し西に行くと王都ハンシェン。さらに思いっきり西に行くとスーサンか。もしも敵が西に大移動を行うとすれば……国外逃亡でも目論んでいることになるのか? それはないな。
南は……ラオ……はもっと東。ラオの前に草原がある。草原は空率いるラプトル部隊が見張っている。大軍どころか少人数の移動でさえ確実に見つけられるはずだ。
そもそも教都や王都の南には小さな領がぽつぽつとあるだけで目立った拠点はないはず。
さらに南に向かっても何もないはずだ。本当に? 本当に何もないのか?
どうしようもない靄のような疑問だけが取り残されている気がした。
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