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第五章
385 蜜と嵐
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西藍との戦いから数日。異変に気付いたのはやはりカッコウたちだった。
「コッコー。ミツオシエが発見されました」
ミツオシエは鳥の魔物でラーテルにとって相棒のような存在であり、今のところミツオシエが単一種族のみで活動している姿は確認されていない。つまり近くにラーテルがいる可能性は高い。
「だー! この面倒な時にラーテルまで来たのか!? 場所はどこだ!?」
「コッコー。樹海の北方です」
「ああ!? 北ぁ!?」
異常事態だ。樹海の北方には寒冷に強い樹木や、木々がまばらな草原がある。あまり農業には向かない土地だから、それほど開発は進んでいないし、そもそも魔物は全般的に寒さに弱いためあまり防備を整えていない。ヒトモドキも北方には住んでいないので、恐らくそこからは侵攻してこないだろうと踏んでいた。
つまり、意図的に防御の弱い地域から侵攻している可能性を否定できない。
「千尋とつ……空を北方に! ヒトモドキの侵攻は他の奴に任せていい! 銀髪さえいなきゃどうにかなる!」
ヒトモドキは徐々に樹海に侵攻しつつあるけど、大軍で、しかも食料などを積み込んでいるので足は遅い。速攻でラーテルを片付けてしまえば間に合うはずだ。
しかしその予想は甘かった。
大地を踏みしめる魔軍の群れは整然と、粛々と行進する。
混濁した種族が一つの生き物のように突き進む様子は異様だった。しかしその群れが進むところには血と破壊の跡しか残らず、漂白されるように生物の痕跡さえ消えていった。
そしてやはりその中心には小山のような巨躯を誇るラーテルが生きとし生けるもの全てを憎むように全てを見下ろしていた。
千尋からの報告を受けとりつつ、楽観的過ぎたことを後悔してしまう。
「敵は複数の魔物の混成軍。ただし、以前のラーテルと戦った時と違い、明らかに統率がとれておる」
「ラーテルはいるんだな?」
「少なくとも一頭。足跡などから推測すると一頭だけではないようだのう」
複数のラーテルが魔物を率いている。それだけでも驚異的だけど、やはりこれはどう見ても計画的だ。
北方の警戒が緩いことを見越し、なおかつぎりぎりで暖かくなる季節を待って進行する。もしかしたらクワイの動向も考えてのことかもしれない。熟慮を重ね、こちらの弱点をちゃんと調べている。つまり。
「こいつらは以前オレたちと戦ったことがあるな」
「であるな。親の仇討ちといったところか」
以前三頭のラーテルと戦い、結果として一頭の親ラーテルを殺したものの、子供の二頭は逃してしまった。そいつらが満を持してオレを殺しに来たというわけだ。
「健気だな。じゃあ、今度こそきちんと殺さないと」
殊勝な心掛けに感心はするけどだからと言って見逃せばますます被害が出る。手早く殺すべきだ。それは千尋も全くの同感らしい。
「うむ。爆弾の予備はあるのだろう?」
「もちろん」
銀髪に対して使ったし、これからも必要な量はあるけど、ここでケチってはいられない。……まあそもそも銀髪の巨人に対して爆弾が有効じゃないっていうのもあるけど。
「今爆弾を輸送する手配をしてる。だからそれまで――――」
「急報」
いきなり遮られた会話。どうやらまたトラブルらしい。
「どうした」
「南にある硝酸の保管施設などが攻撃を受けています」
「はあ!?」
狸のトイレから採取した硝酸などを運び、さらに種々の化合物と合成するための工業地帯に近い場所は樹海の南方に存在する。デファイ・アントに必要な水素を作るための海藻の試験栽培場もそこにある。
しかしきちんと防備は整えているし、またそうそう簡単に見つけられない場所でもある。
しかし、空からカッコウの監視を掻い潜れるほどの魔物がいたとすれば?
「攻めている魔物はどいつだ!? どこから来た!?」
「ラーテルを筆頭に複数の魔物が存在します。数は多くありませんが、質においては精強です。侵入経路は不明です」
やられた。北方の軍隊は囮。
本命はオレたちの武器である爆弾を潰すこと。いや、もしかすると。
「壊す、のではなく奪うつもりかもしれんのう」
千尋の想像は最悪の上を行っている。壊されるだけならいい。しかしラーテルがミツオシエなどに爆弾を投下させればオレたちの本拠地は壊滅しかねない。
戦争においてもっとも恐るべきことは自分たちの力を奪われることだ。ヒトモドキにはそれがない。奴らは狭苦しい教義に縛られているから武器を使うという発想がなく、ましてや奪おうという思考には絶対にたどり着かない。
だから油断してしまっていた。敵が重要な施設や物品をピンポイントで狙ってくるとは予想できなかった。
「……ラーテルの頭の良さはわかってるつもりだったけどな……いつもいつも予想を超えてくるじゃねえか」
「どうするつもりだ?」
「こっちはオレが対処する。どれだけ最悪でも爆弾は奪わせない」
「うむ」
千尋はそれきり無駄な通信をしない。信用されている……でいいんだよな。
いずれにせよ、ここで食い止めなければ銀髪と戦う前にゲームオーバーになりかねなかった。
「コッコー。ミツオシエが発見されました」
ミツオシエは鳥の魔物でラーテルにとって相棒のような存在であり、今のところミツオシエが単一種族のみで活動している姿は確認されていない。つまり近くにラーテルがいる可能性は高い。
「だー! この面倒な時にラーテルまで来たのか!? 場所はどこだ!?」
「コッコー。樹海の北方です」
「ああ!? 北ぁ!?」
異常事態だ。樹海の北方には寒冷に強い樹木や、木々がまばらな草原がある。あまり農業には向かない土地だから、それほど開発は進んでいないし、そもそも魔物は全般的に寒さに弱いためあまり防備を整えていない。ヒトモドキも北方には住んでいないので、恐らくそこからは侵攻してこないだろうと踏んでいた。
つまり、意図的に防御の弱い地域から侵攻している可能性を否定できない。
「千尋とつ……空を北方に! ヒトモドキの侵攻は他の奴に任せていい! 銀髪さえいなきゃどうにかなる!」
ヒトモドキは徐々に樹海に侵攻しつつあるけど、大軍で、しかも食料などを積み込んでいるので足は遅い。速攻でラーテルを片付けてしまえば間に合うはずだ。
しかしその予想は甘かった。
大地を踏みしめる魔軍の群れは整然と、粛々と行進する。
混濁した種族が一つの生き物のように突き進む様子は異様だった。しかしその群れが進むところには血と破壊の跡しか残らず、漂白されるように生物の痕跡さえ消えていった。
そしてやはりその中心には小山のような巨躯を誇るラーテルが生きとし生けるもの全てを憎むように全てを見下ろしていた。
千尋からの報告を受けとりつつ、楽観的過ぎたことを後悔してしまう。
「敵は複数の魔物の混成軍。ただし、以前のラーテルと戦った時と違い、明らかに統率がとれておる」
「ラーテルはいるんだな?」
「少なくとも一頭。足跡などから推測すると一頭だけではないようだのう」
複数のラーテルが魔物を率いている。それだけでも驚異的だけど、やはりこれはどう見ても計画的だ。
北方の警戒が緩いことを見越し、なおかつぎりぎりで暖かくなる季節を待って進行する。もしかしたらクワイの動向も考えてのことかもしれない。熟慮を重ね、こちらの弱点をちゃんと調べている。つまり。
「こいつらは以前オレたちと戦ったことがあるな」
「であるな。親の仇討ちといったところか」
以前三頭のラーテルと戦い、結果として一頭の親ラーテルを殺したものの、子供の二頭は逃してしまった。そいつらが満を持してオレを殺しに来たというわけだ。
「健気だな。じゃあ、今度こそきちんと殺さないと」
殊勝な心掛けに感心はするけどだからと言って見逃せばますます被害が出る。手早く殺すべきだ。それは千尋も全くの同感らしい。
「うむ。爆弾の予備はあるのだろう?」
「もちろん」
銀髪に対して使ったし、これからも必要な量はあるけど、ここでケチってはいられない。……まあそもそも銀髪の巨人に対して爆弾が有効じゃないっていうのもあるけど。
「今爆弾を輸送する手配をしてる。だからそれまで――――」
「急報」
いきなり遮られた会話。どうやらまたトラブルらしい。
「どうした」
「南にある硝酸の保管施設などが攻撃を受けています」
「はあ!?」
狸のトイレから採取した硝酸などを運び、さらに種々の化合物と合成するための工業地帯に近い場所は樹海の南方に存在する。デファイ・アントに必要な水素を作るための海藻の試験栽培場もそこにある。
しかしきちんと防備は整えているし、またそうそう簡単に見つけられない場所でもある。
しかし、空からカッコウの監視を掻い潜れるほどの魔物がいたとすれば?
「攻めている魔物はどいつだ!? どこから来た!?」
「ラーテルを筆頭に複数の魔物が存在します。数は多くありませんが、質においては精強です。侵入経路は不明です」
やられた。北方の軍隊は囮。
本命はオレたちの武器である爆弾を潰すこと。いや、もしかすると。
「壊す、のではなく奪うつもりかもしれんのう」
千尋の想像は最悪の上を行っている。壊されるだけならいい。しかしラーテルがミツオシエなどに爆弾を投下させればオレたちの本拠地は壊滅しかねない。
戦争においてもっとも恐るべきことは自分たちの力を奪われることだ。ヒトモドキにはそれがない。奴らは狭苦しい教義に縛られているから武器を使うという発想がなく、ましてや奪おうという思考には絶対にたどり着かない。
だから油断してしまっていた。敵が重要な施設や物品をピンポイントで狙ってくるとは予想できなかった。
「……ラーテルの頭の良さはわかってるつもりだったけどな……いつもいつも予想を超えてくるじゃねえか」
「どうするつもりだ?」
「こっちはオレが対処する。どれだけ最悪でも爆弾は奪わせない」
「うむ」
千尋はそれきり無駄な通信をしない。信用されている……でいいんだよな。
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